上 下
176 / 339
第7話:目指すは皇都惑星

#06

しおりを挟む
 
 翌日、皇国暦1563年4月14日。ウォーダ家上洛軍は惑星リシュージンを離れて、皇都惑星キヨウへの旅を開始する。

 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガは三人の直臣と共に、上洛軍後詰め部隊のツェルオーキ=イクェルダ率いる第12艦隊に預けられた。前衛部隊や主力部隊はこの先、ロッガ家との戦闘になる可能性が高いからである。
 その一方で、本来は星帥皇室配下ではなく、浪人のミディルツ・ヒュウム=アルケティは、ノヴァルナの参謀扱いとして『ヒテン』艦橋に乗り込んでいた。

 このウォーダ家の動きに対して、早くもエルヴィスの星帥皇室から警告が発せられ、即時軍を撤収させ、ジョシュアとその一党を『皇国中央評議会』に引き渡すように、命令が発せられた。無論ノヴァルナには、端からそのような命令に従うつもりはない。

「んなもん、ほっとけほっとけ」

 司令官席で右手をひらひらさせてノヴァルナは、皇国からの命令文を届けに来た副官のランに告げ、他の上洛軍の進発準備を急ぐように続けた。今回はバサラナルムの時のように、全部の艦隊が惑星リシュージンの衛星軌道上に停泊しているのではなく、ノヴァルナの第1艦隊とジョシュアを乗せる第12艦隊しかいない。残りの艦隊は航行開始順に、カノン・グティ星系外縁に向かって待機しているため、ノヴァルナ達も今度は待たされずに済む。

「各艦隊の発進時間をリンクさせて、星系外縁部での統制DFドライヴ前に、全部隊が揃うように調整を頼む」

 ランにそう命じておいて、ノヴァルナは傍らに控えるミディルツに声を掛ける。

「コレット=ワッダー殿を通じて、ジョシュア様の名で今一度ロッガ家に、我々への協力を呼び掛けてくれ。協力が無理なら、オウ・ルミル宙域の通過を認めるだけでもいい」

 今回の上洛について、ロッガ家にも協力を要請したウォーダ家だったが、当主のジョーディー=ロッガは、ミョルジ家側に寝返っていた上に、ノヴァルナに対して積年の恨みもあって、全く相手にされていない。それどころか『クーギス党』からの情報によれば、ウォーダ家を迎撃する態勢に入り始めているらしい。

「やってもらってはみますが…成果は期待できないでしょう」

 冷静な判断で応じるミディルツ。しかしノヴァルナもその辺りは、承知しているようであった。不敵な笑みで言い放つ。

「いいさ。大事なのはジョシュア様を星帥皇の座につけたあと、“ジョーディー=ロッガは、ジョシュア様からの協力要請を断った”って事実が残る事だからな」
 
 ノヴァルナの言葉にミディルツは、“冷徹かつ良き判断をなさるお方だ…”と評価した。
 無論あくまでもジョシュアの上洛に成功し、星帥皇の座に就けられてのちの話になるが、実際にジョシュアの名で行った協力要請を断ったとなると、ロッガ家の名は地に落ち、立ち直る事は難しくなるだろう。ウォーダ家にとっては、宿敵を一つ減らせるわけだ。

「どっちにしても、ロッガは叩いておかなきゃなんねー、連中だからな」

 そう言ってノヴァルナは、艦橋中央の大型ホログラムを、現在位置からヤヴァルト宙域の皇都惑星キヨウまでの、航路図に切り替えた。中立宙域を大部隊が抜けるのは時間が掛かり過ぎる上、協力を仰ぐ必要がある上級貴族達が、いい顔をしないため、オウ・ルミル宙域を突き抜けて最短距離を取る事になる。

 ミディルツは、上洛軍の航路図を眺めながら、意見を口にした。

「ロッガ家は、本拠地のクァルノージ城があるオウ・ルミル星系を中心に、これを球状に取り囲む、十八の近接恒星系に建設された城と、相互支援を行うのが防衛方針となっています。このシステムを打ち破るのは至難の業かと存じます」

「そうらしいな」

 領域であるオウ・ルミル宙域中心部に超巨大暗黒星雲、ビティ・ワン・コーを有するロッガ家は、敵が侵攻して来た場合、その方向が限定される事から、首都星系オウ・ルミルの集中防衛を防御戦略の骨子としている。

 その防御戦略というが、首都星系オウ・ルミルを中心とした、直径130光年の球体を描いて、この表面に位置する十八の恒星系に支城と、恒星間防衛艦隊を一個ずつ配置するというものだった。こうする事で敵がオウ・ルミル星系もしくは、どこかの支城を攻撃して来た際、他の支城から出撃した防衛艦隊が、あらゆる方向から次々と押し寄せて包囲殲滅するのである。直径130光年という距離は、一回のDFドライヴで宇宙艦が超空間転移できる距離で、その辺りも考慮されている。

「これに対し今回のノヴァルナ様のご戦略は、速攻で『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』へ到達する事。ロッガ家を叩いておくにしても、あまり時間はかけられませんが、どうなされるおつもりなのですか?」

 ミディルツの懸念も尤もな話であった。下手に手間取ってしまうと、こちら側の敗北にもなりかねない。しかしノヴァルナは「ふふん…」と鼻を鳴らして、落ち着き払って言葉を返した。

「別にウチがわざわざ、連中の防衛戦略とやらに、付き合ってやる必要はねーからな。ウチはウチのやり方で、やらせてもらうさ」




▶#07につづく
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

処理中です...