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第7話:目指すは皇都惑星
#05
しおりを挟むジョシュアとの会見を終えたノヴァルナは、これに続いてミディルツや三人の側近達と話し合いに入った。今後の計画を詰めておくためである。
ただ行政府の応接室にミディルツらと入ったノヴァルナは、如何にも不満を抱えている様子だ。ノヴァルナが着席すると、すでに彼の意を察していたらしいミディルツが、先に口を開く。
「申し訳ございません。ノヴァルナ公」
「ふん…」
よく頭の回る奴だ…という眼で、ノヴァルナはミディルツに一瞥を送った。なるほど、アザン・グラン家当主で慎重居士のウィンゲートが、今ひとつ上洛軍を出すのを渋るはずである。会見で見た限り、あのジョシュアには皇国統治者として、必要かつ重要な資質が欠けている。カリスマ性だ。言動に人を従わせる威風というものを、まるで感じさせない。つまりは宙域の維持を第一に考えているウィンゲートに、イチかバチかの賭けをさせるような人物ではないという事だ。
「まぁ、そうだろな」
自分の中で考えを進め、ぼそりと独りごとを言うノヴァルナに、星帥皇室直臣のフジッガとトーエスは顔を見合わせた。良く言えば“人畜無害”、悪くいえば“使えない”のジョシュアであるから、七年前のミョルジ家による“第一次ヤヴァルト宙域侵攻”の際、星帥皇の座を巡る騒動に巻き込まれなかったのだろう。そうでなければ、関白の領地で何もせずに過ごせていたはずが無い。
ノヴァルナはフジッガとトーエス、そして今回ロッガ家から、星帥皇の配下へ宗旨替えしたコレットに視線を移し、ズバリと問い質した。
「それで、貴殿らはジョシュア様を星帥皇の座につけて、どう扱うおつもりか?」
「それは無論、皇国秩序の再構築でございます」
最初にそう答えたのはトーエル=ミッドベルだった。年齢は三十代半ばであろうか、生真面目そうな印象で、いま口にした事に嘘偽りはなさそうだ。少なくとも忠臣の類ではあるらしい。
「簡単に言われるが、そう容易くいくとお思いか?」
さらに問うノヴァルナに今度は、フジッガ・ユーサ=ホルソミカが応じる。
「それについては、補佐する人間の力量が問われるところと考えますが、決して甘く想定しているわけではありません」
フジッガはトーエルの義弟にあたり、三十代前半。情報によればミディルツの友人であり、艦隊司令能力を有する武将である一方、芸術・芸能方面にも秀でた文化人としても、皇都では有名らしい。トーエルよりも現実主義者的な印象だ。
そしてコレット=ワッダー。“コーガ五十三家”の中でも上位の二十一家に入る名家の当主だが、従属していたロッガ家から離反し星帥皇室の配下となった、白髪の目立つ男である。こちらは武将としてより、外交官としての活動が多いという情報だ。
ロッガ家は、以前は星帥皇室最大の支援者として、ミョルジ家に対抗していたのだが、近年になってミョルジ家側に寝返り、エルヴィスの星帥皇即位を支持した。コレットのワッダー家をはじめとする“コーガ五十三家”の中には、旧来の星帥皇室を支持する家もあり、それらはロッガ家の寝返りに強い不満を覚え、今回のジョシュアのヤーマト宙域脱出を期に、ロッガ家を去ったのだという。
“私利私欲目的の奴が居ねぇだけ、マシってもんか…”
ジョシュア自身の素養の問題はともかくトーエスやフジッガ、コレットといった周囲の人間は、自己の利益より、現在の星帥皇室の在り方を正したいという、使命感を持って行動しているように、ノヴァルナには思えた。これまでのウォーダ家の内紛で、そういった私利私欲に走る側近達を多く見て来ているため、人を見る眼は確かである。
「わかった。乗り掛かった舟でもある。皇国再建のために、協力は惜しまない」
ノヴァルナがそう告げると、「かたじけのうございます」と礼を言うトーエス達三人は、安堵の表情になった。
ただノヴァルナ自身にすれば、今回の出兵は亡き友テルーザとの誓いを果たすためのものであって、ジョシュアという人間がどういったものであるかは、さほど重要ではない。それよりはトーエス達、ジョシュアを支える人間がどういったものであるかが、重要だったのだ。
“後の問題は、テルーザが排除したがっていた上級貴族達に、今回は協力を得なけりゃなんねぇ事だが…贅沢は言ってられねーからな”
不満を並べても今以上に状況は好転するわけでもない。今は出された料理を平らげるだけだ…そうノヴァルナは自分に言い聞かせ、ここから先の上洛計画を詰める作業に入った。最初にミディルツへ問い掛ける。
「さて、まず訊きたいのはアルケティ殿」
「はっ」
「ミョルジ家がエルヴィスに指示して、俺達のNNLシステムを停止した際の、解決策とかいうものを明かしてもらおう」
NNLシステムの制御権を相手に握られている状況で、それを打開できるかどうかは、ノヴァルナの領民にとっての死活問題である。強く頷いたミディルツは、落ち着いた口調で安心感を加えながら答えた。
「それにつきましてはジョシュア様を、ク・トゥーキ星系にあるNNLハブステーションへお連れし、制御権を部分的に奪取するのです」
ミディルツの意図をノヴァルナは正しく理解した。NNLシステムのハブステーションとは、前にも述べた通り、中央行政府『ゴーショ・ウルム』のNNLシステム制御中枢に障害が発生した際に、その機能を代行する事ができる施設で、銀河皇国内に三ヵ所設けられている。
新星帥皇を名乗るエルヴィスは現在、『ゴーショ・ウルム』には入らずに、セッツー宙域のトルダー星系に設置されている『ハブ・ウルム・トルダー』から、銀河皇国のNNLシステムを制御していた。皇都惑星キヨウにいる上級貴族達との接触を、今のところ避けているからだ。
ミディルツはジョシュアを、オウ・ルミル宙域のク・トゥーキ星系に設置されている、『ハブ・ウルム・ク・トゥーキ』へ入れてNNLシステムの制御権を、ジョシュアにも付加させようとしているに違いない。ただその際に上級貴族達のNNLシステムへのアクセスによる支援が必要となる。彼等の承認が無くてはアスルーガ血族の直系であっても、ジョシュアは星帥皇と同等のNNLシステムの制御権を、得る事は出来ないのである。
「メインの制御権をエルヴィスが握ってしまっている以上、皇国全体のNNLシステムを掌握することは難しいですが、上洛軍とオ・ワーリ、ミノネリラ宙域ぐらいであれば、ジョシュア様の制御下に置けるはずです」
ミディルツが今回の上洛戦で用意していた、エルヴィスを使ったミョルジ家によるNNLシステム支配への対抗策がこれであった。ミディルツの言葉にノヴァルナは「なるほど」と頷いた。そしてホログラムの小振りなスクリーンと、キーボードをNNLで呼び出し、情報の検索とデータの入力を行う。それによってスクリーンに表示された結果を眺めながら言う。
「ここからク・トゥーキ星系までは、オウ・ルミル宙域を突っ切って十日ほどだ。それぐらいなら、ミョルジ家にNNLを遮断されても、ローカルネットワークでなんとか凌げるだろう―――」
NNLの宙域ごとのネットワークは、ローカルモードにすれば星大名でも、ある程度までは制御が可能であった。ただ皇国のメインシステムから切り離されている以上、金融と流通経済を中心に弊害が大きくなっているのは必至で、やがては領民の生活を圧迫し始めるのは確実だった。ノヴァルナとしてはそうなる前に、解決しておきたい問題である。
「つまりはスピード勝負ってワケだな。俺好みでいいじゃねぇか」
砕けた口調でそう言い放ち、ノヴァルナは不敵な笑みを浮かべた。
▶#06につづく
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