173 / 376
第7話:目指すは皇都惑星
#03
しおりを挟むノヴァルナの些か奇妙な問い掛けに、ノアは苦笑いし、マリーナはため息混じりに「なんですの、その適当なお言葉は?」と、呆れた眼をする。ヴァルミスは…仮面を被っているので、当然ながら表情は掴めない。
「上々ですわよ、兄上。ですから、しっかり送って下さいませ」
「お…おう」
躊躇いがちに応じるノヴァルナ。この上洛軍にノアやマリーナも加わっているのには、理由があった。
ノアの同行は、皇国貴族と接触する際の外交官的意味合いが強い。ノヴァルナは前星帥皇のテルーザとの関係は良好であったが、五年前の上洛の際も貴族達とは全く接触しておらず、彼等が期待していたイマーガラ家を倒してしまった事もあり、関係は冷え切っていると言っていい。そこをノアが入る事で、関係を再構築しようというのである。なぜならジョシュアを新星帥皇として、NNLシステムに承認させるためには、NNLシステム中枢へのサイバーリンク権を持つ、上級貴族達の協力が不可欠だからだ。
ただこれはノアの方からノヴァルナに働きかけて、その役目を得たのだった。必要以上に権威的な貴族達を好かないノヴァルナに、関係を改善させようとしても、逆効果になりかねないと考えたのである。
そしてマリーナ・ハウンディア=ウォーダだが、こちらは政略結婚の嫁ぎ先へ向かうため、途中まで上洛軍に同行する事になっている。
その嫁ぎ先とは、オ・ワーリ宙域ティタ恒星群独立管領のサージ家。準星大名と呼んでもいい、三つの植民星系を領有する有力な独立管領だった。恒星間打撃艦隊も四つ保有しており、戦力的にも高いものがある。
このサージ家が領有するティタ恒星群は、オ・ワーリ宙域のイーセ宙域との国境近くにあり、地政学的理由からオ・ワーリ宙域内にあっても、ウォーダ家に従属はせず、中立を保っていた。
今回の上洛軍進発にあたって、主力部隊が領域を留守にする事になるが、その際の不安材料となるのが、このイーセ宙域方面である。ミ・ガーワ宙域にはトクルガル家、シナノーラン宙域にはタ・クェルダ家と、ウォーダ家と同盟を結ぶ星大名家があり、またエテューゼ宙域のアザン・グラン家とは、ジョシュアの方で話がついており、侵攻を受ける可能性は低い。
しかしイーセ宙域星大名キルバルター家とは、友好的関係とは言い難かった。そこでマリーナ自身が考えたのが、政略結婚によってサージ家と姻戚関係を結び、ウォーダ家との協力関係を確実なものにする事だったのだ。
ひと月ほど前に突然、サージ家の次期当主バルボアと婚約した事を、マリーナから打ち明けられたノヴァルナはさすがに動揺した。昨年末に下の妹フェアンをアーザイル家に嫁がせたばかりで、今度はマリーナが、自分から嫁ぐと言い出したのだから無理もない。
しかもアーザイル家の場合、フェアンの夫となったナギ・マーサス=アーザイルは、政略結婚の形をとっているが、実際は恋愛結婚だった。またナギはノヴァルナ自身も為人をよく知る相手であって、信用の置ける人物だ。
これに対してサージ家のバルボアとは、ノヴァルナは全くと言っていいほど面識がない。どのような人間かも分からない相手と、いきなり結婚すると言われては、兄として不安になるのも当然である。
そんなノヴァルナが最も気にかけてマリーナに問い質したのは、やはりバルボアという若者を愛する事が出来るのか、という事であった。
ノヴァルナ自身も下の妹のフェアンも、自分が愛した相手と結ばれたのであり、政略結婚という理由はあとからついて来たものなのだ。
ノヴァルナの問いにマリーナは静かな笑顔で、「ええ。たぶん…愛せるようになると思いますわ」と応じた。そしてバルボア=サージが、好人物である事も付け加えて。
マリーナ・ハウンディア=ウォーダも意志の強さは、父ヒディラスや兄ノヴァルナに引けは取らない。その辺りはノヴァルナも充分に承知しており、これはやめさせようとしても無駄だと理解した。マリーナももう子供ではなく、ウォーダ家の姫として選んだ事なのである。それにそれから数日後に届いた、バルボア=サージからのホログラムメッセージを見たノヴァルナは、どうやら誠実な人物であるらしいと感じ取り、マリーナの選択を是としたのだった。
そのマリーナを上洛途中からティタ恒星群へ送り届けるのが、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダ率いる第1特務艦隊である。
第1特務艦隊の出航は上洛軍の最後となるため、ヴァルミスはマリーナとともにまだ『ヒテン』にいるのであった。
「頼んだぜ、ヴァルミス。本当は俺も、ティタまでついて行きてぇけど、そうはいかねぇからな」
ノヴァルナか声を掛けると、ヴァルミスは軽く頭を下げて「承知しております」と、落ち着いた口調で応える。するとノヴァルナは、何かを画策している眼で、さらにヴァルミスに告げた。
「マリーナを送り届けたら、手筈通りだ。上洛軍は任せるからな。影武者役…しっかりやってくれ」
▶#04につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
寸前屋本舗
バッチリー中田
SF
寸前屋本舗は、どんな依頼も請負なんで
も屋だ
依頼者には完璧なお膳立てを用意する
只、最後の決断は依頼者に任せるスタイ
ルだ
世界中にネットワークを持ち水面下で活
動する謎の一般企業
従業員達も個性的で、変人揃い
サイケデリックでカオスな世界へあなた
を誘います
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる