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第7話:目指すは皇都惑星
#02
しおりを挟む上洛軍と聞いて大使の顔色は一瞬で変わる。特別観艦式と称して、大規模艦隊をバサラナルムに集結させたのは、新星帥皇を名乗るエルヴィス・サーマッド=アスルーガとミョルジ家の排除を目的として、皇都惑星キヨウへの上洛を開始するために他ならない。
そこに『皇国中央評議会』の大使を招いたのは、着任以来二ヶ月の間、ウォーダ家の内情を嗅ぎ回っていたこの男と、配下の外交官をまとめて片付けておきたかったからだ。
「ノ、ノヴァルナ公! 言っている意味が分かっておられるのか!? 許可も得ず軍を上洛させるなど、明白な皇国への謀叛となりますぞ!!」
「ふん。俺にすりゃ謀叛人は、テルーザを殺ったそっちだがな」
そう言ってノヴァルナは右手を軽く掲げて合図を送った。するとセゾ=イーテスをはじめとする、十人の『ホロウシュ』が大使とその従者を取り囲んだ。セゾが低い声で告げる。
「我等とご同行願います。大使」
その言葉に大使は、四つの眼を泳がせながら狼狽した声を上げる。
「宜しいのか!? 我等からの定時連絡が途絶えれば、中央評議会はすぐに動き出しますぞ!! オ・ワーリとミノネリラのNNLも即時停止されましょう!! 苦しむのはノヴァルナ公の領民ですぞ!!!!」
これを聞いてノヴァルナは、司令官席ごと大使に向き直り、指をさして鋭い口調で言った。
「それだからてめーらは、潰さなきゃなんねーんだよ!」
「なにっ!!」怒りの表情になる大使。
「NNLを停止して、領民への圧迫を脅迫材料にするような連中に、銀河は任せられねぇってんだ!!」
「聞いたふうな事を! どうなっても知らんぞ!!」
捨て台詞を吐く大使だったが、ノヴァルナはもう興味は無くしたふうに、セゾに向けて顎を動かし、“連れて行け”と無言で指図した。同時に『ヒテン』は所定の位置―――観艦式を観る位置ではなく、上洛軍の総指揮を執る第1艦隊中央部へ到着する。『皇国中央評議会』の大使を拘束したのと合わせ、今頃はバサラナルムとラゴンにある大使館も、陸戦隊が制圧しているはずだ。もはや後戻りは出来ない。
ただそれでも、ノヴァルナに迷いは無かった。自分自身に対し、テルーザとの約束を果たす時が来たと、言い聞かせていたからだ。位置についた『ヒテン』に、今回から第二総旗艦の役割を担う事となった、第2戦隊旗艦『ローバルード』に乗るナルガヒルデ=ニーワスから通信が入る。
「上洛軍全艦隊、出航準備を完了しております」
通信ホログラムスクリーンに映る赤髪の女性武将は、いつもと変わらぬ冷静沈着さで、静かに報告した。
ナルガヒルデの言葉を聞いて、ノヴァルナは司令官席で行儀悪く脚を組み、殊更軽い口調で命じる。
「んじゃ、いこっか。はい、しゅっぱーつ」
軽妙な物言いでも、命令は命令だ。即座に全ての宇宙艦に出航開始が伝達され、まずブルーノ・サルス=ウォーダ率いる第4艦隊が、先行して動き始める。十五個艦隊総勢七百隻近い上洛軍であるから、全艦隊が出航を完了するまで、約三時間は掛かる。
ちなみにバサラナルム衛星軌道上には、八百隻以上の宇宙艦がいるが、この中にはヴァルターダ=ウォーダの第2艦隊や、ウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊など留守を預かる艦隊も、“特別観艦式”の参加艦隊として加わっていたからだ。
総旗艦『ヒテン』の艦橋中央に浮かぶ航行用ホログラムスクリーンには、第4艦隊を構成する各戦隊が、順序立てて衛星軌道を離れていく様子が表示されている。
三年前に上洛を目指してノヴァルナに敗れたイマーガラ家は、二十個以上の艦隊が上洛軍を編制しており、今回のウォーダ家の上洛軍は数的にそれを下回るが、これはイマーガラ家が上洛の途上でノヴァルナを打倒し、オ・ワーリ宙域も支配下に置こうとしたためであった。
出航を命じたはいいが、座乗艦の『ヒテン』が実際に動き出すには、まだ二時間ほどもかかる。早速退屈したノヴァルナは、大きな欠伸を一つすると、司令官席を立った。
「艦が動き出したら、また戻って来らぁ」
そう言い残してノヴァルナは、艦橋をあとにする。当主としては適当な振る舞いだが、ナグヤ時代からの専用艦であった『ヒテン』では毎度の事なので、艦橋にいる人間は誰も驚きはしない。
軍装のポケットに両手を突っ込んで、軽い足取りのノヴァルナが向かったのは、艦橋からそう遠くない高級士官用ラウンジだった。ブラウン系の落ち着いた色調の高級士官用ラウンジにいたのは、ノヴァルナの妻のノアと侍女兼護衛役のカレンガミノ姉妹。そしてノヴァルナの妹のマリーナと、狐を意匠した白い仮面で顔を隠している、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダである。
「よぉ」
右手を挙げて声を掛けるノヴァルナに、ノアが言葉を返す。
「なにその、授業抜け出して来た学生感、満点の態度」
確かに上衣の胸をはだけ、腕まくりをしたノヴァルナの軍装姿には、ノアの言う雰囲気が漂っている。
「まぁ、いーじゃねーの」
あっけらかんと言い放って、ノヴァルナはノアの隣にドカリと腰を下ろす。そしてマリーナに向けて、どことなくぎこちなさを感じる笑顔で問い掛けた。
「どだ、調子は上々か?」
▶#03につづく
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