銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第7話:目指すは皇都惑星

#01

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 司令官席に座るノヴァルナ。胸の第二ボタンまで外し、袖を肘まで捲り上げた紫紺の軍装姿は、少々だらしなさもあるが彼らしくもある。

 そんな彼の周囲では、広い艦橋の中、多くのオペレーターがせわしなく手を動かし、状況を報告して、総旗艦『ヒテン』を飛び立たせようとしていた。

「全対消滅反応炉出力、20パーセントで安定」

「重力子ジェネレーター、推進駆動系へ接続」

「慣性制御、全方位に対し異常なし」

「航行用センサー大気圏モード、異常なし」

「管制塔より、出港許可確認」

 艦橋の“窓”を構成する外部ヴュアー映像には左舷側に、青空を背景とするギーフィー城がキンカー山の上に小さく聳える。『ヒテン』が発進準備を進めているのは、ギーフィー市外に広がる大湿原に建設された大型艦係留港だ。

「出航シークエンス完了。全艦各科異常なし。出港準備よろし」

 『ヒテン』の副長の報告に艦長は頷き、前を見据えたまま静かだが強い口調で、「発進せよ」と命じた。艦の運用に関しては艦長に与えられた権限であるから、ノヴァルナは一切口出ししない。それでも司令官席で僅かに背伸びしたのは、ノヴァルナにも身が引き締まる思いがあるのだろう。

「了解。『ヒテン』発進」

 副長が伝達し、各科のオペレーターが一斉に、『ヒテン』を発進させる。艦橋に底部から軽い振動が伝わり、艦が重力制御を開始した事が分かる。

「これより発進」

 次の瞬間、『ヒテン』を中心に風が巻き起こり、緑の湿原の上にリング状のさざ波が広がった。『ヒテン』を埠頭に繋いでいた最後の固定バインダーが外れて、ノヴァルナの乗る巨大な宇宙戦艦は、地上十メートルの高さで空中に浮かぶ。

「重力子パルス放射値、正常範囲内」

「上昇開始」

「上昇開始します」

 やがて『ヒテン』は速度を上げながら、大気圏外を目指して昇り始めた。

「管制塔より通信。“大なる武運のあらん事を”」

 その報告を聞きノヴァルナは、軽くだがいつもの不敵な笑みを見せる。外部ヴュアーは青空が次第に濃さを増し、黒くなっていく様を映し出していた。すると前方に、惑星バサラナルムを縦方向に回る、細かな氷のリングが見えて来る。太陽光線を銀色に反射させて、まるで繊細なダイヤのネックレスのようである。

 それをくぐり抜けると、漆黒の宇宙に整然と並ぶ無数の宇宙艦。ウォーダ家宇宙艦隊の威容だ。旧サイドゥ家の宇宙艦も加えたその総数は八百隻を超えていた。
 
「ほほう。これは凄いですな…」

 司令官席に座るノヴァルナの、右背後からしわがれた声が響く。そこに立っていたのは五十代と思しき、四つ眼の異星人―――フォアイズ星人の男だ。軍装ではなく濃いグレーのスーツ姿で、黒いスーツを着たヒト種の四人の男を従えている。

「そう思って頂けると、ありがたいですな。大使」

 どことなく素っ気ない口調で応じるノヴァルナ。男は『皇国中央評議会』から派遣された大使であった。今日、皇国暦1563年4月12日は、ミノネリラ宙域解放を記念して挙行される、ウォーダ家による特別観艦式の日となっている。

「これほどの数の宇宙艦が一分の隙も無く、見事な陣形で並んでいる…これほど壮観な眺めは、見た事もありません」

 大使は艦橋から見渡せる、ウォーダ家の大宇宙艦隊の陣容に賛辞を贈った。しかしそれと合わせて、四つの眼球を別個に動かせるフォアイズ星人特有の能力で、宇宙艦隊の隅々まで視線を遣り、訝しげな口調でノヴァルナに問い質す。

「しかしながら、これはどういう事でしょう?…ノヴァルナ公」

「なんでしょう?」

 どこかすっとぼけた調子で尋ね返すノヴァルナ。大使の男は眼の前に、小振りなホログラムスクリーンを展開させて、そこに表示されたデータを睨みながら言う。

「計測によると、この観艦式には848隻の宇宙艦が参加しております」

「それがなにか?」

「我が『皇国中央評議会』に申告され、認可された御家の艦隊戦力は、オ・ワーリ並びにミノネリラ両宙域総数で625隻。それがここには認可数より、二百隻以上も多くの宇宙艦がいます。これは明らかに、中央評議会に対する造反行為となりますが、ご説明をお願いしたい」

 大使とは名ばかりで、実際はウォーダ家を監視するため派遣されて来たフォアイズ星人は、ノヴァルナへの四本の視線を鋭くした。その間にも彼等を乗せた『ヒテン』は、艦隊の間を抜けて所定位置へ向かっていく。

「説明も何も、ご貴殿が見ての通り、という事です」

 大使の視線の鋭さなどどこ吹く風、あっけらかんと言い放つノヴァルナ。

「宜しいのですか?…このような事が中央評議会に知られると、御家のためになりませんぞ?」

 段々と脅し口調へ変わって行く大使。しかしもはや覚悟を決めたノヴァルナに、動じるところは無い。不敵な笑みを浮かべて言い返す。

「ああ、そうそう。説明と言うか、一つ訂正させて頂く事がありました」

「訂正とは、どこを?」

「この集まりは観艦式などではなく、今日が我が上洛軍進発の日、という事です」




▶#02につづく
 
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