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第6話:皇国再興への道
#06
しおりを挟むここまでの経過を述べたカーズマルスは、大きな嘆息とともに続けた。
「そこからのテルーザ陛下の戦いようは、まさに“鬼神も泣かしむる”が如し…群がる敵機を、ASGULであろうがBSIユニットであろうが、一瞬で宇宙の塵へと。しかし如何せん、途方もない数の敵に…近衛隊も一機、また一機と撃破され、やがてはテルーザ陛下の機体のみに」
「………」
口を真一文字にして硬い表情のノヴァルナは、無言のままだった。さらにカーズマルスが語るには、近衛隊の最後の『サキモリCX』が撃破された直後から、『ライオウXX』はそれまでより、異次元の機動を見せ始めたという。おそらくテルーザが“トランサー”を発動させたのであろう。
ところがその直後、『ライオウXX』のAESへのエネルギー供給が、停止してしまった。行政府『ゴーショ・ウルム』周辺を制圧した、ミョルジ軍と『アクレイド傭兵団』の陸戦隊が、『ゴーショ・ウルム』そのものにも攻撃を仕掛け、AESエネルギー転送装置を破壊したのだ。
それでも“トランサー”を発動させたテルーザの『ライオウXX』は、古今無双の強さを見せ、AESを失ってもなお、圧倒的な数的不利をものともせずに戦ったらしい。だがそこでカーズマルスの口調は一気に淀みを含んだ。
「その時でした…ミョルジ軍の中に、新型と思われる正体不明のBSHOが現れたのです」
カーズマルスの言葉に、ノヴァルナの表情が険しくなる。
「正体不明のBSHOだと!?」
カーズマルスが告げた正体不明のBSHOとは、人型というより、巨大な蜘蛛のような姿であったという。正確にはBSHOではないのかも知れない。ただ明らかに量産型BSIユニットではなく、既存のカテゴリーでは分けられない機種だ。
「BSHOだってんなら、こんなもん…どうやって動かすんだ?」
偵察プローブが撮影した映像を拡大し、ノヴァルナはその異様な形状に眉をひそめた。BSIユニットやその将官用カスタマイズ機のBSHOは、NNLのリンクによって、搭乗者の四肢を動かす神経信号で動作を行う。したがって二本の腕と二本の脚しかない人間に、八本脚の蜘蛛型BSHOは動かせない道理である。無論、蜘蛛になった気持ち…などで動くものではない。
※※※―――
後方の大型宇宙空母から発進したと思われるその蜘蛛型BSHOは、十二機の親衛隊仕様『ミツルギCC』に守られて、『ライオウXX』へ向かって来た。ただしそれほど速度は出ていない。
高威力の連装超電磁ライフルを射撃し、三機の量産型『サギリ』と、二機の『シラツユ』を瞬く間に葬ったテルーザは、素早く機体を翻して奇妙な敵機に向き直った。“トランサー”を発動しているテルーザは、この戦場にいる全ての敵の宇宙艦や機体とも、NNLでリンクで繋がっており、意識下で正体不明のBSHOともリンクして正体を探る事が出来る…はずであった。
ところが、ネットワークの海を走るテルーザの意識は、正体不明のBSHOに達したものの、そこにあったのはまるでブラックホールのような、“黒い穴”だったのである。当然ながら“黒い穴”には正体不明のBSHOの情報など、何一つ存在しない。
“なんだこれは?”
星帥皇は“トランサー”の能力によって、NNLの全てを管理制御、支配する事ができるが故に星帥皇なのだ。それが何も情報を引き出せないとなると、星帥皇の権限―――能力が、あの機体には及んでいないという事になる。こんな事が可能なのは―――
「余…星帥皇だけだ」
星帥皇のNNL支配を免れるのは、同じ能力を持つ星帥皇しかいない。となるとあの奇妙なBSHOに乗っているのは、星帥皇という結論になる。
「だが、そんな事が!」
次々に間断なく突撃して来る、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』連合軍のBSIユニットをノールックで回避、逆に撃破しながらテルーザは、蜘蛛型BSHOを睨み付けた。『ライオウXX』に異変が起きたのはその時である。
正体不明のBSHOが八本の脚を広げて、回路状の赤い光を一瞬、猛烈に輝かせる。するとその直後、『ライオウXX』のコクピットを包む全周囲モニターが、同じ赤い色のプログラミング言語で埋め尽くされた。
その異常な表示はすぐに消え、見た目は元の宇宙空間の映像に戻るが、テルーザは自分の機体に何が起きたのか、即座に理解する。
「馬鹿な! “トランサー”が消失しただと!!??」
思わず声に出して叫んだテルーザは、咄嗟に操縦桿を引いて機体を回避させた。背後から親衛隊仕様の『シラツユGR』が、至近距離に迫っていたのだ。“トランサー”の発動中であれば、計器を見ずとも難なく“心眼”で察知出来るものだ。しかし『シラツユGR』が繰り出したポジトロンパイクを、完全に回避する事は出来ず、『ライオウXX』は胸部に斜め入る傷を負う。星帥皇の機体が被った初めての損害だった。
だが『ライオウXX』に傷を付けた代償を、その『シラツユGR』は自らの機体とパイロットの生命で支払う事になる。『ライオウXX』がすれ違いざま、瞬時に抜き放った大型クァンタムブレードによって、『シラツユGR』は胴体を真っ二つに両断された。
テルーザはそこからさらに機体に捻り込みをかけ、別方向から迫る量産型『サギリ』を二機いっぺんに、超電磁ライフルで撃ち貫くと、続いて正体不明の蜘蛛型BSHOに銃撃を浴びせる。ところが次の刹那、蜘蛛型BSHOは八本の足をやや前向きに倒し、赤く輝く八角形のエネルギーシールドを展開した。あらぬ方向に弾かれる『ライオウXX』の銃弾。
そして蜘蛛型BSHOはその脚先を全て、『ライオウXX』へ向けた。ほとばしる八つのビーム。テルーザは歯を喰いしばって回避運動へ入る。
「く!…そうかあの脚、固定式のAESか!!」
執拗に追い縋るビームを躱しながら、テルーザは蜘蛛型BSHOの八本の脚の正体を見抜いた。あの脚は『ライオウXX』が装備しているオプション兵器、AESライナーを機体に固定したものだったのだ。
AESも“トランサー”も失った『ライオウXX』に対し、無数の敵機が容赦なく襲い掛かる。一瞬、ライフルの残弾数表示に目を遣るテルーザ。銃弾の残りは、バックパック内の予備弾倉、対艦徹甲弾を合わせて四十八発。もとより生きて帰れるとは思ってはいない。
テルーザは一つ笑みを浮かべると、地上で戦闘状況を見守るカーズマルスへ、最後の通信を入れた。
「カーズマルス=タ・キーガー。我が友ノヴァルナに伝えてくれ、“済まぬ、銀河を頼む”と」
▶#07につづく
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