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第6話:皇国再興への道
#03
しおりを挟む紹介された新星帥皇エルヴィス・サーマッド=アスルーガの姿に、ざわめきを起こしたのはノヴァルナ達だけではないだろう。おそらくこのメッセージ映像を見ている、全ての星大名が声を発したはずだ。それほどまでにエルヴィスと名乗る若者の姿は、テルーザと似ている。エルヴィスは歳に似合わず、重たげに口を開いた。
「全ての星大名に告ぐ。余がこの度新たに第34代星帥皇となった、エルヴィス・サーマッド=アスルーガである」
銀紗のローブに身を包んだエルヴィスが座っている玉座は、ノヴァルナの見覚えのある、星帥皇室行政府のそれではないように思える。さらにエルヴィスは、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。
「まず先に、余の出自を明かしておこう…余は、先代星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガの、双子の弟である」
これを聞いてノヴァルナは、「なに?…」と呟いた。自分がテルーザから直接聞いた話では、弟は双子というわけではなく、名もジョシュアという名であったからだ。
「一卵性双生児として生まれた余とテルーザは、訳あって誕生時より引き離され、余は存在せぬものとして、ホルソミカ家の庇護のもと、タンバール宙域のとある植民星系で秘密裡に養育されていた。本来ならば民間人として、一生を終えるはずであったのだが、星帥皇室を一から立て直すため是非にという要請を受け、星帥皇となる事を決したものである」
何をどう聞いても怪しさしか感じないエルヴィスの言葉に、ノヴァルナ達は不審げな表情を隠せない。ただ次にエルヴィスが告げた事は、銀河皇国全域に対して非常に重要なものであった。
「このような話をしても、俄かには信じられるものではない事は、余も重々承知している。そこでまず余が新たな星帥皇であり、またその資格を持つ証しとして、これより一週間後の1月20日より、銀河皇国すべてのニューロ・ネットラインシステムを復旧させ、正常に稼働させる事を誓おう」
「NNLを復旧させるだと?」
ノヴァルナはそう言ってナルガヒルデと、キノッサの顔を順に見渡す。二人とも戸惑いを隠せない様子で、ノヴァルナの顔を見返して来た。確かにNNLシステムの完全統制権は、星帥皇のみが所有するもので、その運用には登録された星帥皇本人の遺伝子情報が必要だ。もし本当にエルヴィスにそれが可能ならば、一卵性双生児であっても不思議ではない。スクリーンの中でエルヴィスは最後に言った。
「余は現在の戦乱に満ちた銀河皇国に、今度こそ新しい秩序をもたらし、全ての皇民に安寧を与えたいと願っている。星大名諸子においては、何卒我が悲願の成就に力を貸してもらいたい。以上である」
エルヴィスの話に続いて、ヨゼフ・サキューダ=ミョルジが、NNLシステムの復旧後、いずれ日を改めて各星大名宛てに、個別の協力要請のメッセージを送る旨を付け加えて映像は終了した。キノッサは今にもノヴァルナが、キレるのではないかと、恐る恐る顔を向ける。しかしノヴァルナは不機嫌そうではあったが、荒々しく椅子の背もたれに、身を沈めただけであった。
「面倒なことになりましたね」
眼鏡型NNL端末を指先で直しながら、淡々と告げるナルガヒルデ。彼女がこういう言葉を口にするのはとても珍しい。ノヴァルナは「まったくだぜ…」と同意して肩をすくめる。
「本当に双子なんスかねぇ…」
訝しげにキノッサも言う。それに対するノヴァルナの返事も、歯切れが悪い。
「さあな。俺がテルーザ陛下から直に聞いた範囲だと、弟とは双子ってわけじゃ、なさそうだったがな」
「じゃあ、クローンとか?」
キノッサがさらに可能性を口にするが、ナルガヒルデがそれを否定した。
「見たところ、あのエルヴィスなる人物はテルーザ陛下と、そう年齢は離れていない。とすれば生まれて間もない時期に細胞を採取し、クローニングが始まった事になる。星帥皇のクローニングは禁止されており、二十年以上も前にその禁令を破って、クローンを作っていたとなると、その時から今回の陰謀を練っていた、となるが…些か、現実離れした話ではないか」
「ああ。それに星帥皇がNNLシステムにリンクする際は、毎回、遺伝子情報の確認が行われて、クローニング因子とか異常が見つかった時は、リンク出来ねぇって聞くぜ」
ノヴァルナが付け加えたのは、培養器などでクローニングした際に遺伝子に刻まれる、クローン因子と呼ばれる調整痕の事であった。ノヴァルナの三人のクローン猶子、ヴァルターダ、ヴァルカーツ、ヴァルタガも当然この因子を持っている。
これを聞いてキノッサは、首を捻って別の意見を出した。
「うーん…それなら、実はあれはテルーザ陛下で、討ち死にされたって話は嘘で、捕まって偽の記憶を植え付けられてるとかは、どうッスか?」
「どうスッか…って、クイズじゃねーっての!」
ぴしゃりと言ったノヴァルナは、ともかく取るべき当面の方針を、キノッサとナルガヒルデに伝えた。
「なんにせよ一週間後に本当に、NNLシステムが完全に復旧するかどうかを、見極めるこったな。それに近いうちに、モルタナの姐さんが皇都の情報を、届けに来るはずだ。まずはそれ待ちって事で、今はミノネリラの立て直しに、専念するしかねーだろ」
▶#04につづく
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