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第5話:ミノネリラ征服

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 フェアンをナギに預けて、アーザイル家の出迎え艦隊と分かれたノヴァルナ艦隊は、ここまでと同じコースを引き返し始めた。
 これを察知したロッガ家は、襲撃に失敗した“コーガ五十三家”に代わり、当初はアーザイル艦隊に備えていたものの、囮に引っ掛かって空振りに終わった主力の基幹艦隊三個を差し向けて、ノヴァルナを討ち取ろうとした。

 ここで意味を持ったのが、ノヴァルナから総旗艦『ヒテン』を貸し与えられた、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダが率いる、オウ・ルミル宙域国境付近に展開していた六個艦隊である。
 アーザイル家と連携していたこの六個艦隊は、オウ・ルミル宙域内の軍の動きを全て把握しており、ロッガ家の主力部隊がノヴァルナ討伐に動いたのに合わせて、艦隊ごとに広範囲に分かれて、一斉にオウ・ルミル宙域へ侵入した。
 ロッガ家でも対応部隊を配置していたものの、ウォーダ家の侵入が広範囲だったために対応しきれず、ノヴァルナ掃討部隊を差し向ける事が、出来なくなったのであった。


 さらにウォーダ艦隊がオウ・ルミル宙域を抜け、中立宙域へ入った皇国暦1562年12月23日。重大な情報が、スノン・マーダー城のトゥ・キーツ=キノッサから、ノヴァルナのもとへもたらされた。
 “ミノネリラ三連星”と恐れられたイースキー家の三武将、リーンテーツ=イナルヴァとモリナール=アンドア、そしてナモド・ボクゼ=ウージェルがこぞって、極秘裏にウォーダ家への寝返りを、申し出て来たというのだ。

 これでイースキー家の崩壊は、もはや決定的となった。

 先月のダルノア=サートゥルスの寝返りが引き金となって、古参の武将達が主君オルグターツに見切りをつけ始めたのである。

 これを聞いたその時、キャビンで紅茶を飲んでいたノヴァルナは、跳び上がるように席を立って、ガッツポーズをしながら叫び声を上げた。

「おっしゃぁあああああ!!!!」

 一緒に居たノアとマリーナは、そんなノヴァルナの動きに、それぞれの反応を見せる。ノアは“なるほそうでしょうね”という目を向け、マリーナは“騒がしいわね”といった顔をする。
 ただノアもマリーナも、ガッツポーズをするノヴァルナの気持ちを、しっかりと理解していた。これなら勝てる!…と確信が得られるこの時を待ち、自分の中の短気さを抑え込み、二年以上にわたって辛抱強く布石を打ち続けて来たからだ。

 そして皇国暦1562年12月27日。ノヴァルナはスノン・マーダー城へ到着するや否や、イースキー家本拠地惑星バサラナルムへの進攻作戦を発表する。

 これは以前からの構想に、帰還中の『クォルガルード』の中で修正を加えたもので、三方向から一斉にミノネリラ星系へ突入し、防衛部隊を分断撃破。しかるのちにバサラナルムを宇宙艦隊で包囲し、イースキー家に降伏を勧告する作戦だ。
 出撃のタイミングは、ウォーダ側に寝返った“ミノネリラ三連星”が差し出す、人質となる身内のスノン・マーダー城への到着と同時とされた。人質の到着予定日は12月30日。戦争に年末年始は無いのは勿論のことであるから、年を跨いでの攻防戦になりそうである。

 ところが12月28日には、ノヴァルナの姿はもう『クォルガルード』と共に、スノン・マーダー城から消えていた。そして30日にはロッガ家への牽制行動で、オウ・ルミル宙域へ侵入していた第1艦隊以下の六個艦隊と、ミノネリラ星系近くの宇宙空間で合流。バサラナルムを目指して航行を開始していた。つまり“ミノネリラ三連星”からの、人質の到着を待っての出撃という話を含む、作戦の概要はすべて欺瞞情報だったというわけだ。

 実際の作戦はロッガ家牽制部隊であった、第1・第3・第4・第7の四個艦隊が先陣を切り、スノン・マーダー城から第6・第10艦隊。さらにウモルヴェ星系から第2・第5艦隊が一斉にではなく、時間差を置いてバサラナルムへ進攻する事にしており、特にウモルヴェ星系からの二個艦隊はすでに行動中だった。ノヴァルナ直卒部隊が先陣を切った直後に、反対側からバサラナルムを狙い、惑星防衛システムを無力化するためである。

 戦闘輸送艦『クォルガルード』から、久々に総旗艦『ヒテン』へ移乗したノヴァルナは、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダの出迎えを受けた。
 格納庫で簡単な挨拶を交わしたあと、連れだって艦橋へ到着すると、ごく自然にヴァルミスは司令官席をノヴァルナへ譲り、ノヴァルナも当然の如く座る。

「お疲れではありませんか?…少しお休みになられては?」

 丁寧な口調で静かに問い掛けるヴァルミスに、ノヴァルナは「んなもん、なんともねーよ」とぶっきらぼうに言う。ただその口調は、冷淡なものではない。

「それより、ありがとよ。フェアンを送っての帰りに、いいタイミングで艦隊を動かしてくれて…さすがだな」

 ノヴァルナの評価の言葉に、「いいえ」と応じるヴァルミスの表情はしかし、顔を隠す狐を意匠した仮面によって、窺い知る事はできなかった………




▶#21につづく
 
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