130 / 384
第5話:ミノネリラ征服
#11
しおりを挟むその『クォルガルード』の艦橋では、艦長を務めるマグナー准将の元へ、艦隊参謀が報告をもたらしていた。
「六分前の反応です」
「前衛の『ディルガルード』のものか」
参謀が差し出したデータパッドに視線を注いで言うマグナーは、ノヴァルナの不在時に艦隊司令を兼任している。報告は同型艦で前衛である『ディルガルード』から届けられたもので、付近の雲海の内部から、何者かが超空間通信を行ったと思われる、“空間ゆらぎ”の反応が検出されたというものだ。
「これは…発見されたな」
センサーの感度が悪くなるこのジャルミス暗黒星雲では、攻撃艇のような小型艇は探知が難しい。おそらくこちらの探知網を潜り抜けた、敵の偵察機か何かに発見されたに違いない。程なくして敵の襲撃があるはずだ。しかしマグナー准将は慌てる様子も無く、冷静に発令した。
「全艦、第一種戦闘態勢。索敵を厳とし、敵襲に備えよ。姫様にも状況を、お知らせするように」
イチ姫のいる“輿入れ艦隊”発見の報は、“五十三家”母艦部隊を経由して即座に、スクイド星人のサキュラス=ヴァン率いる、『ミツルギCCC』十機からなる別動隊に伝達された。
「方位244プラス11、距離はおよそ8万…思ったより近いな」
淡い水色の肌をしたサキュラスは、口の周りの短い触手を細かくもぞつかせながら呟く。触手を細かくもぞつかせるのは、思考を巡らせる時のスクイド星人特有の行動だ。
「この位置なら、艦隊を先回りさせた方が、いいかも知れん」
“輿入れ艦隊”の発見位置が、司令部の思っていたより進んでおらず、自分達に近かった事から、サキュラスは万全を期して自軍艦隊を加速させ、先回りさせる事で挟撃を考えたのである。
「索敵隊が目標を発見した。我に続け」
部下達に命じたサキュラスは、通信チャンネルを母艦部隊へ切り替えて、先回りと待ち伏せを指示した………
「総員戦闘配置。総員戦闘配置。対機動兵器迎撃戦に備え」
戦闘輸送艦『クォルガルード』の艦内に戦闘配置のアナウンスが流れ、あらゆる間接照明が赤色に点滅する。艦橋ではマグナー准将のもとへ、右舷側を航行している同型艦の『ザルガルード』から、敵発見の連絡が入る。
「敵編隊発見。方位051マイナス07、距離8千」
「機数18。攻撃艇と思われる」
オペレーターの報告が戦術状況ホログラムに反映され、立体映像化された星間ガスの雲海に、ゴマ粒のような反応が十八個現れる。
「さらに新たな反応。方位324プラス43、距離9千」
「機数9。攻撃艇と思われる」
敵編隊は二つ。数はバラバラで、機種はいずれも攻撃艇。おそらく単機もしくは少数で行動していた索敵機が、こちらの位置を掴んだ事で、臨時の編隊を組んだのであろう。ASGULやBSIユニットはいないようだ。状況を判断しマグナーは落ち着いた口調で告げる。
「迎撃戦。距離4千で誘導弾発射。あとはCIWS(近接迎撃兵器システム)で、対処してみせよ」
『クォルガルード』型戦闘輸送艦部隊は、ノヴァルナが使用する頻度も多いだけあって、非常に練度が高かった。敵攻撃艇編隊の接近を待って、八隻の艦が密集陣形を取り、タイミングを合わせ一斉に誘導弾を発射した。数は合わせて五十発と、そう多くはない。命中したのも四発のみだ。ところが誘導弾は牽制であり、それを躱したあとに待っていたのが、CIWSによる猛烈な防御火箭だった。まるでビームの壁のような威力に、攻撃艇部隊はたちまち粉砕される。
▶#12につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
母の城 ~若き日の信長とその母・土田御前をめぐる物語
くまいくまきち
歴史・時代
愛知県名古屋市千種区にある末森城跡。戦国末期、この地に築かれた城には信長の母・土田御前が弟・勘十郎とともに住まいしていた。信長にとってこの末森城は「母の城」であった。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】
野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。
子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。
見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。
過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。
ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか?
十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。
真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。
若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。
天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる