125 / 344
第5話:ミノネリラ征服
#06
しおりを挟むマーディン率いる『トルーパーズ』が接触したのは、紛れもなくロッガ家の特殊BSI部隊、“コーガ五十三家”の一団である。
彼等が使用している機体は、皇国直轄軍でも採用しているBSIユニット、『ミツルギ』の親衛隊仕様機『ミツルギCC』だが、これをさらに改造した“コーガ五十三家仕様”の、『ミツルギCCC(Coga Command Custom)』と呼ばれる機体だ。
『ミツルギCCC』の特徴は、限界まで高めた瞬発性と、戦闘時でも機能する準ステルス能力にある。機体加速や各関節駆動部のレスポンスは、操縦者自身を置き去りにするほどの素早さを有し、準ステルス機能が相手機体のセンサーへの、補足面積を最小限にしていた。マーディンらの機体のセンサーが、『ミツルギCCC』の反応を、カラスなどの野鳥サイズでしか補足できないのは、この準ステルス機能のためだったのだ。
通常のステルスモードなら、『シデン・カイXS』などの一般的な親衛隊仕様機以上の機体も備えている。しかしこちらのステルスモードは、一定速度で飛行している間は、長距離センサーに感知されないというものであった。これに対し準ステルス機能は、センサーには感知されるが、そのサイズを小さくする事で、逆に相手を攪乱するのである。
その準ステルス機能が、さらに『トルーパーズ』の機体を仕留める。目標となった『トルーパーズ・18』が、自分へ真っ直ぐ接近するセンサー反応に向け、超電磁ライフルを放つと、それは命中直前に三つに分かれた。反応のサイズが小さいため、三機がひと固まりとなっていたのが分からなかったのだ。
無論、『トルーパーズ・18』のパイロットも腕利きである。この事態に即座に機体を翻して、三方向から回り込まれる事を避けようとした。ところが次の瞬間、三方向に分かれた反応のうちの一つが、さらに二つに分かれると片方が急加速。前方へ先回りして来る。『トルーパーズ・18』はその敵機に牽制の射撃を行って、急旋回で新たなコースを取った。だがその行動が命取りとなる。新たに取ったコースは、二つに分かれた敵機のもう片方の射撃ゾーンだったのである。バックパックに超電磁ライフルを銃弾を喰らった『トルーパーズ・18』は、ジャルミス暗黒星雲の雲間に砕け散った。
「敵は厚い連携で来ている。こちらも相互支援に重点を置き、単機戦闘は控えろ。時間を稼げ」
戦闘状況を把握したマーディンは、配下の『トルーパーズ』に指示を出し、自らは『テンライGT』を新たに発見した反応へ向けていた。渦巻く星間ガスの柱の陰に潜む三つの反応。おそらく指揮官機と護衛だ。
この“コーガ五十三家”の先行部隊を指揮しているのが、ザラヌラ=ミーヴェ。ヒト種とほぼ変わらない姿のフェミア星人の若い女性で、褐色の肌と対照的な淡い水色の髪をアクアマリンの瞳が印象的だ。サイバーリンク特性の高い彼女は、専用機のBSHO『バンフウOZ』を与えられている。
「ふぅん…結構、しぶといよね」
戦術状況ホログラムを眺めながら、ザラヌラは唇を尖らせて不満そうに言う。ただその口調は軽い感じだ。こちらはこちらで、思ったほど戦果が挙がって来ていない事に、戸惑いを感じ始めていたのだ。
当初の予定では、ウォーダ側の迎撃部隊を十分で半数撃破、突破して、こちらのBSI本隊の露払いを行う手筈であった。それがいまだ敵を三機しか撃破できていないのは、誤算と言っていい。それだけ敵の親衛隊仕様機パイロットの、技量が高いという事だ。ウォーダ家の姫が乗った船を守らなければならないとあって、士気も高いのだろう。
「間もなく、本隊が発艦する時間ですが」
ザラヌラの護衛に付いている、『ミツルギCCC』の一機が通信を入れて来る。
「仕方ないなぁ…」
ザラヌラは操縦桿に両手を置いたまま、んー…と背伸びをした。
「みんなの手柄を横取りしちゃうかもだけど、このままじゃ、モティガン様に叱られちゃうだろうからね。あたしが突破しようか」
軽い口調でそう言って、機体を発進させるザラヌラ。だがその時。前方に林立する渦巻く星間ガスの柱の間を縫って、ウォーダ家の機体が一機、急接近して来る事に気付いた。
「敵? こんなところまで? はやっ!」
こんなところまで接近を許した事に、意表を突かれたザラヌラの視界の中で、センサーが敵機の射撃反応を表示する。ロックオン警報が鳴らないのは、自分が照準されたのではない。次の瞬間、全周囲モニターが右側に映していた、護衛の『ミツルギCCC』が大きく機体をロールさせた。回避運動だ。銃弾を一発回避。ところがそのロールが終わらないうちに次の銃撃が来て、護衛機は爆散した。サッ!…と緊張するザラヌラ。どこか呑気そうだった眼が、一瞬で野獣のように鋭くなる。
「敵の機体…BSHO『テンライGT』!」
準ステルス機能を作動させていたはずの護衛機を、僅か二発で撃破した敵機の名を、解析情報から得て口にするザラヌラ。その『テンライGT』を駆るマーディンは、加速を続けながら強く言った。
「的が小さくとも、しっかり狙えば当てられるさ!」
▶#07につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
Solomon's Gate
坂森大我
SF
人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。
ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。
実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。
ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。
主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。
ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。
人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる