112 / 262
第4話:ミノネリラ騒乱
#29
しおりを挟むかくして翌11月14日、トミック星系へ到着したサートゥルス/ウォーダ連合軍は、第五惑星ドボラの衛星軌道上に浮かぶ、ドボラ宇宙城への攻撃を開始する。
敵将ブルティカ・ガルキウ=キーシャは、連合軍艦隊の中にウォーダ軍の総旗艦である戦艦『ヒテン』と、ノヴァルナの専用艦『クォルガルード』の両方が居る事を確認。セーキァ星系で出撃準備中の筆頭家老トモス・ハート=ナーガイのもとへ緊急電を送った。
そしてこれがトモスとイースキー軍に迷いをもたらす。
二年前に戦国最強と謳われたイマーガラ家に、“フォルクェ=ザマの戦い”で奇跡的勝利を収めたウォーダ家のノヴァルナ。その時にとった作戦が、“総旗艦にも専用艦にも乗らない総司令官”だった。両方の艦をマークしていたイマーガラ軍だが、ノヴァルナはそのどちらでもない中古タンカーの中に隠した、自分の機体を含む僅か七機のBSI部隊で、イマーガラ軍本陣を急襲したのである。
「ノヴァルナ殿は、どこにおるのだ?」
出航準備をほぼ終えていた旗艦の艦橋で、トモスは困惑した顔を参謀に向けた。殺害されたビーダとラクシャスとは違い、“ミノネリラ三連星”などと同じくベテラン武将の一人でもあるトモスは、戦術眼は確かである。ただそうであるが故に、慎重にならざるを得なかった。“フォルクェ=ザマの戦い”により、ノヴァルナは他の星大名と違い、総旗艦に乗る事に固執する事無く、どの艦に乗っても不思議ではない、と思われるようになっていたからだ。
するとそこへドボラ城から続報が届く。ノヴァルナの専用艦『クォルガルード』が、小部隊を率いて別行動を取り始めたというのである。どうやらその小部隊は、ドボラ城を通り過ぎて、トミック星系の反対側外縁へ向かっているらしい。
「これは…我等の増援を、阻止するためのものか」
トモスの判断は正しかったが、問題はこの小部隊の指揮官が、ノヴァルナなのかどうかという事だ。本当にノヴァルナだったなら、優先して倒すべきはこちらの小部隊となる。
迷った挙句、トモスは自分の艦隊でこの小部隊を叩く事にして、ドボラ城への増援には、近くのカーベ星系を領地とする独立管領ダルタ=ヴェルタに、艦隊を緊急出動させるよう命じた。
対するノヴァルナには無論、迷いなど存在しない。『クォルガルード』の艦橋で胸を反らして司令官席に座り、トミック星系最外縁部のさらに外、彗星の巣と呼ばれる星間物質群“タクバークの雲”で、敵トモス艦隊を待ち伏せする事を告げた。
“タクバークの雲”内に展開したノヴァルナの第1特務艦隊はこの時、『クォルガルード』型戦闘輸送艦が、当初の建造計画通り八隻にまで増えていた。これに軽巡航艦が二隻と、駆逐艦が十二隻随伴するようになっており、防御力に些か難点はあるものの、軽空母を中心に置いた航宙戦隊よりは、砲戦能力で勝るレベルに達している。
水、二酸化炭素、メタンなどの微細な氷の粒によって、トミック星系を包むように構成される“タクバークの雲”。主恒星の光がほとんど届かないこの空間では、氷の粒も黒く透き通り、宇宙艦の放つ光を反射した場合を除いて視認は難しい。
「前哨駆逐艦より敵発見の報告です」
旗艦『クォルガルード』の艦橋に、オペレーターの声が響く。しかし司令官席にノヴァルナの姿はない。すでにその身は青いパイロットスーツに包まれて、自らの専用BSHOのコクピットにあったからだ。
戦術状況ホログラムに外宇宙からトミック星系内へ侵入しつつある、イースキー家第2艦隊が映し出されている。戦艦13・重巡15・軽巡18・駆逐艦36、空母8…かなり強力な戦力のように思われる。
「ふん…ま、こういう状況にゃ、慣れてっからな」
ノヴァルナは独りごちると、艦橋で指揮を執るマグナ―准将へ通信を入れた。マグナーはこれまでの功績が認められ、准将へ昇進しており、ノヴァルナがBSHOで出撃した際には、第1特務艦隊全体の指揮を執る、次席司令官の権限を与えられている。
「マグナー准将。艦隊を敵部隊に接近させてくれ」
マグナーから「御意」の応答があると、ノヴァルナは通信チャンネルを『ホロウシュ』達と、魚雷艇部隊に切り替えた。『クォルガルード』型戦闘輸送艦は、六機のBSIユニットの搭載が可能であり、ノヴァルナと『ホロウシュ』の機体は四隻で収まるため、残りの四隻には二十四隻の魚雷艇が搭載されている。
「いいか。まず俺達BSI部隊が出る。魚雷艇部隊は、俺が指示したら一気に発艦して突撃だかんな」
するとランが問い掛けて来る。
「ライフルの弾種は、初手から対艦徹甲でいきますか?」
これを聞いたノヴァルナは含みを持たせた返事をした。
「いんや。今回はアレを使ってみる」
そして距離が詰まり、BSI部隊の発艦位置に到達した『クォルガルード』は、格納庫の扉を開く。その中から姿を現したノヴァルナの機体は、以前と少し外見が変わっていた。精悍さを増した機体の名を告げるノヴァルナ。
「ウイザードゼロワン。『センクウ・カイFX』、発艦するぜ!」
ノヴァルナの新たな専用機『センクウ・カイFX』は、ウォーダ軍の主力BSIユニットが、設計段階からの見直しによって、『シデン』から『シデン・カイ』に更新されたのに伴い、BSHOの『センクウNX』も設計段階から刷新され、誕生したものである。
対消滅反応炉の出力が向上し、機体のメインフレームも強度が上がって、さらに高機動戦闘能力が向上。その一方で通常の超電磁ライフルに加えて、それよりひと回り大きく、銃身も長い大型ライフルを装備していた。外観は『センクウNX』をさらに筋肉質にした感じで、白銀と黒に塗分けられていた塗装は、白銀の部分が増えている。
第1特務艦隊を発艦したノヴァルナ以下、BSI部隊は十八機。ナルマルザ=ササーラとヨヴェ=カージェス、そしてヨリューダッカ=ハッチは宙雷戦隊司令官として、ノヴァルナの親衛隊の『ホロウシュ』から転出していた。現在の指揮官はシンハッド=モリンだが、隊長というよりは学級委員長みたいな感じである。またノヴァルナの直掩はラン・マリュウ=フォレスタは変わらないが、ササーラの代わりにジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムが務めていた。
「こちらコマンドコントロール。敵艦隊よりBSI部隊が出撃した模様。接敵予想時間まで約10分」
『クォルガルード』を経由して、前哨駆逐艦からの情報が伝達される。こちらの動きを察知して、イースキー軍第2艦隊もBSI部隊を発進させたようだ。敵機の想定数は360機前後、ノヴァルナ達の二十倍にのぼる。数の上ではやはりノヴァルナ達が圧倒的に不利なように思えた。
しかしノヴァルナは落ち着いた調子で、『ホロウシュ』の一人ショウ=イクマが操縦する、電子戦特化型の『シデン・カイXS‐CE』に通信を入れる。
「ウイザード18。電子共鳴弾をライフルに装填して、俺に続け」
ノヴァルナはショウにそのように命じて、機体を加速、ランとフォークゼム機をともに従え、さらに自分達から敵BSI部隊へ接近して行った。
無論、この動きはイースキー軍のBSIパイロット達も掴んでおり、指揮官はノヴァルナが大した手勢もなく、自身を入れて僅か四機で、近寄って来ていた事に気付いている。
「これはチャンスだ! 敵は足並みがそろっておらん。この機に乗じ、ノヴァルナに集中攻撃を仕掛けて、討ち果たすのだ。そうすれば褒美は思うままだぞ!」
指揮官の煽り文句でイースキー軍のBSI部隊は、ノヴァルナ機に向けて殺到し始めた。だがノヴァルナは不敵な笑みを絶やさない。
▶#30につづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる