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第4話:ミノネリラ騒乱

#26

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 “オルグターツを表舞台に引っ張り出したところで、今更どうにもならない”というノヴァルナの言葉は当たっていた。いや、実情はそれより酷いと言っていい。

  ノヴァルナが今後の方針を述べ、フェアンの結婚話で重臣達を驚かせているのと同じ頃、オルグターツ=イースキーは、イナヴァーザン城の作戦司令室で喚き声を上げていた。

「ハーヴェンとかいう奴ァ、どこへ逃げたァ!! 探し出しで絶対に殺せェ!!!!」

「そ、それがすでに、アザン・グラン家のエテューゼ宙域に入ったらしく、簡単には手出し出来ない状況でして…」

 恐る恐る報告する情報参謀の一人。オルグターツはその男を「なにィ!?」と言って睨み付け、両腕で軍装の胸ぐらを締め上げる。

「だったらすぐゥ、アザン・グラン家と交渉してェ、引き渡させろォ!!」

 そこに「お静まり下さい」と声を掛ける、“ミノネリラ三連星”のリーンテーツ=イナルヴァ。

「当家はアザン・グラン家とはまだ、さほどよしみを通じておりません。交渉しても、すぐ引き渡しは難しいと存じます」

 これを聞いたオルグターツは、何かを言い返そうとしたようだが、強面こわもてのイナルヴァの迫力に気圧されたらしく、胸ぐらを締め上げたままの参謀に、八つ当たり気味に命じる。

「だったらァ! 城の警備責任者とォ、当日警備していた奴等を全員処刑だァ!!」

 イナヴァーザン城が襲撃を受けた際、オルグターツは着の身着のまま自分の館から親衛隊に守られて脱出。地下通路を使って、城のあるキンカー山の麓に基地を構える陸戦隊第1師団司令部に逃げ込んだ。そして三日が経ち、城内の安全が確認されたため、襲撃後はじめて城へ帰還したのである。

 城へ戻ったオルグターツは、ともに額を撃ち抜かれたビーダとラクシャスの遺体と対面し、かつての愛人達の死に、最初は打ちひしがれた様子で涙を零していたのだが、すぐに怒りへと変化した。
 ただそれは、ビーダとラクシャスを失った事に対する、復讐心というような怒りではない。ミノネリラ宙域の状況が自分の認識とは大きく異なって、ウォーダ家にかなりの領域を浸食され、一部では独立管領の寝返りまで起きている事…つまり真実を知って怒り出しているのだった。

「だいたいィィィ! なんで俺の宙域が、こんなザマになってんだァ!! 話が違うじゃねぇかァァァ!!!!」

 自分の怠惰が招いた結果である事を棚に上げて、作戦司令室の中央に表示されている、ミノネリラ宙域の宇宙地図ホログラムを指さし、怒鳴るオルグターツ。
 
 だが喚いたところで、オルグターツに方策があるわけでは無く、眼についた若手の艦隊司令官を捕まえて言い放った。

「おいっ、これはどうなってるゥんだ!? なァんでウォーダの勢力圏が、こんだけ広がってる!? 奴等は全部、ミノネリラから叩き出したんじゃないのかァ!!??」

「え!?…は?…え!?」

 思いがけない事を訊かれて、相手は眼を白黒させる。その若手司令官はビーダとラクシャスの子飼い武将の一人であったが、ウォーダ軍に対して不利となって来ているミノネリラの現状は、子飼いであった彼等ですら正確に把握しており、オルグターツが何を言っているか、まるで理解できない様子だ。

「残念ながら、これが我等の現状です」

 戸惑う若手司令官に代わって、重々しい声でリーンテーツ=イナルヴァが告げると、オルグターツは「なァあにィ!!??」と声を荒げた。それに応じたのはナモド・ボクゼ=ウージェルである。

「ザイード殿やハルマ殿の、殿下へのご報告内容は、些か正確さに欠けていたように思われます」

「あの二人がァ、俺をォ騙してたってェのかァ!?]

 するとビーダとラクシャスの子飼いだった、別の若手司令官が宥めるように、言葉を選んで取り繕う。

「いえ、そうは申しません。あのお二人は余計なご心痛をおかけすまいと、殿下には安泰のご報告をし、その裏で、報告通りの状況になるよう、必死の思いで国政にあたっておられました」

 これを聞いて他の子飼い武将達も同意の声を上げる。その言葉を聴いて、オルグターツも幾分機嫌を直したらしく、「おお…ううむ…そういう事かァ…」と言いながら何度か頷いた。
 しかしどうであろうか、ビーダとラクシャスが集めて来た連中らしく、若手司令官達は早くも、死んだ主に成り代わり、オルグターツに取り入ろうとしているように見える。

「このうえは、オルグターツ様こそが頼りにございます!」

「我等一同、オルグターツ様の御ために、粉骨砕身、努力して参ります!」

「必ずや、イースキー家の栄光を、取り戻して見せまする!」

 口々に持ち上げる言葉を発する若手司令官達に囲まれ、まんまと丸め込まれたオルグターツは、「んー…ぬふふふふ…」と笑いを漏らすようになった。

 この光景に、“ミノネリラ三連星”をはじめとする、イースキー家のベテラン武将達は、互いに顔を見合わせて無言のまま、失望感を浮かべた顔を二度、三度と左右に振ったという………




▶#27につづく
 
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