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第4話:ミノネリラ騒乱
#20
しおりを挟むその時、奥の院のオルグターツ=イースキーは、ビーダとラクシャスとの通信に連れていた若く美しい異星人の男女に対し、歪んだ欲望を満たそうとしていた。
もはや寝室とも広間ともつかない、ホール状になった円形の大きな部屋には、光度を落とした赤や紅や紫の照明が交わる薄暗がりの中、四十組以上の裸体が床に敷かれた分厚い絨毯の上で肌を重ねている。
それらは男と女、男と男、女と女…そして一人と一人、一人と複数、複数と複数と多種多様。汗やその他の体液が放つ異臭と、淫靡な喘ぎ声が満ちた広間のそこかしこには、銀製の瀟洒なワゴンが置かれ、その上には散乱した酒のボトルとグラスに加え、高い催淫効果を誘発するドラッグのカプセルが盛られた、トレーが乗っている。彼等は人種こそ多様だが、みな若く美しい。
いずれも放蕩者の主君に上手く取り入ろうという、新参の家臣からの“献上品”であったり、“○○には○○という美しい者がいる”という評判を聞きつけたオルグターツが、家臣に命じて強引に連れて来させた男女だ。最初は頑なに拒んでいた者も、逃げる術もなくドラッグ漬けにされては、このように堕ちるしか道はない。オルグターツはこの交わり合い続ける男女の中から、その時の気分で自分の相手を選び出していた。
オルグターツがいるのは、そんな異常な空間の中心。段にして三段高い中心部に据えられた、屋根付きでキングサイズ以上あるベッドの上だ。大人が五人並んでも余裕で寝られるほど広い。ベッドの上や周囲には、数々の醜悪な性具。さらにベッドの左脇には、誰かの手足を拘束して乗せる、拘束台まで運び込まれている。
「ヒャハ!…ヒャヒャヒャ…」
一糸纏わぬ姿で並べて寝かせた女と男の間に、小太りの体を割り込ませて重ねたオルグターツは、アルコール臭のする吐息とともに笑い声を上げると、頭部に羊のものと似た巻き角を持つ、サンプナ星人の女の胸に舌を這わせ始めた。その間にも一方の手は、頭部に蟻の触角を持つアントニア星人の少年の股間をまさぐる。二人とも、ビーダとラクシャスを謁見する前に飲ませた、催淫ドラッグが一番効いている時であり、オルグターツの愛撫に激しく裸身を悶えさせる。その反応の良さにオルグターツは笑い声を上げたのだ。
“これだからァ、止めらんねェ”
父親のギルターツの死によって得た当主の座だったが、蓋を開けてみると、政治などはまるでつまらなく、一日で飽きた。あんなものに必死になって、殺し合いまでしてるのは、全く理解できない。幸いビーダとラクシャスの奴が、あんなものをやりたがっているようなので丸投げした。やりたがっている奴にやらせるのが、正解だからだ。そんなものより、こうやって楽しい事だけしてるのが、いいに決まっている。
“なんたってェ。俺ァそれが許される、星大名様なんだからなァ!”
そこへ突然、広間を囲むように配置された複数の扉が開け放たれ、完全武装の兵士が次々と雪崩れ込んで来た。いや、クーケンの特殊部隊ではない。オルグターツの親衛隊だ。このような自堕落な主君でも、星大名であるのだから、警護の親衛隊が控えているのは当たり前である。
親衛隊の指揮官は、薬漬けの頭では突然の事にも対応できず、性行為を続ける人間達の間を、部下と共にドカドカと突き進み、オルグターツの前で呼び掛けた。
「オルグターツ殿下!」
「………」
上半身を起こし、唖然とした表情で見返すだけのオルグターツに、親衛隊指揮官は構わず非常事態を告げる。
「デュバル・ハーヴェン=ティカナック様ご謀叛。およそ十五分前よりイナヴァーザン城はメインシステムが遮断され、外部連絡等は不能。殿下の御身も危険と判断致します。即座にご退去を!」
旧サイドゥ家時代より、主君の親衛隊はイナヴァーザン城内に、独立した警備システムを構築していた。クーケンの部隊によって、メインのセキュリティシステムが遮断された事を感知し、あらゆる状況データが親衛隊の警備システムへ、集められたのである。ただ退去を進言された当のオルグターツは、指揮官の言っている事が全然理解できていない様子だった。
「…デュバル…なァに? 誰ェそいつ?」
一度ならずノヴァルナの軍を打ち破り、イースキー家を救って来たハーヴェンの名すら、オルグターツは知らない。ビーダとラクシャスが、ミノネリラ宙域の現状を何一つ、正しく報告していなかったからだ。
これは駄目だ…と、オルグターツの鈍重そうな反応を見て感じ取ったのだろう、指揮官は背後にいた部下達に命じた。
「殿下に即刻ご退去して頂く。何か着るものを差し上げてお連れしろ。脱出には、六番地下通路を使用。急げ!」
硬く屹立していた物がすっかり萎えた下半身に、下着もなくズボンだけを穿かされたオルグターツは、上半身裸で両脇を親衛隊員に抱えられ、連行されるように半ば引きずられていく。その表情はまだ、何がどうなっているのか、飲み込めていないのが分かる。
オルグターツはがいなくなったベッドの上では、“ご主人様”を失ったアントニア星人の少年と、サンプナ星人の女がドラッグの効果に耐えられず、二人で始めていた。そして周囲でも、状況に無関心で絡み合い続けている、薬漬けにされた無数の裸身…
親衛隊指揮官は、主君オルグターツに対し不敬だと思ったが、その光景に床へ唾を吐きたくなり、そしてその通りにした………
▶#21につづく
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