銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第4話:ミノネリラ騒乱

#03

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 皇国暦1562年5月22日。シン・カーノン星団。

 味方の重巡航艦が爆発するまばゆい光が、総旗艦『ヒテン』の艦橋内を明るく照らし出し、眉間に深い皺を刻んだノヴァルナの顔の陰影を際立たせる。

 しかも爆発の閃光はこれだけではない。『ヒテン』の艦橋から視認できる範囲でも、少なくとも十の閃光が見て取れる。戦術状況ホログラムには、前衛の第8と第10艦隊が突破された、非情な現実を映し出されていた。

「フォレスタ様の直率BSI中隊が押されています!」

 緊迫した声で報告するオペレーター。専用機BSHO『レイメイFS』で出た、第6艦隊司令のカーナル・サンザー=フォレスタと、その親衛隊だったが、リーンテーツ=イナルヴァとモリナール=アンドアそれぞれが、自らも搭乗して出撃して来たBSI部隊に、守勢一方となっている。
 
 そしてノヴァルナの第1艦隊からも、つい先日、専用BSHO『テンライGT』を受領したトゥ・シェイ=マーディン率いる、BSI部隊『トルーパーズ』が緊急出撃している。BSHO『ノワケEN』に乗る、ナモド・ボクゼ=ウージェルの部隊が、ノヴァルナの第1艦隊を狙って急速接近して来たからだ。

 BSIパイロットとしても高い技量を持つ“ミノネリラ三連星”だが、今回のように三人ともがBSIユニットで出て来る事は稀である。艦隊司令官でもある三人が、揃ってBSIユニットで出てしまうと、幾ら機上から指揮したり、旗艦に残した参謀長に指揮を代行させても、連携面など何かと不都合なためである。
 ところが今回は、三人ともがBSIユニットで出ていた。その理由はデュバル・ハーヴェン=ティカナックの存在だ。ハーヴェンが舅であるアンドアの旗艦から、三人の艦隊の指揮を一人で行っていたのである。

 ハーヴェンの戦術は今回も巧妙であった。

 ドルグ=ホルタの予想通り、シン・カーノン星団でイースキー軍が待ち構えているのを発見したノヴァルナは、自らの第1艦隊を中央に据え、第8、第10艦隊を上下前衛、第3艦隊を上方左翼、第5艦隊を下方右翼、第6艦隊を中央後方に配置して、全方位からの襲撃に備えた。
 対するイースキー家は“ミノネリラ三連星”の第2、第3、第4艦隊に、これも旧サイドゥ家時代からの武将、ダノルア=サートゥルスの第6艦隊が加わった、四個艦隊と数的不利な状況である。ここでハーヴェンは前衛にアンドア艦隊、中央にイナルヴァ艦隊、後方にウージェル艦隊、そして中央下方にサートゥルス艦隊を布陣させた。双方の部隊が遭遇したのは、シン・カーノン星団に属するカタログナンバーSDY‐76329954の、青白いA型系列恒星の近くだ。

 数的不利な状況で、防御力の高いアンドア艦隊で攻撃を受け止め、機動戦が特異なウージェル艦隊が、後方からBSI部隊で攻撃を仕掛ける。そして戦況が拮抗したところで、攻撃力を誇るイナルヴァ艦隊が、サートゥルス艦隊の支援を受けて、攻勢に出るという、比較的セオリー通りの戦術が予想される布陣である。

 ただハーヴェンがいた事で、やはり会戦はセオリー通りではなかった。

 両軍が距離を詰めると、イースキー家の前衛で盾の役目を担うと思われていた、アンドア艦隊がまず突撃を仕掛けて来たのだ。そしてそのあとをすぐ、イナルヴァ艦隊を支援するものと思っていた、サートゥルス艦隊が続く。これでノヴァルナ軍は劈頭から混乱を始めた。
 
 二対一の戦力差で、敵前衛のアンドア艦隊を押し込もうとしていた、ウォーダ軍第8と第10艦隊は、この突撃によって両艦隊の間に楔を打ち込まれた。さらにアンドア艦隊は両艦隊の間に居座り、ウォーダ軍戦力の漸減を開始。しかもアンドア艦隊の下側を潜り抜けるようにして、前面にせり出して来たサートゥルス艦隊が、今度は前衛部隊とノヴァルナの本陣三個艦隊の分断を図る。

 ただここまでの動きは、ハーヴェンの才覚を警戒していたノヴァルナには、ある程度予想がついていた。正攻法に見せ掛けた奇襲は、ノヴァルナ自身も得意とするところだったからだ。この緒戦での敵の動きに対して、ノヴァルナは即座に命令を下し、左翼の第3艦隊と右翼の第5艦隊を前進させる。前衛と本陣の間に突出したサートゥルス艦隊を、挟撃で粉砕するためだ。

 しかし第3、第5艦隊が前進した直後、さらなる敵が出現する。ノヴァルナ軍から見て右後方に位置する、恒星SDY‐76329954の裏側から、BSI部隊の大軍が襲い掛かって来たのである。
 この部隊は空母打撃群のイースキー家第5艦隊、ナモド・ボクゼ=ウージェルの空母から予め発艦し、恒星SDY‐76329954の裏側に隠れていた―――航行して来るノヴァルナ軍に対して、常に恒星の裏側にいるように、移動し続けていた部隊だった。SDY‐76329954は青白く輝く若い恒星であり、大量の電磁波を放出している。これが宇宙艦より遥かに小型のBSIユニットを、探知し難くしていたのだ。

 ウージェル艦隊のBSI部隊が目指したのは、ノヴァルナ軍本陣の後方にいた、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊である。ウージェル艦隊とほぼ同規模の空母打撃群である第6艦隊は、素早くBSI部隊を発艦させてこれに対応したものの、主戦場となっている前衛方向へ戦力を向ける事が出来なくなった。
 数的優勢を持っているはずのウォーダ軍が、ノヴァルナの第1艦隊を除いて全て戦闘に拘束されたこの時を狙い、ハーヴェンは“ミノネリラ三連星”も専用機に搭乗させて、イナルヴァ艦隊を中心にノヴァルナの第1艦隊への攻撃を指示する。三連星を専用機に乗せたのは味方の将兵に、自分達が圧倒的有利となっていると思わせ、各個の士気を高めるためだ。

 そしてこのハーヴェンの策は見事に嵌り、統制を失ったウォーダ軍は本陣近くまで敵の接近を許す事態となっている。何よりも攻勢のためではなく、本陣防衛のため、トゥ・シェイ=マーディンの『トルーパーズ』を出す羽目に陥っているのが、その証拠であった。



▶#04につづく
 
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