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第4話:ミノネリラ騒乱
#02
しおりを挟むアイノンザン星系がキオ・スー家の支配下に入った事で、敵対的中立を保っている幾つかの独立管領を除いて、オ・ワーリ宙域の統一を果たしたノヴァルナは。これによりミノネリラ宙域への進攻の度合いを高めた。
5月15日には建設中の『スノン・マーダー城』に、ノヴァルナが直卒する第1艦隊の他、第2、第3、第5、第6、第8、第10、第11、第13の九個艦隊が集結。このうち第2、第11,第13艦隊を残し、イースキー家の本拠地ミノネリラ星系第三惑星、バサラナルムを目指して進発した。バサラナルムの攻略に見せ掛けて迎撃に出て来た艦隊を叩き、将来的に行う本当のバサラナルム攻略への布石を打つのが目的である。
この作戦には、“フォルクェ=ザマの戦い”のあと、ノヴァルナの同盟者となったミ・ガーワ宙域星大名のトクルガル家と、カイ/シナノーラン宙域星大名のタ・クェルダ家も協力しており、ミノネリラ宙域との領域付近に艦隊を集結させる事によって、イースキー家の戦力を対ノヴァルナへ集中できないようにしていた。
『ナグァルラワン暗黒星団域』を抜けたウォーダ軍六個艦隊は、ミノネリラ宙域の中核部を目指し、一斉に右舷方向へ進路変更中だ。
総旗艦『ヒテン』では、ゆっくりと流れていく『ナグァルラワン暗黒星団域』の外部映像を背景に、ノヴァルナが昼食を取っていた。惑星ラゴンのパルソミアロブスターの身と味噌を、ふんだんに使ったソースのパスタは、ノヴァルナの好物の一つである。
そして相伴するのは、今回の作戦のためにラゴンからやって来た、元サイドゥ家の重臣ドルグ=ホルタであった。ミノネリラ宙域内の水先案内人として、ノヴァルナが呼び寄せたもので、この昼食のパスタソースもドルグの手土産だ。
「やはり、『スノン・マーダー』を手に入れられたのは、大きいですな」
そう言ってドルグは、パスタを絡めたフォークを口に運ぶ。ノヴァルナはやや辛味のあるソースの中に主張する、海老味噌のコクを楽しみながら頷き、グラスの冷水をひと口啜ってから応じた。
「七年前にウチの親父が攻め込んだ時は、足場を固めないまま、長距離を突っ込んで行って負けましたからね」
ノヴァルナが言っているのは七年前に、ノヴァルナの父ヒディラスが勢いに任せてミノネリラ宙域に攻め込み、“カノン・グティ星系会戦”で大敗。その影響で家勢が大きく削がれた事についてである。『スノン・マーダー城』築城を重要視したのも、これについての反省を踏まえたものだったのだ。
またアイノンザン星系が支配下となった事で、ノヴァルナ軍はアイノンザン星系を後方支援基地とし、カーマック星系を中継基地、スノン・マーダー城を前線基地とした、強力な補給線を確保する事が出来たのが大きい。今回の大艦隊による進攻作戦も、この補給路があればこそである。
「ところでホルタ殿」
「はい」
「我等は、七年前の親父の時とは違う進軍路を取っているわけですが、イースキー家のの迎撃部隊が待ち構えるとすれば、どの辺りになると思われますか?」
この質問こそが、ノヴァルナがドルグ=ホルタを呼び寄せた、最大の理由であった。ミノネリラ宙域の防衛体制は、旧サイドゥ家時代とほとんど変わっていないようであり、ノヴァルナ軍が『スノン・マーダーの空隙』から進発した場合、敵がどこに迎撃部隊主力を配置するかというのは、非常に重要な想定となる。
「そうですな…」
ドルグはそう言いながら考える眼をする。
「シン・カーノン星団ではないでしょうか」
「シン・カーノン星団…?」
「はい。ミノネリラ星系と『スノン・マーダーの空隙』の、ほぼ中間地点にある若い星団で、補給施設などはありませんが、拠点として使用して良し、戦場として選んで良し…といったところです」
「なるほど…ホルタ殿がイースキー家の大将だとして、やはりこの星団で我等を待ち受けられますか?」
「はい。ほかにも幾つか候補はありますが、いずれも一長一短がありますゆえ、スノン・マーダー方面からの侵攻に備えるなら、やはりシン・カーノン星団です」
再び「なるほど」と応じたノヴァルナは、さらに付け加える。
「イースキー側戦力の中核は、“ミノネリラ三連星”…これも確実でしょうね?」
「間違いなく」
現在のイースキー家で実権を握る、側近のビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマとは、折り合いの悪い“ミノネリラ三連星”のリーンテーツ=イナルヴァ。モリナール=アンドア、ナモド・ボクゼ=ウージェルであるが、主家の存亡の危機ともなればさすがに彼等、歴戦の三武将を中心に据えねばならないだろう。
積極果敢な攻撃型のイナルヴァ。堅牢無比な防御型のアンドア。臨機応変な機動型のウージェルは、旧サイドゥ家時代から主家を支え続けた大黒柱である。彼等を打ち破れば、他のイースキー家将兵の士気を大きく低下させ、バサラナルム攻略を早める事も可能だろう。
ただその一方でノヴァルナが警戒するのは、一度ならずウォーダ軍を打ち破り、近頃頭角を現して来たデュバル・ハーヴェン=ティカナックであった。
実はノヴァルナは、『スノン・マーダーの空隙』を確保してすぐに、ブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊を、威力偵察としてミノネリラ星系方面へ進出させたのだが、イースキー家の待ち伏せに遭って、主将ブルーノも重傷を負う大損害を受けていた。
小戦力の恒星間防衛艦隊四個が出現。ブルーノはこれを各個撃破するため、まず最初の一個艦隊に向かったのだが、これらの小艦隊は四つの恒星間防衛艦隊ではなく、デュバル・ハーヴェン=ティカナックと、“ミノネリラ三連星”がそれぞれに直率する小部隊だったのだ。
防御に強いモリナール=アンドアの部隊がまず突出して、ブルーノ艦隊を誘引。その間にハーヴェンとリーンテーツ=イナルヴァ、ナモド・ボクゼ=ウージェルの三部隊が合流して、アンドア艦隊を攻めあぐねていたブルーノ艦隊へ襲い掛かったのである。
こういった戦術は、これまでの“ミノネリラ三連星”の戦歴データにはなかったもので、おそらく戦術指導をハーヴェンが行ったのだろうと、ウォーダ軍では分析していた。ハーヴェンの才が、“ミノネリラ三連星”の戦術に、幅を持たせたのであり、『スノン・マーダーの空隙』に橋頭保を築けても、前途は多難である事を示している。
“厄介なヤツが現れたもんだぜ…”
単純に武人としてなら、ハーヴェンと戦略・戦術を競ってみたいと思うノヴァルナだが、今の自分はウォーダ軍とその領民の安寧、そしてさらに星帥皇テルーザと誓った、共に戦乱の世を終わらせ、銀河皇国に秩序を回復させるという、大望がある。それを考えるなら、ハーヴェンの出現は有難くない事この上ない。
そしてノヴァルナの懸念は現実のものとなった―――
▶#03につづく
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