銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第3話:スノン・マーダーの一夜城

#38

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 かつてのイマーガラ家との戦いで艦体に三つの大穴が開き、そのまま破棄された巡航母艦(軽空母)は、ラムセアル艦隊の戦艦から主砲射撃をまともに喰らって、大爆発を起こした。
 そしてその砕けた艦体は、一隻目のように慣性でバラバラに飛び去って行くはずだった。ところが今度は爆発は起こしたものの、砕けた艦体は、僅かに拡散しただけで、すぐに動きが止まってその場で漂い始める。続いて三隻目、四隻目の廃棄艦も爆発するが、やはり砕けた艦体はほぼその場に留まった。

「なんだ!? どうなっている!?」

 廃棄艦の爆破で、“一夜城”への射線を確保出来ると踏んでいたラムセアルは、予想外の状況に困惑を隠せない。それに対し、オペレーターの分析作業を見ていた参謀が、取得したデータを戦術状況ホログラムに反映させ、振り返って報告する。

「て、敵の仮設基地の周囲に、3Gの重力均衡場が形成されています。これが影響して、爆発による慣性が失われている模様」

「なに!?」

 こちらの思惑を先読みされたのか…と、臍を噛むラムセアル。キノッサが“一夜城”自体の防御力を低下させてまで、周囲に重力均衡場を展開したのは、このためであったのだ。
 爆発で生じた慣性で、砕けた艦体が飛び去らなければ、さらに射線を塞ぐだけである。そして砕けた艦体が爆発すれば、さらに細かくなった艦体が、重力均衡場で“一夜城”の周囲を取り囲む。

「こ…こんなはずでは」

 呻くように呟くラムセアル。ウォーダ家の廃棄艦が爆発する閃光も、それが撒き散らす破片は、かえって“一夜城”を守る盾を増やす、魔法の光となるばかりだ。

 するとその時、ラムセアルが座乗する旗艦の左横で、ひときわ強烈な光が輝く。その輝きは艦橋にも差し込んで、思わず顔を逸らすラムセアルに、オペレーターが切羽詰まった声で告げた。

「左舷方向より敵艦隊!…ウォーダ軍第1艦隊です!」

 馬鹿な!…と思うラムセアル。ウォーダ軍第1艦隊―――ノヴァルナの艦隊ならば、バムルの艦隊と交戦中のはずだ。

「バムルの艦隊はどうした!?」

 ラムセアルが問うと、一拍置いてオペレーターは驚くべき事を伝えた。

「…とっ! 突破されたようです!!」

「なんだと!! なぜ知らせない!?」

「それが、エンシェン様の旗艦の反応が無く、通信も途絶していたようで!」

 これを聞いたラムセアルは背筋が凍る思いに囚われた。事実、バムルの旗艦は、ノヴァルナの『ヒテン』の全力射撃によって、瞬く間に宇宙の塵となっていたのである。
 
 ラムセアル艦隊の悲劇は、それだけでは終わらなかった。別のオペレーターが、追い討ちをかけるように報告する。

「セレザレス様の第9艦隊が潰走。敵の第6艦隊に後方へ回り込まれました!」

 右翼側でカーナル・サンザー=フォレスタの、ウォーダ軍第6艦隊と戦っていたセレザレスの艦隊が、苦戦しているのは知っていたラムセアルであったが、“一夜城”への攻撃に躍起になっていたばかりに、右舷から後方へかけてサンザー艦隊、そして左舷方向からノヴァルナ艦隊に、半包囲される事態を招いてしまったのだ。

「我々だけ…取り残されたのか?」

 茫然となるラムセアルの眼の前、艦橋の直前を、何本もの青いビームが通り過ぎる。ノヴァルナ艦隊の戦艦群からの砲撃だ。

「!!……」

 声を失って腰を抜かすラムセアル。続いて入るノヴァルナ艦隊からの通信。

「ウ…ウォーダ軍第1艦隊より通信。“降伏せよ。全将兵の身の安全は保証する”との事であります」

 オペレーターの言葉に、艦橋にいる全員がラムセアルに振り向いた。どの眼にも敗北感が見える。自分達と同程度の技量を持ったセレザレスとバムルの艦隊を、瞬く間に粉砕したノヴァルナとサンザーの両艦隊と同時に相手取って、勝てる―――いや、生き残れる自信など、あろうはずもない。

 ただラムセアル艦隊の将兵が幸運だったのは、この時、ラムセアルが正しい判断を下した事であった。悪あがきをせずノヴァルナからの降伏勧告を受諾したのだ。
 これに対し、バムルはノヴァルナ艦隊を真正面から迎え撃って戦死していたし、セレザレスは旗艦で逃げ回っていたものの、サンザー艦隊のBSI部隊に追撃されて、やはり討ち死にしていた。もっともラムセアルにすれば、このまま本拠地惑星のバサラナルムへ逃げ帰っても、ビーダとラクシャスに粛清される可能性が高いと考えての結果だったのだが。

 こうしてイースキー家の三個艦隊は敗北し、攻防戦の勝敗はついた。キノッサはどうにか“一夜城”の保持に成功したのである。

 ラムセアル艦隊の降伏を受け、その段取りを終えてから、ノヴァルナはあらためて“一夜城”のキノッサへ連絡を入れた。まずは労をねぎらってやるためだ。
 ところが通信に出たのはキノッサではなく、ハートスティンガーであった。しかもその口調には動揺が隠せない。

「なんだ?…キノッサはどうした?」とノヴァルナ。

「は…それが…」

「それが、なんだ?」

「は…キノッサは司令官席で寝ておりまして、どうやっても起きませんので」

 ここまで不眠不休で防御戦の指揮を執っていたキノッサは、守りきった事で緊張の糸が切れ、その場で爆睡を始めていたらしい。これを聞いたノヴァルナは怒りもせず、「アッハハハ!」と高笑いする。そしてハートスティンガーに告げた。

「わかった。俺達は敵の第二次攻撃があった場合に備える。キノッサの奴が起きたら、俺に連絡を入れさせろ。それから…おまえも寝とけ」



▶#39につづく
 
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