79 / 339
第3話:スノン・マーダーの一夜城
#37
しおりを挟む司令官席で戸惑うキノッサに、戦術状況ホログラムのもとでオペレーター席を覗き込んでいたハートスティンガーが、振り向いて告げる。
「キノッサ。ノヴァルナ公から直接通信が入った」
それを聞いて司令官席から跳び上がり。一本棒のように直立不動の姿勢になるキノッサを見て、ハートスティンガーは戦闘中にも関わらず噴き出しそうになった。
「おう、キノッサ。生きてたか!」
「はっ。ノヴァルナ様!」
ノヴァルナはいつもの不敵な笑みを大きくして頷く。その表情には、安堵の色が僅かに混じっているように見えた。ノヴァルナはスクリーンの中で、さらにハートスティンガーに視線を移して声を掛ける。
「貴殿がマスクート・コロック=ハートスティンガーだな?」
「はっ…」
軽くだが礼儀正しく頭を下げるハートスティンガーに、ノヴァルナは告げる。
「ウチのキノッサが世話になった。礼を言う」
これを聞いたハートスティンガーは、「恐縮至極にございます」と言葉を返しながら、“ウチのキノッサ”という言い回しをしたノヴァルナに、好印象を抱いた。ノヴァルナはハートスティンガーに頷き、キノッサに視線を戻して言い放つ。
「てめーへの陣中見舞いに、手土産を持って来てやったぜ」
「手土産?…この廃棄艦が、ですか?」
「おうよ。コイツらを盾にして、防御に使え!」
「なるほど!」
ノヴァルナが五十隻以上もの廃棄艦を引き連れて来たのは、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊が同行しているように、イースキー家に思わせるのと同時に、“一夜城”と敵艦隊の間に並べて、防御力の弱い“一夜城”の守りの足しにさせるためであったのだ。
事実、“一夜城”への攻撃を、唯一継続していたラムセアル艦隊の砲撃は、大半がこの廃棄艦に命中して、“一夜城”へは届かなくなった。
「じゃ、俺は敵艦隊を叩く。てめーもしっかり守れ!」
そう言って通信を終えたノヴァルナは、不敵な笑みを苦笑いに変えて呟く。
「ふん。サルの猿真似なんざ、面白くもねーがな」
ノヴァルナが“一夜城”の防御補助に、廃棄艦を使おうと思いついたのは、放置状態であった旧サイドゥ家の整備・補給基地を移動させるという、キノッサの着想がヒントになっていたのだ。また時期的にちょうど、宇宙海賊『クーギス党』に、旧式艦を供与する案件があったのも、思考を持って来る手助けとなった。
一方、ノヴァルナとの通信を終えたキノッサは、すぐに思考を巡らせて、ハートスティンガーに指示を出す。
「今のうちに、周囲に重力子を放出して、均衡場を形成するッス」
キノッサが言っている事は、無重力の宇宙空間に重力子を大量投射し、一時的な重力場を形成するという話であった。通常はBSIユニットが機動戦闘で“足場”として使用したり、宇宙基地などで無重力状態では手間取るような外部作業に、使用するもので、防御力とは直接の関りはない。
「重力均衡場? そんなもん、どうするつもりだ?」
「考えがあるッス」
「そっちにエネルギーを回すと、せっかく回復したシールドの出力が、また大きく下がっちまうが…いいんだな!?」
「承知の上ッス!」
主君ノヴァルナとサンザーという力強い援軍の到着で、キノッサ自身の選択は、“一夜城”の防御をさらに固めること一択のはずである。それからすれば、やや的外れな指示ではあったが、きっぱりとした口調に、ハートスティンガーは「分かった」と応じるのみだった。指揮官はキノッサであり、ここまでの働きでその判断能力は、信じるに値すると評価しているからだ。
「重力子投射機の調整に入る。少しだけ待ってくれ」とハートスティンガー。
これに対し、麾下の艦隊に“一夜城”を砲撃させていたラムセアルは、射線上に一斉に突進して来て壁のように並んだ廃棄艦に、眉間へ深い皺を刻んでいた。セレザレスの艦隊とバムルの艦隊が、ウォーダ軍の艦隊と交戦している間に、一気に城を落してしまおうと考え、攻撃を強化したところへ、この廃棄艦の壁が出現したのだから、苛立つのも当然である。
「複数の艦で一隻を狙って、急いであの艦のスクラップを砕いてしまえ。爆砕した慣性で、射線上から弾き飛ばすのだ!」
力押しの命令を下すラムセアル。その考え方は間違っていない。無重力状態の中で艦を爆砕すれば、砕けた艦体は爆発によって生じた慣性で、障害となっていた元の位置に留まることなく、彼方へと飛び去って行くからだ。そして案の定、まず重巡航艦らしい廃棄艦が、複数の戦艦からの主砲ビームに中央部で大爆発。五つに砕けた艦体は、それぞれが別々の方角へ飛んで行く。
「ふ…この通りというわけだ。つまらぬ時間稼ぎを…」
一隻目を上手く排除して、ラムセアルは嘲りの笑みを浮かべた。所詮は時間稼ぎだろうが、大したことはない…と続けて考える。ところがその直後、二隻目となる軽空母が爆発した際、異変が起きた。
▶#38につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる