銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
54 / 383
第3話:スノン・マーダーの一夜城

#12

しおりを挟む
 
 自らが囮になるというP1‐0号の言葉に、キノッサは顔を引き攣らせて言う。

「なっ、何言ってるッスか、危険過ぎるッス!」

「危険だからこそ僕がやるんだ。僕はアンドロイドだからね」

「そういう問題じゃないッス!」

 声量を上げ、強い口調で告げるキノッサ。

「指揮官は俺っちッス! 俺っちがやるッスよ!」

 それを聞いてP1‐0号は少し間を置き、「お猿…」と呼び掛けた。ただその言葉にあるのは感じ入った響きではなく、呆れたような響きだ。

「あのなぁ、お猿。勇気は買うが、それは指揮官がする事じゃない。僕達がここへ来た目的はなんだ?…このステーションを使って、『スノン・マーダーの空隙』にウォーダ家の橋頭保を築く事だろう―――」

 キノッサに対して理論立てた物言いではなく、年長者が諭すような言い方をするP1‐0号を、モルタナは物珍しそうに見守る。

「ノヴァルナ様がここで指揮を執っておられたなら、きっと最適任である僕に任せて下さって、ご自分は本来の目的に専念されるはずだ。お猿もノヴァルナ様のようになりたいのだろう? だったらお猿も、僕に任せるべきだよ」

 だがこれを聞いたキノッサは、モルタナと二人揃って内心で“いやぁ、それはどうだろう…”と首を捻った。理屈としてはP1‐0号の言い分が正しいが、ことノヴァルナという若者に限っては、「そういう面白そうな事は俺にやらせろ!」とか急に言い出しかねない。
 しかしP1‐0号の言っている中身自体は、間違ってはいない。それにキノッサ自身、高みを目指す野心はあっても、“自分はノヴァルナ様と同じにはなれない”という事が、身に染みて分かっていた。

「そこまで言うなら…任せるッス」

 不承不承といったていでキノッサが引き下がると、P1‐0号は「それでいい」と答え、「では早速作業に取り掛かる」とコントロールパネルに向き直る。それでもキーボードを操作し始めながら、キノッサに礼の言葉を付け加える事は忘れなかった。

「僕を気遣ってくれた事には、感謝しておくよ」

「………」

 一瞬立ち止まって、その場を離れるキノッサ。その背中を一瞥し、モルタナは興味深げな視線をP1‐0号に投げかけながら声を掛ける。

「あんた、面白いじゃないか。ホントにただのアンドロイドなのかい?」

「はい。『タイプRI‐QアンドロイドP1‐0号』。それ以上でも、それ以下でもありません」

 無機質さを前面に出して応じるP1‐0号に、意味深に軽く肩をすくめてその場を離れるモルタナ。 
 異変が起きたのはその直後の事である。場所はキノッサ達のいる旧サイドゥ家宇宙ステーションの外、宇宙空間。船外作業艇に同化した昆虫型機械生物を取り付かせる囮にしていた、二隻の無人軽巡航艦の一方が異常な動きを見せ始めたのだ。

 異変は二隻を遠隔操作していた『クーギス党』の高速輸送艦、『ラブリー・ドーター』に即座に伝わる。

「異常信号を検知。『フラクロン』の方の制御が利かなくなったぞ!」

「なに?…予備回線は!?」

 オペレーターの報告に、モルタナから留守を預かっている幹部が、予備回線の反応を確認する。ウォーダ家から供与された二隻は『フラクロン』と『バンザー』。制御不能となったのは『フラクロン』の方だ。

「駄目だ。予備回線も反応無し!」

 オペレーターがそう告げた一瞬後、『フラクロン』は自分勝手に『バンザー』に向け、ゆっくりと左舷へ回頭し始める。

「どうなっている!? 映像は出ないのか!?」

「搭載カメラも全て制御不能!」

 『フラクロン』の状況を、映像で確認しようとする『ラブリー・ドーター』のクルーだが、艦の内外のカメラもコントロール出来ない状況だった。そこに別のオペレーターが意見する。

「『バンザー』のカメラを使って、『フラクロン』の外部映像を映せば、何か分かるかも知れんぞ」

 これを聞いた幹部の男は「それだ」と言って、『バンザー』の艦外カメラの複数を『フラクロン』へ向けさせた。外殻に十体以上の昆虫型機械生物が張り付いている、『フラクロン』の姿が映し出される。

「映せる範囲のを、一匹ずつ拡大してみろ」

 原因の第一に考えられるのは、機械生物が『フラクロン』の制御を奪った事によるものだ。幹部の指示でカメムシに似た昆虫型機械生物が、一体ずつ拡大されていく。しかし、どれもいまだ『フラクロン』の表面装甲に、穴を開ける事に成功しているようには見えない。その艦にも『フラクロン』は左回頭をほぼ終えた。
 するとそれまで『バンザー』からの映像では死角となっていた、『フラクロン』の右舷側前面も映像に捉えられ始める。そこで『ラブリー・ドーター』のオペレーターが声を上げた。

「あ、あれは!?」

 新たに映し出された映像には、『フラクロン』の全面主砲塔右側に張り付く、機械生物がいた。そしてその鋭い嘴は主砲塔基部の、ほとんど装甲が施されていない旋回盤に突き刺さっている。そして次の瞬間、回頭を終えた『フラクロン』の主砲からビームがほとばしり、『バンザー』からの映像は途切れた………



▶#13につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【キャラ文芸大賞 奨励賞】壊れたアンドロイドの独り言

蒼衣ユイ/広瀬由衣
キャラ文芸
若手イケメンエンジニア漆原朔也を目当てにインターンを始めた美咲。 目論見通り漆原に出会うも性格の悪さに愕然とする。 そんなある日、壊れたアンドロイドを拾い漆原と持ち主探しをすることになった。 これが美咲の家族に大きな変化をもたらすことになる。 壊れたアンドロイドが家族を繋ぐSFミステリー。 illust 匣乃シュリ様(Twitter @hakonoshuri)

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第五部  遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。 訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。 そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。 同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。 こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。 誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。 四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。 そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。 そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

処理中です...