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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#10
しおりを挟むセキュリティー用のコントロールポート上に、宇宙ステーションの全体透視図ホログラムが浮かび上がる。その最上部から最下部に向け、黄緑色の光の幕が透過するのがセキュリティースキャンだ。生命反応があれば、個別に赤い光点で表示されるはずだ。
キノッサ達三人とハートスティンガーが見守る前で、スキャニング表示がゆっくりと透過を終えると、赤い光点の集合が立体透視図の二か所に出現した。一箇所は中央指令室…当然ながら自分達の今いる場所である。そしてもう一つは―――
「ここだ。ドッキングベイ!」
立方体をした宇宙ステーションは、最下層全体が宇宙船のドッキングベイとなっている。そこの片隅に約三十個の赤い光点が、ひと塊になって鈍く輝いていた。
およそ六百メートル四方の解放空間であるドッキングベイは、大型宇宙船の格納は不可能だが、先行させて行方不明になった高速貨物船三隻なら、捕えておく事が出来る広さがある。
即座にハートスティンガーは部下達に命じる。
「よし。すぐにドッキングベイへ向かうぞ!」
さらにキノッサには「ここに残って、あとを頼むぞ」と言い、虫が大の苦手である事が判明したモルタナにもフォローを入れた。
「姐さんも、ここでキノッサの奴を手伝ってくれ」
「あ…ああ。済まないね、そうさせてもらうと、助かるよ」
さしものモルタナも、今回ばかりはしおらしく承諾する。また陸戦隊の経験があるホーリオも、キノッサからの指示を受け、ハートスティンガーと共にドッキングベイへ向かう事となった。
「状況を見て可能なら、ほかの船を呼んで、牽引作業の準備に入るッス!」
中央指令室を出て行こうとするハートスティンガーに、キノッサはそう声を掛ける。彼等の本来の目的は、この宇宙ステーションを密輸団の貨物船で牽引し、『ナグァルラワン暗黒星団域』内の、『スノン・マーダーの空隙』まで移動させる事であり、時間的余裕はそれほど残ってはいない。
なぜならタイムスケジュール的に、ノヴァルナが指揮する大規模陽動部隊がすでに、別方向から『スノン・マーダーの空隙』に向けて行動中だったからだ。
「分かってる…だが慎重にな!」
ハートスティンガーは頷いて言葉を返し、ドッキングベイを目指して去った。すると作業に戻り、主対消滅反応炉を起動状況を確認するキノッサに、P1‐0号が報告する。
「お猿。あの機械生物についての新たな情報が得られた。やはりNNLを使うのは危険だ。使用するためには、機械生物の機能を停止させる必要がある」
「どういう事ッスか?」
キノッサはP1‐0号に問い掛けながら歩み寄った。NNLを立ち上げられないと、『スノン・マーダーの空隙』に接近した際、ノヴァルナの陽動部隊や援護に来てくれる予定の、カーナル・サンザー=フォレスタが指揮するウォーダ軍第6艦隊との連携に、支障をきたす事になる。
「機械生物には、生存と増殖の本能が存在していると、ボクは言っただろう。どうやらその最終目的が、これのようだ」
「なんだい?…これは」
P1‐0号がホログラムスクリーンに何かのデータを映し出し、映像記録を再生し始めると、モルタナも近寄って来て尋ねた。
「このステーションに横付けされている、例の学術調査船にリンクし、メインシステムを立ち上げて取得したものです」
それを聞いてキノッサは、「ちょいちょい!」と声を上げる。
「迂闊にNNLを使っちゃ、マズいんじゃないっスか?」
「もちろんNNLは使ってないさ。おそらくここを根城にしていたという、略奪集団の仕業だろうが、有線ケーブルで繋げられていたんだ」
「で?…本題は?」
モルタナが促すとP1‐0号は小振りなデータ画面を、自分の周囲にリング状に並べて説明を始めた。
それによると学術調査船の名称は『パルセンティア』号。銀河皇国科学省に属しており、二年前、シナノーラン宙域内に位置するUT‐6592786星系の、第四惑星へ科学調査に向かったものらしい。
この第四惑星に棲息していたのが、あの昆虫型機械生物であった。皇国科学省は数十年前から機械生物の存在を把握しており、『パルセンティア』号はそれを持ち帰る事を目的としていたのだ。
「第四惑星にはかつて、高度な文明を持つ種族がいたらしく、我々の銀河皇国とは別の技術体系を有していた。機械装置に高い自律性と、自己進化機能を与える技術だ。そしてその結果が、あの昆虫型機械生物という事は分かるだろう」
そこでP1‐0号は一旦言葉を切る。ここまでの話の中身に対する、質問時間というわけである。そこですかさずキノッサが声を発した。
「“かつて高度な文明を持つ種族がいた”…って事は、今はいないって事でいいんスよね?」
「そうだ。お猿」
「じゃあ、ドラマなんかであるみたいに、その種族ってヤツは、進化した機械の生き物に滅ぼされたとかッスか?」
「いいや。報告ではそのような事は、起きてはいないとされている。彼等はある日突然全員が惑星上から、文字通り“消え去ってしまった”ようだ」
▶#11につづく
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