銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第3話:スノン・マーダーの一夜城

#08

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 キノッサの指示…正確にはハートスティンガーの要請を受けて、『ブラックフラグ』号からやって来たのは、三十二名の部下とモルタナであった。これで『ブラックフラグ』号には、運用に必要な最低限の十二名が残るのみである。
 エアロックで彼等を迎えたハートスティンガーは、早速中央指令室へ向かう事を告げると、三列で通路を埋め尽くして進み始めた。ここでも最前列真ん中をホーリオ、最後尾真ん中をハートスティンガーが務める。

 そして応援の部下達は八人が、電磁パルス銃を持参していた。操られている人間を生け捕りにするには、ブラスターライフルの“麻痺モード”ではなく電磁パルスで、寄生した機械生物の機能を停止させた方がよいという、P1‐0号からの助言に従ったものだ。

 今しがたは状況も不明な中で、突然に襲撃を受けたキノッサ達であったが、今度は医務室でP1‐0号の解析から得た情報もあって、充分な警戒態勢を取る事が出来た。八丁ある電磁パルス銃を前後の三人と、中央部にいるキノッサとモルタナに持たせ、慎重に前進する。

 そうして通路を十分ほど進んだその時である。

 様々なコンテナが置かれた、倉庫と思しき広い空間を、通り抜けようとしていた彼等を、異形の人間達が再び襲撃して来た。楕円形の広い倉庫内に積み上げられている、コンテナの間から四つん這いになった人間が、次々と飛び出して来る。

「固まれ! バラついたらヤツらに捕まるぞ!」

 ハートスティンガーの指示で、少々いびつではあるが全員が円形に集まって、襲い掛かって来る異形の人間を撃ち始めた。メインは電磁パルス銃を持つ者。その銃口から放たれたビームが異形の人間に命中し、麻痺ビームの黄色ではなく、青紫色の小さな稲妻が体に絡みつくと、背中に取り付いていた機械生物から煙が上がる。一瞬後、四肢を大きく痙攣させた異形の人間は、電池が切れた機械人形のように、次々と床に倒れ込んだ。
 時折、円陣まで間合いを詰め、ハートスティンガーの部下に飛び掛かる者もいるにはいるが、それらはすぐに周囲の部下から、銃撃を浴びせられる。

 すると異形の人間を十数人倒した直後、今度は大きな昆虫の姿をした機械生物がそのまま、山積みのコンテナの隙間から、素早く這い出して来る。まる夏の夜に明かりをつけた途端、台所のあちこちを走り回るゴ〇ブリのようだ。そしてこの光景が辺りに広がった途端、パニックを起こした人間がいた。モルタナだ。

「いやぁあああああああ!!!!」

 叫び声を上げて、電磁パルス銃をむやみやたらと撃ちまくる。
 
 モルタナの無茶苦茶な電磁パルス射撃は幸か不幸か、巻き添えを喰ったハートスティンガーの部下の何人かに、飛び上がるほどの痛みを与えつつも、襲い掛かって来た昆虫型機械生物に悉く命中し、キノッサ達の奮闘も加えて、全ての敵を仕留める事に成功する。
 倉庫の床に、電磁パルス銃によって機能を停止した昆虫型機械生物が、無数に転がっていた。だがモルタナは両手で電磁パルス銃のグリップを握り締めたまま、肩で大きく息をして興奮状態にある。

あねさん! モルタナのあねさん!!」

 傍らで口調を強くして呼びかけるキノッサを、モルタナは大きな眼をさらに大きく見開いたままで、睨みつける。

「全部やっつけたッス! もう虫みたいなのは、全部やっつけたッスよ!」



「ぜ…全部?」

 間を置いて、モルタナはキノッサに振り向いて尋ねる。彼女の眼に理性の光が蘇るのを見逃さなかったキノッサは、あきらかに異常をきたしたモルタナを、気遣う口調で問い掛けた。

「はい。全部やっつけたッス!…大丈夫ッスか?」

「ああ…別に…なんともないよ」

 モルタナは電磁パルス銃を握ったままの右手の甲で、首筋に滲んだ汗を拭い。呼吸を整えながら応じる。その様子を見たキノッサは、背筋を伸ばして告げた。

「モルタナのあねさん」

「なんだい? 改まって」

「正直に話して欲しいッス」

「何をさ?」

「あの機械の虫について、何かご存知なんでしょ?」

 そう問われてモルタナは再び、眼に見えて動揺し始める。

「なっ!…何も、あたいは知らないよ!!」

「嘘ッス。このステーションにいたのが、コイツらだって分かってから、姐さんは明らかに態度が怪しくなったッス!」

 電磁パルスを浴びて六本の脚を畳み、仰向けに転がった機械生物を指差して、キノッサは不信感を露わにした。ハートスティンガーも、黒い顎髭を指先で撫でつけながら話に加わる。

「そうだぜ、ねえさん。今のあんたにゃ、最初に会った時の威勢が、まるで感じられねぇ。連れてかれた俺の部下の事もある! 今は一つでも情報が欲しいんだ。知ってる事があるなら言ってくれ!!」

「だから、あたいは何も知らないって、言ってるだろ!」

「姐さん!」

 さらに詰め寄るキノッサに根負けしたらしく、モルタナはそっぽを向いて顔を赤らめ、吐き捨てるように言い放った。

「あたいは虫ってヤツが、この宇宙で一番苦手なんだよ! それだけさ!!」


「は?」


 キノッサもハートスティンガーも、ハートスティンガーの部下達も、一斉に口をポカンと開ける。そして次の瞬間、揃って声を上げた。

「えええええーーー!!??」




▶#09につづく
 
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