銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第3話:スノン・マーダーの一夜城

#01

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 ア・ヴァージ星系で何かが動き出そうとしているのを知る由も無く、銀河皇国標準時で同じ日の夕刻、キノッサ達は目指していたFT‐44125星系の、最外縁部まで辿り着いていた。

 DFドライヴの超空間転移による時空震が、恒星系の惑星運動に影響を及ぼさないまでの位置から、第十一番惑星まではさらに二時間ほど掛かる。そこでハートスティンガーは部下に命じ、一番足の速い貨物船二隻を先行させた。自分達の到着前に少しでも早く、旧サイドゥ家の宇宙ステーションの状況を知るためだ。

 ところがその二隻の先行貨物船は、宇宙ステーションに到着寸前、連絡を絶ってしまったのである。

 最後に送って来た通信では、宇宙ステーションを発進したと思われる、複数の小型艇を発見した事を伝えていた。現れたその小型邸が、どういった類のものであるかは不明だが、どうにも怪しい。そして何よりキノッサ達には時間が無い。予定では、ノヴァルナが陣頭指揮をしている大規模陽動部隊が、すでに動き出しているはずだからだ。

 司令船『ブラックフラグ』号は、全身立像のホログラム通信機能など備わっていない、旧式の民間貨物船であるから、昔ながらの平面スクリーンが、マルチ画面で映し出す四人の協力者を見据えたハートスティンガーは、唸るように言う。

「ううむ…こいつは面倒な事になったぜ」

何者なにもんだろうな?」

 そう応じるのは協力者の一人、角刈り頭の小太りの男で名をナーグェという。

「まさかイースキーの奴等では?」

 意見を口にするのは同じく協力者、長めの黒髪を後ろで纏めた長身の黒人、ガズダーである。

「それが本当だと、えらい事だぞ」

 ハルピメア星人の協力者アウヤンが、ダチョウのような頭を上下させながら、不安そうに言う。不安を感じた時に頭部を上下させるのは、彼等の種族の特徴だ。

「ともかくザ。みんなで接近して様子バ、見るべきではねっが?」

 そこにカズージが訛りの強い言葉で提案する。事情は述べた通りで時間は無い。キノッサもカズージの言葉に頷いてハートスティンガーに進言した。

「親分。ここは船団を密集させて、進みましょう」

「わかった」

 だがその直後、ダイナンから通信が飛び込んで来る。

「こちらダイナン。今、長距離センサーがこちらに向けて接近して来る、船舶の反応を捉えた。数は三隻。サイズ的には軽巡クラスだが、正体は不明だ」

 ダイナンは旧式重巡航艦を運用しており、民間貨物船より高性能の軍用長距離センサーを装備している。そのため一番早く正体不明船の接近を探知したのだ。報告を聞き、キノッサ達の表情は緊張の度合いを増した。
 
 接近して来る三隻が、もし国境を越えて侵入して来たイースキー家の宇宙艦で、旧サイドゥ家の宇宙ステーションが極秘裏に稼働しているとなると、計画の根幹から関わる大問題である。困惑の表情で顔を見合わすキノッサ達のこめかみに、冷や汗が流れる。

「正体不明船、方位218プラス05、さらに接近。我々が迎撃態勢を取る」

 ダイナンが厳しい眼でそう告げ、配下の三隻の重巡は一斉に、正体不明船が接近して来る方角へ艦首を向けて加速を始めた。

「全艦戦闘態勢」

 武将時代と変わらず、凛として発令するダイナン。すると正体不明船の方から、司令船『ブラックフラグ』へ通信が入る。通信オペレーター席へ歩み寄り、相手からの呼びかけを受信したハートスティンガーは、キノッサに振り向いて言った。

「おい、キノッサ。おまえを呼んでるぞ!」

「お!…俺っちッスか!!??」

 思いもよらぬ呼び出しに、キノッサは慌てて通信オペレーション席へ向かう。そして回線を開き、「はい。キノッサっすけど?」と応答すると、聞き覚えのある女性の声が、勢いよくスピーカーから飛び出して来た。

「キノッサ! まず話の前に、あたいらを攻撃しようとしてる、あのスットコドッコイをやめさせな!」

「モルタナのあねさん!」

 愁眉を開いたキノッサは急いでハートスティンガーに告げて、攻撃に向かいつつあった、ダイナンの重巡三隻を引き返させる。
 ダイナンへの通信を終えたハートスティンガーは、もの珍しそうな眼でキノッサに問い掛けた。

「えらく鉄火肌のねえさんだな。どこの誰だ?」

「モルタナ=クーギス。『クーギス党』の副頭領で、宇宙海賊ッス」

「海賊だと!?」

 海賊と聞いて仰天するハートスティンガー。彼等にとって、宇宙海賊は天敵だからだ。間髪入れずに懸念を払拭しようとするキノッサ。

「心配ない心配ない! 海賊って言ってもノヴァルナ様に協力してくれてて、カタギの人を狙ったりはしないッス」

 これを聞いてアンドロイドのP1‐0号が横槍を入れる。

「お猿。僕達は非合法組織だ。カタギではないぞ」

「余計なチャチャ、入れるんじゃないッス! PON‐1号」

「だれがPON‐1号やねん!」

 このやりとりが聞こえたのか、通信機の向こうでモルタナががなり立てた。

「ワケわかんないこと言い合ってないで、あんた達も船を止めな! あんたらが向かってるステーション、ちょいとヤバいんだよ!」



▶#02につづく
 
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