上 下
36 / 339
第2話:キノッサの大博打

#15

しおりを挟む
 
「ハートスティンガーの親分ともあろうものが、怖気づいたんスか?…俺っちが居た頃の親分は、命知らずが服着てるみたいな人だったじゃないッスか!」

 あえて挑発的な物言いをするキノッサ。それをハートスティンガーは「ふん」と一笑に付して反論した。

「そいつは今も変わっちゃいねぇさ。だがそれは俺自身と子分ども。そして俺達の噂を聞きつけて、ここに流れ着いて来た難民達のためであって、星大名同士のくだらねぇ縄張り争いに、首を突っ込むためじゃねぇ!」

 するとこれを聞いたキノッサは、否定されたにもかかわらず、内心で“しめた”とほくそ笑んだ。ハートスティンガーの言葉の中に、突破口を見出みいだしたのだ。笑い声を交えてからかうように言う。

「ノヴァルナ様の戦いを、単なる星大名同士の、くだらない縄張り争いッスと?…ケヘヘッ。そりゃまた、見当外れもいいとこッス!」

「なに?」

 黒く太い眉の間に皺を刻んで、ハートスティンガーは眼光を鋭くする。それにキノッサも真剣な眼差しを返して告げた。

「ノヴァルナ様が、ミノネリラ宙域の制覇を目指されるのは、縄張り争いみたいな小さい話じゃないッスよ」

「小さい話じゃないだと?」

「そうッス! ノヴァルナ様は憂国の大義のために、固い決意をもってたれたんス!」

「憂国の大義…?」

 戸惑いを見せるハートスティンガーに、キノッサはきっぱりと言い切る。

「星帥皇テルーザ陛下を奉じ、混沌としたこの戦国の世を終息させ、銀河皇国に秩序と安寧を取り戻すことッス!」

「!!!!」

 “星帥皇を奉じ”という言葉にギクリと肩を震わす、ハートスティンガーの反応をキノッサは見逃さない。それはハートスティンガーの一族にとって、特別な意味を持つものだからだ。すかさず畳みかけるキノッサ。口にする言葉も、普段の軽い口調を控えた武家言葉だ。

「そもハートスティンガー家は、代々星帥皇室の忠臣たらんとして来た一族。百年前の『オーニン・ノーラ戦役』にてヤーマナ家に味方したるも、一族の利益のためではなく、増長し、星帥皇室を傀儡同然に扱うホルソミカ家を、誅さんとしたものでありましょう」

「む………」

「敗残の身となり、このオ・ワーリへ落ち延びて来たのち、どの星大名家にも仕官する事無く、貧しくとも自立の道を続けているも、いまだ勤皇の志を失わずにいるがため。今の“星大名同士の縄張り争いに加わる気はない”との発言も、根底にこの志があるがゆえ」

「むむ……」

 キノッサの言葉に、ハートスティンガーの眉間の皺が深さを増す。
 
 ハートスティンガーの一族が、元は銀河皇国の武将であった事は、以前にも述べた通りである。
 そしてその行動原理が星帥皇室への忠義であったものであるため、自分達の利益のために争っているだけに見える、現在の星大名家とは関りを持つ気はない…というのがキノッサが指摘した通りの、マスクート・コロック=ハートスティンガーの本音の部分であった。彼等のもとで二年間暮らしていたキノッサであるから、知り得た話だ。そこを突いて、強い口調でさらに言い切る。

「ノヴァルナ公のご決意を打ち明けたる今、そのような勤皇の志を持つご貴殿らがこれに加わらぬは、むしろ星帥皇陛下に対する不忠というもの!」

「うぬ…キノッサ!」

 怒りの表情になるハートスティンガー。ただその怒りは、“不忠”という言葉に反応したものらしい。キノッサの思惑通りだ。それが証拠にハートスティンガーの厳つい顔は、すぐに怒りの表情から思案顔になった。すると彼等がいる所長室のドアが開き、グレーの作業着を着て頭を赤いバンダナで覆った、少々恰幅のいい女性が入って来る。

「キノッサが帰って来たんだって?」

 女性を振り返ったキノッサは、真面目だった表情を、いつもの人懐っこい笑顔に変えて、「これはおかみさん。お久しぶりッス!」とペコリと頭を下げた。女性の名はタウシャーナ。マスクート・コロック=ハートスティンガーの妻である。タウシャーナは嬉しそうにキノッサに声を掛ける。

「まぁ。久しぶりじゃないか。少しは背も伸びたかい?」

「いやぁ…それがまぁ、あんまり」

 そう言って顔を挙げたキノッサは、タウシャーナの脚の陰から、こちらを窺うように見る小さな子供の姿を認めた。キノッサの視線に気づいたタウシャーナは、子供の肩を支えて、自分の前に出るように促す。

「この子はマルセラ…マルセラ・ヒッカム=ハートスティンガー。あんたがここを出て行ったあと、三年前に生まれたマスクートとあたしの子だよ」

「お子さんが出来てたんスか。遅ればせながら、おめでとうございますです。知ってれば、何かお祝いを持参したんスけど…申し訳ないッス」

「ははッ…そつの無さは変わっちゃいないねぇ。どうせその調子で、上手くウォーダ家に潜り込んだんだろ?」

「いやぁ…」

 図星を指されて頭を掻くキノッサ。妻と子の登場で、場の空気が話の腰を折られた雰囲気になったが、それはかえって皆にとり好都合でもあった。ハートスティンガーは一つ咳払いをすると、キノッサに告げる。

「おまえの話は分かった。ひと晩じっくり考えて、明日返事する。今日は久しぶりの古巣でゆっくりするがいい」




▶#16につづく
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

えっちのあとで

奈落
SF
TSFの短い話です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...