上 下
30 / 344
第2話:キノッサの大博打

#09

しおりを挟む
 
 翌日の1562年3月10日夕刻。キノッサは恒星間シャトルで、惑星ラゴンを離れた。トゥ・キーツ=キノッサ、一世一代の大博打の始まりである。

 シャトルが向かうのは、オ・ワーリ宙域内のアンスナルバという星系であった。まずここで、ある人物と会う手筈となっているのだ。一応隠密行動らしく、シャトルにはウォーダ家を示す『流星揚羽蝶』の家紋などはついておらず、船籍もガルワニーシャ重工のものとなっている。

 キノッサは今回の作戦をサポートさせるため、ノヴァルナの承認のもと、自分で選んだ二人の若者を同道させていた。

 一人はキッパル=ホーリオ。身長2メートル近い黒い肌のヒト種で、年齢は19歳。小さな眼が特徴的な男性。口数は少ないが手先は器用であり、話術以外の事は大抵無難にこなす事が出来る。
 かつてのホーリオ家はイル・ワークラン=ウォーダ家に仕えていたが、ノヴァルナにイル・ワークラン家が滅ぼされたため、父母と共に浪人となっていた。そこを昨年、キッパルが再仕官を認められたのである。そしてその配属先がキノッサと同じ、ショウス=ナイドル配下の内務部であったため、キノッサとも面識があったのだ。

 そしてもう一人がカズージ=ナック・ムル。淡いピンク色の肌を持ち、眼の大きなバイシャー星人だ。バイシャー星人はその頭部の形状から魚類を印象させるが、ヒト種と同じくれっきとした哺乳類である。年齢は18歳。民間人から登用されたASGULパイロットで、キノッサがパイロットをしていた頃、同じ中隊にいた同僚の男性だった。
 こちらはキッパルと対照的かつキノッサと同様に饒舌であるが、話す銀河皇国公用語は、バイシャー星人独特のなまりが強く、これに性格的な饒舌さを加えると、聞き慣れるまでに苦労を伴う感じである。

 恒星間シャトルのコクピットで、ラゴンの月の衛星軌道から離脱した事を告げ、キノッサは操縦をオートモードに切り替えた。

「ラゴンの月の衛星軌道を離れたッス。あとは星系外縁部まで一直線ス」

 すると早速、大きな眼をギョロギョロさせながら、訛りのある公用語で話しかけて来るカズージ。

「キノッサぞん」

「なーんスか?」

「キノッサぞんのシャトルん操縦。みんごと見事なもんなザ。ASGULパイロットんザ、続けっもよかったんでバねーが?」

「シャトルでただ宇宙に出るのと、ASGULで戦うのとは全然違うッス。時には才能がない事はすっぱり諦め、自分に相応しい道を探すのもアリっスよ!」
 
「しかしそうかも知れねっど、よっくもまぁあんな計画、ノヴァルナ様にお認め頂けたもんぞな、キノッサぞん」

 呆れたように言うカズージに、キノッサは「キヒヒ…」と笑い声を漏らして、人の悪い笑顔を向ける。

「そりゃもう、口八丁手八丁…いやいや誠心誠意、ノヴァルナ様に作戦概要をご説明申し上げた成果ッスよ」

 怪しげな返答をするキノッサだったが、カズージは純朴な性格であるらしく、素直に感心してみせる。

「おお。流石っそ、キノッサぞん。ノヴァルナ様のご信頼厚きことこの上なしザ、ほんとの事だったんのぉ」

 “フォルクェ=ザマの戦い”でキノッサが、己のパイロットとしての才能に見切りをつけ、艦隊指揮や軍団司令官に必要なスキルを獲得する道を選択したのは、これまでの行動を見ての通りである。
 だがそれとて、武家階級の『ム・シャー』でもない民間人上がりのキノッサであるから、本来ならば士官学校に入り、艦隊勤務や司令部勤務を経て、何十年もかけて昇進し、功績を重ねて目指していく地位であった。
 これを一足飛びに『ム・シャー』の地位を、得られるところまで行こうというのだから、出発点が無茶な話だ。ノヴァルナに直談判出来る立場を最大限に利用したと言っていい。


*****―――


「は?…資材や輸送船は、何も使わねぇだと!?」

 キノッサが今回の案件を申し出た時、その切り出しの言葉にさしものノヴァルナも、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をした。

「はい。と申しましても、使わないのはウォーダ家のもの…という事で、輸送船や資材はこちらで都合させて頂くのでございます」

「へえぇ…」

 説得の掴みとしては悪くない…といった表情で、ノヴァルナはキノッサを見据える。確かに前回の築城作戦の失敗で、大量の築城用資材とそれを運ぶ輸送船を失っており、それらを使用しないというのは正直、願ったり叶ったりではあった。少なくとも続きを聞きたくはなる。

「なんか、アテがあんのか?」

 尋ねるノヴァルナにキノッサは「今はまだ申せません」と応えた。

「ただ、それなりの資金だけは頂きたく…」

「『アクレイド傭兵団』の連中を雇うとか言うんなら、却下だからな」

「それだけは、誓ってございません!」

「じゃあ、どうしようってんだ?」

「わたくしの昔の知り合いが、アンスナルバという星系におり、じつはすでに連絡を取ってこざいまして、是非ともノヴァルナ様にご協力したいと…」



▶#10につづく
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

現実的理想彼女

kuro-yo
SF
恋人が欲しい男の話。 ※オチはありません。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

関白の息子!

アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。 それが俺だ。 産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった! 関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。 絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り! でも、忘れてはいけない。 その日は確実に近づいているのだから。 ※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。  大分歴史改変が進んでおります。  苦手な方は読まれないことをお勧めします。  特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

処理中です...