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第2話:キノッサの大博打

#06

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 ラゴンを離れた基地建設部隊は、途中でアイノンザン軍の潜宙艦隊に襲撃される可能性を考慮し、航路を複雑に変えながら一週間かけてカーマック星系へ着いた。
 五個艦隊でカーマック星系を固められてしまうと、アイノンザン軍は基地建設を阻止したくとも、手を出せなくなってしまった。潜宙艦隊を含む六個艦隊で全力出撃してしまうと、本拠地を守れるのは星系防衛艦隊一個だけとなるからだ。

「参ったね。だからノヴァルナ様は恐ろしいんだ」

 偵察に出ていた潜宙艦が送って来たカーマック星系の状況報告を、情報参謀から聞いたヴァルキスは、アイノンザン城の執務室でため息混じりの笑顔を見せた。

 ノヴァルナが新たな対抗策として、カーマック星系に拠点を築く可能性は、実のところヴァルキスの考えにもあったのだ。しかしまさか『ウォ・クーツ』攻防戦から、僅か三週間ほどで、カーマック星系に拠点…しかも本格的な規模の基地を、築き始めるとは思っていなかったのである。

「待ち伏せして罠に嵌めるしか、我々に勝ち目ないからね」

 戦略的に考えると現在までのアイノンザン=ウォーダ家が、ノヴァルナのミノネリラ宙域進攻を妨げているのは、惑星ラゴンからミノネリラ宙域までの補給路を、寸断出来る事に存在意義があったのだ。だがカーマック星系の新基地が、戦力の修理・補給を完結させるだけの規模となると、存在意義自体が失われてしまう。

「如何致しますか?」

 問い掛けるアリュスタに、ヴァルキスは自分の顎を指先で撫でながら、焦る様子もなく「どうしたもんかねぇ…」と、言葉を返した………



 こうしてヴァルキスが手詰まりに陥っている一方、カーマック星系の動きを隠れ蓑にして、同時進行でミノネリラ宙域の『スノン・マーダーの空隙』へ、宇宙城を建設しようとしたノヴァルナの計画は、イースキー家に仕える一人の武将によって看破された。父親の急死によって、昨年からティカナック家の当主となった、二十歳のデュバル・ハーヴェン=ティカナックが、その人である。

 イースキー家の名将“ミノネリラ三連星”の一人、モリナール=アンドアの娘を妻にしているハーヴェンは、アイノンザン=ウォーダ家から譲渡されたとある情報から、ノヴァルナ軍が『スノン・マーダーの空隙』へも、輸送艦隊を差し向けようとしているに違いないと考えて舅のモリナールを通じ、“ミノネリラ三連星”の三部隊を出動させたのであった。
 
 この“ミノネリラ三連星”による“築城部隊”への迎撃は、ノヴァルナ達にとり痛恨事となった。圧倒的戦力の前に、シンモール=ザクバーとカッツ・ゴーンロッグ=シルバータの護衛部隊が敗退したのはもちろんだが、それ以上に建設資材を搭載していた、輸送船団がほぼ壊滅してしまったのだ。
 これまでは築城に失敗して撤退する際も、輸送船団への被害は極力抑えていたノヴァルナ軍だったのだが、巧緻に長ける連携を見せた“三連星”の前に、護衛部隊と切り離された輸送船団は包囲網の中へ誘い込まれ、集中砲火を浴びる結果となったのである。

 これにはさすがにノヴァルナも、不機嫌にならざるを得なかった。『ウォ・クーツ』攻略戦に失敗した時以上の、不機嫌さと言ってもいい。カーマック星系の基地建設は順調に進行しているのだが、正直、それで気分が晴れるような話ではない。建設資材が失われたのは痛いが、それより増して大量の輸送船を撃破されたのは、今後のミノネリラ宙域攻略全体に影響が出るだろう。

 いや…本音の部分で言えば、ノヴァルナが一番面白くないのは、カーマック星系の新基地建設をカモフラージュに、『スノン・マーダーの空隙』にも宇宙城を同時建設しようとした自分の作戦を、イースキー家の“誰か”に見透かされた事だ。
 旧領主のドゥ・ザン=サイドゥが生きており、ノヴァルナと敵対していたのなら或いは、ノヴァルナの手の内も読んだかも知れないが、現在のイースキー家には、それほどの人材が見当たらない。“ミノネリラ三連星”などは確かに名将だが、それは戦場で戦う際の戦術面であって、戦略面の強さではないというのが、ノヴァルナの彼等に対する評価である。

 そして今回現れた謎の人物は、その“ミノネリラ三連星”に、戦略を授けられる立場にあるようだ。当主のオルグターツや、側近のビーダとラクシャスといった頭連中は無能でも、そのような人材が出て来たとなると、この先も何かとやり難い。

「…というわけだ。二人とも」

 キオ・スー城の執務室に呼び出したドルグ=ホルタとコーティ=フーマに向け、ノヴァルナはこれまでのいきさつを告げ、さらに問い掛けた。

「俺の手の内を読めるような将帥が、まだミノネリラに残っているのか?…残っているなら、どこの誰だ?」

 ノヴァルナの問いに顔を見開合わせたドルグとフーマは、互いに探り合うような視線を交わすと、ドルグが僅かに頷いてノヴァルナに向き直り、思い当たる人物の名を口にした。

「考えられるのは…ティカナック家のハーヴェンでしょうか」




▶#07につづく
 
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