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第2話:キノッサの大博打

#02

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『スノン・マーダーの空隙』―――

 ミノネリラ宙域『ナグァルラワン暗黒星団域』のほぼ中央部に位置する、星間ガスの存在しないラグビーボール状の空間である。

 大星雲内の空隙と言えば、数ヵ月前にタ・クェルダ家とウェルズーギ家が戦った、“第四次ガルガシアマ会戦”でウェルズーギ家の本陣があった、『サイジョンの大空隙』が記憶に新しいが、こちらの大空隙は古くから存在していたのに対し、『スノン・マーダーの空隙』はおよそ五年前に忽然と出現した。

 空隙のサイズは直径約三百億キロ、高さは約百億キロ。中心から水平に約十三億キロ離れた位置に、銀河皇国カタログナンバーGHG‐15788769の白色矮星が浮かんでいる。ただこの白色矮星と『スノン・マーダーの空隙』の発生との、関連性は不明であった。
 何しろ銀河皇国の科学院は戦国の世となって以来、半ば麻痺状態が続いて来たのが、テオドール・シスラウェラ=アスルーガが星帥皇となって一昨年から、ようやく予算の配分が再開されたところで、まだ詳細な調査まで出来るような状況には無かったのだ。

 ノヴァルナはこの『スノン・マーダーの空隙』を、イースキー家本拠地惑星バサラナルム攻略への前線基地にしようと考えた。ノヴァルナの本拠地惑星のラゴンと、イースキー家本拠地惑星のバサラナルムの中間地点であるからだ。

 だがやはりミノネリラ宙域内である事から、前線基地の建設は困難であった。自らの領域に前線基地を作られる事は、流石に暗愚なオルグターツにも事の重大さは判断できる。怒りまくるオルグターツを前に、イースキー家の実権を握るビーダもラクシャスも仕方なく、子飼いの武将が指揮する艦隊ではなく、ベテランの将リーンテーツ=イナルヴァに出動を要請。

 リーンテーツの艦隊は、カルミー星系会戦でノヴァルナの前に敗退したものの、不安要素の多さからノヴァルナは1562年に年が明けると早々、『スノン・マーダーの空隙』から一時撤退した。艦隊を駐留させる“泊地”では、イースキー家が全力出撃して来た場合、持ち堪えられない可能性が高いと判断したからだ。

 そして1562年1月中旬。ノヴァルナの軍はいまだに、『スノン・マーダーの空隙』を確保できずにいる。何もない泊地としてだけの前線基地ではなく、補給と整備、防御能力のある宇宙城を建設したいのだが、イースキー側もこの地の戦略的重要性を充分認識していて、宇宙城を建設しようとすると、即座に大軍が押し寄せて来て、断念せざるを得なくなるのであった。
 
 さらにノヴァルナにとって状況を悪化させているのが、やはりアイノンザン星系のヴァルキス=ウォーダの存在であった。

 ヴァルキスはノヴァルナの味方として様々な功績を上げていた頃、褒美として幾つかの植民星系を与えられた。その中の一つにダイゴードルという、ミノネリラとの国境近くに位置する植民星系があるのだが、これがまさにオ・ワーリ宙域から、『スノン・マーダーの空隙』へ向かうコース近くにあって、アイノンザン=ウォーダ軍の宇宙要塞『ウォ・クーツ』と駐留艦隊が配置されていたのである。

 『ウォ・クーツ』駐留艦隊は、直接攻撃を仕掛けて来る事は無かったが、巡航戦艦や巡航艦を中心戦力にした機動性の高い艦隊で、数隻ずつの小部隊に分かれて哨戒行動を行っていた。その任務は『スノン・マーダーの空隙』へ宇宙城を建設するための、資材運搬を主目的にしたウォーダ艦隊を発見する事であり、発見した場合は、その情報をイースキー家へ通報していたのである。

 これによりイースキー家は効率的かつ効果的に、ウォーダ軍を迎撃する事が可能となっており、損害が拡大する原因となっていた。
 そこでノヴァルナは『スノン・マーダーの空隙』への宇宙城建設の前に、まずこの宇宙要塞『ウォ・クーツ』を攻略し、哨戒行動を無効化しようと考えた。アイノンザン=ウォーダ軍の哨戒部隊を発見しても、速度と機動力を活かして逃亡し、宇宙要塞『ウォ・クーツ』に逃げ込んでしまうからだ。



 皇国暦1562年1月25日。ノヴァルナは宇宙要塞『ウォ・クーツ』攻略作戦を発動。直卒の第1艦隊とブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊に加え、実戦経験を積ませるため、現在の当主継承権第一位のクローン猶子ヴァルターダ=ウォーダ率いる、第2艦隊が帯同する。
 戦力的にはもっと増やす事も可能だが、アイノンザン星系からの援軍や、イースキー家による逆攻勢に備えて各艦隊を配置する必要があり、後詰めの予備戦力も事も考えれば、三個艦隊が妥当なところである。

 だが対ノヴァルナ戦に“一度なら勝てる”と自信を見せるヴァルキスも、この戦いに賭けていた。ノヴァルナはヴァルキスがアイノンザン星系にいるものと判断していたが、ノヴァルナの戦略を読んだヴァルキスは、ノヴァルナが作戦を発動した時点で、すでに宇宙要塞『ウォ・クーツ』に入っており、陣頭指揮を執れる体制を整えていたのである。

 皇国暦1562年1月29日。接近中のノヴァルナ軍発見の報を聞いたヴァルキスは、宇宙要塞『ウォ・クーツ』の指令室で“我に策あり”という表情を浮かべ、微かに笑みを浮かべた………




▶#03につづく
 
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