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第1話:ミノネリラ進攻
#14
しおりを挟む「参る!」
「おおぅ!!」
裂帛の気合を込めた鑓と鉾が、紫色の火花を散らし刃を幾度も打ち合う。周囲ではマーディンの部下達も到着。損耗した238、242中隊を後退させてアーダッツの親衛隊とドッグファイトを開始した。『トルーパーズ』は、腕利きが集まったエース部隊。かたやアーダッツの親衛隊も、武将を守るための精鋭揃い。その戦闘の壮絶さは、まさに激闘と呼ぶに相応しいものとなった。超電磁ライフルの銃弾を躱す者、喰らう者…ポジトロンパイクの斬撃を打ち払う者、浴びる者…操縦者の技量と感性が生み出す、刹那の動きが明暗を分かつ。
大型ポジトロンランスを左脇に抱えた形で、機体ごとグルリと半回転。『レイフウAS』に打撃を加えようとするマーディンの『シデン・カイXS』。長大な鑓はその柄による打擲も、攻撃技の一つだ。
これに対し『レイフウAS』は、左腕に持つポジトロンパイクで難なく打ち払いをかけ、マーディンの『シデン・カイXS』との間合いを詰めようとする。懐に飛び込んで、右手のクァンタムクローによる刺突を放とうという意図である。
「く…機体性能の差か!」
機体に素早い捻り込みを掛け、クァンタムクローによる一撃を紙一重で回避したマーディンは、BSHOと親衛隊仕様機の性能差に歯を喰いしばった。
今しがたマーディンが放った、機体ごと回転によるポジトロンランスの打撃は、速度といい重心バランスといい、自分でも満足いくものだ。ところが相手の『レイフウAS』は、左腕一本で握るポジトロンパイクで、難なく弾き返した。これはパイロットとしての技量より、機体の出力の違いである。
マーディンの機体は自分用にカスタマイズされているとはいえ、ベースとなっているのは量産型BSIユニットだった。対消滅反応炉の出力は量産型の1.4倍ほどあるが、量産型の軽く二倍以上の出力を持つBSHOに、太刀打ちできるものではない。初撃を回避された『レイフウAS』が、すれ違いざまに振り返って放ったクローによる“引っ掻き”が火花を上げ、マーディンの機体のショルダーアーマーを抉り刻んだ。
そのまま距離が開いたところで、マーディンは『レイフウAS』の数秒後の未来位置を読んで、超電磁ライフル三発を連射。だが『レイフウAS』はその三発の中の有効弾となった二発目を、盾代わりにしたポジトロンパイクの刃で弾く。
「お見事マーディン殿。しかしその照準の正確さ故に、読みも出来る!」
マーディンの射撃の正確さを称賛する余裕を見せるアーダッツ。
だがその余裕の言葉と裏腹に次の瞬間、アーダッツの『レイフウAS』は持ち前の驚くべき瞬発力を見せる。進行方向に重力子を大量放出して“足場”を作ると、反転重力子を利用して、まるでトランポリンのようにゼロ角で反発。再びマーディンの『シデン・カイFC』へ襲い掛かった。
「!!」
即座に反応したマーディンも、『レイフウAS』が直線運動になった一瞬を見逃さず、超電磁ライフルを向けてトリガーを引く。だがアーダッツが口にした通り、マーディンの射撃の正確さが仇となった。斜めに構えたポジトロンパイクの刃が、またもや銃弾を弾き飛ばしたのだ。懐に飛び込んで来る『レイフウAS』のクローが煌めく。間髪入れず操縦桿を引くマーディン。それと同時にマーディンは、超電磁ライフルを反射的に真横へ振り抜いた。
そのライフルの銃身は、挑み掛かって来る『レイフウAS』が伸ばした、右手のクァンタムクローによってバラバラに切り裂かれる。五つの輪切りにされた、ライフルの銃身が宇宙空間に飛び散る。しかしその衝撃で、『レイフウAS』の右手の軌道は逸れ、『シデン・カイXS』の右脇腹を僅かに掠めただけに終わった。
すかさず『シデン・カイXS』に膝蹴りを行わせるマーディン。持ち前の瞬発力でアーダッツは間合いを取り、機体を翻しながらポジトロンパイクによる斬撃を繰り出す。下から振り上げられて来るパイクの刃。
マーディンは槍の柄の石突き側で、そのパイクの柄を打ち据えるが、やはり出力の差で機体ごと跳ね飛ばされた。体勢が崩れたところに伸びて来る、敵機の右腕。狙いは頭部だ。するとマーディンは機体を後退させるのではなく前進させて、ボクシングのクロスカウンターのように、『シデン・カイXS』の右腕を突き出した。
イチかバチかの選択。マーディンが機体を前進させた事により、タイミングをずらされた『レイフウAS』の右手は、マーディンの機体の頭部左半分を破壊しただけに終わる。そして叩きつけた『シデン・カイXS』の右手は、銃身を失った超電磁ライフルの本体を握っており、不安定な状態であったライフル本体は、叩きつけられた衝撃で爆発。こちらも『レイフウAS』の頭部左半分を破壊した。
「むおおっ!!」
思いがけないマーディンのクロスカウンターに、コクピットのアーダッツは驚きの声を上げてのけ反る。相手が自分から突っ込んで来るのは想定外だったのだ。邪道な戦法だが有効であった事は否めない。
一方のマーディンも、今のクロスカウンターが邪道だとは理解している。そして有効な事も。なぜなら自分が忠誠を誓い、敬愛している主君が、こういった戦法を得意としているからだ。その主君とは無論、ノヴァルナ・ダン=ウォーダである。
強い相手と戦う際には、窮地で退かず、一歩踏み出してその中に活路を見い出すのが、ノヴァルナの真骨頂だった。それを近くで見て来たマーディンは、自分の機体より出力が高い『レイフウAS』との戦いで、主君に倣ったのだった。ただ当然ながら、マーディンにノヴァルナと同じ事が出来るだけの技量が、必要であるのも忘れてはならない。
「おのれ。小賢しい!」
思わぬ反撃に、呪詛の言葉を吐くアーダッツ。それを聞いてマーディンはここでアーダッツに煽る言葉を入れる。これもノヴァルナ流だ。
「私に不覚を取るような腕で、ノヴァルナ様のお相手など笑止千万!」
「うぬ!」
マーディンの言葉に歯噛みしたアーダッツは、急加速してクァンタムクローの連続突きを放った。だがセンサー類の集中した頭部を半壊させられており、照準精度は落ちている。それはマーディンの『シデン・カイXS』も同様なのだが、攻撃を回避するだけなら、当てる方よりは影響は少ない。それに煽られたアーダッツが、少々精神の平衡を失っていたのもある。
「チィ! 照準軸がズレておる!」
それに加えてBSHOの照準機能は、BSIユニットより複雑だった。サイバーリンク深度が、親衛隊仕様機を含むBSIユニットより深いため、照準センサー画面を目視しなくとも、脳内画像でかなり正確な照準が可能なのだが、それが逆に機体の照準センサーに、より精度の高い情報取得を求めるからだ。
“この状況なら!”
意を決したマーディンは、左腕に大型ポジトロンランスを抱え、打撃を加えようとする。ところが一瞬先に『レイフウAS』は、『シデン・カイXS』に向けて左手のポジトロンパイクを投げつけると、続いて超電磁ライフルを構えてトリガーを引く。
「なにっ!?」
急旋回をかけてポジトロンパイクと銃弾を回避するマーディン。そこへさらに、『レイフウAS』は左手の超電磁ライフルを向けたまま、高速で間合いを詰め、大きな右手を上段から振り下ろして来た。躱しきれずにマーディンの機体は、右側のショルダーアーマーを深く切り裂き、刃先はその下の機体本体右肩まで達する。
「!!!!」
アーダッツの機体が急に、正確な照準機能を取り戻した事に、マーディンは驚きの表情を隠せない。
▶#15につづく
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