15 / 384
第1話:ミノネリラ進攻
#13
しおりを挟むアーダッツの隊に最初に接触したのは、ウォーダ軍第3航宙戦隊の空母に所属しているBSIユニット、第238中隊と第242中隊だった。『レイフウAS』の司令官マーカーに気付いた、新型の量産型『シデン・カイ』50機が立ち向かって来る。この二つの中隊も、機動兵器の数的有利が逆転した事を知り、アーダッツを討ち取って状況を打破しようと、賭けに出たのだ。
「マズいな…」
味方の238中隊と242中隊の動きを、コクピットの戦術状況ホログラムで確認したマーディンは、顔をしかめて呟いた。相手はBSHOであり、護衛に付くのは親衛隊仕様機のはずである。そこへ向かう二個中隊の動きは単調に思えるのだ。通信回線を開いて二つの中隊を下がらせようとするが、通信妨害が酷くて中隊までの距離は繋がらない。
「全機、急げ!」
端正な顔に不安の影を過らせたマーディンは、配下の『トルーパーズ』に督促の言葉を発した。
艦隊指揮では凡将のアーダッツだが、さすがに二つ名の勇名を持つだけあって、BSIパイロットとしての腕は一流だ。粗削りの面はあるが、それをむしろ自らの長所としている。
複数で群がって来る、ウォーダ軍の『シデン・カイ』。それに対するアーダッツの『レイフウAS』は、左手に構えた超電磁ライフルを乱れ撃ちし、敵の動きから統一性を奪うと急加速。自ら敵機の中に飛び込んで格闘戦を挑んだ。左手にライフルを持ったまま、Qブレードの鉤爪を指先に装備した、巨大な右手で襲い掛かる。
「うっ、うわぁあああああ!!!!」
まるで悪魔の手のような『レイフウAS』の右手に掴みかかられて、視界を覆いつくされる『シデン・カイ』のパイロットが叫び声を上げる。そのまま『シデン・カイ』の頭部を握り潰して、首を引きちぎった『レイフウAS』は、その鋭い指先を揃えて、コクピットがある相手の腹部を突き刺した。胴体を引き裂かれパイロットが絶命した『シデン・カイ』は、力無く宇宙を漂う。
しかもその一瞬後、『レイフウAS』はすでに、別の『シデン・カイ』の頭部を握り潰していた。そして救援に駆け付けようと、背後から接近していた別の『シデン・カイ』に対し、左腕の超電磁ライフルをノールックで向けて、銃弾を浴びせている。至近距離で撃ち抜かれた機体は、爆発を起こして砕け飛んだ。
「ハハハハ! 新型BSIが、どれほどのものであろうや!!」
『レイフウAS』のコクピットで、笑い声交じりに言い放つアーダッツ。
『レイフウAS』にメインのセンサーや、光学カメラ類が集中する頭部を握り潰され、コクピットを包む全周囲モニターがブラックアウトした直後に、さらにその暗闇の中でコクピットごと体を引き裂かれるのは、パイロットにとって恐怖でしかない。アーダッツはそのような殺害方法を、意識的に行っている節があった。また一機、頭部を失った『シデン・カイ』が、『レイフウAS』に腹部コクピットを串刺しにされる。
「ワハハハハ! ノヴァルナ殿が痺れを切らして出て来るまで、部下達を殺し続けてやるとしようぞ!!」
アーダッツはこの惨状が続けば、パイロットとしての技量にも自信があるノヴァルナが、自らBSHOで戦いを挑んで来るに違いないと考えていた。そしてその周囲では、やはり武将を守る親衛隊だけあって、アーダッツ直属の親衛隊仕様『ライカSS』が、数的優位なはずの『シデン・カイ』を、次々と撃破している。
すると『ライカSS』の一機を斬り伏せて、その爆炎の中を突き抜け、『レイフウAS』に仕掛ける『シデン・カイXS』がある。第242中隊の指揮官機だ。二機の量産型『シデン・カイ』が左右後方に従っている。しかしそのうちの一機は、アーダッツの親衛隊機に横合いから狙撃され爆砕した。ただ狙撃した親衛隊機も乱戦の中、別の『シデン・カイ』に背後から銃弾を浴びせられて、火球と化す。
242中隊長機と残った一機は、左右に分かれたかと思うと、再加速して一気にアーダッツの『レイフウAS』に襲い掛かった。超電磁ライフルを連射しながら間合いを詰める。だが『レイフウAS』は格闘戦に特化した機体だけあって、瞬発力には驚くべきものがあった。挟撃状態で銃弾を浴びながらもその悉くを、まるでテレポーテーションしているかのような、眼にも留まらぬ俊敏な動きで回避する。無論その動きは『レイフウAS』の機体性能だけでなく、ロックベルト=アーダッツのパイロットとしての、技量にもよるものであるのは言うまでもない。
それでも242中隊の指揮官は怯まなかった。親衛隊の『ライカSS』を瞬時に屠っただけに、技量は本物だ。銃撃は通用しないというのは織り込み済みだったらしく、ポジトロンパイクを手にして部下と共に格闘戦に持ち込む。格闘戦ならば、アーダッツの親衛隊から狙撃を受けない、という意図もある。
それに対しアーダッツは、むしろ歓迎するような表情で応じた。
「ほう、格闘戦を所望か。その意気や良し!」
言うが早いか驚異的な瞬発力を見せた『レイフウAS』は、自分から敵機へ突撃を仕掛ける。まず狙ったのが、量産型『シデン・カイ』だ。『シデン・カイ』が斬撃を浴びせようと、ポジトロンパイクを振り上げたその瞬間、コクピットのある腹部をクァンタムクロ―を装備した、右手で刺し貫いた。さすがに二機同時を相手にしているため、頭部を握り潰す事はしない。
そしてアーダッツは、パイロットが即死した『シデン・カイ』の機体を右腕に突き刺したまま、背後を振り返る。そこにいたのは242中隊指揮官機だった。味方の機体を盾にされ、一瞬たじろぐ242中隊長機。『レイフウAS』をポジトロンパイクで突き刺そうとしていた、その手が止まった刹那、『レイフウAS』は『シデン・カイ』にタックルを喰らわせ、盾にしたまま中隊長機との間合いを詰めた。咄嗟に回避運動を取る中隊長機。
すると『レイフウAS』はそれより速い動きで、中隊長機の背後に回り込んでいた。中隊長のヘルメットに近接警戒警報音が鳴り響くのとほぼ同時に、後ろから伸びて来た右手が頭部を鷲掴みにして、首の関節部からもぎ取る。
「ふん。新型の親衛隊仕様も、期待外れか!」
そう言い捨てて、242中隊長機にとどめを刺そうと、クァンタムクロ―を構えるアーダッツ。だがその時、ロックオン警報が鳴る。頭部を失った中隊長機を放り出した『レイフウAS』は、反射的に距離を取った。一弾、二弾、三弾と超電磁ライフルの銃弾が通過する。
「新手か!?」
そう言って、全周囲モニターの表示に顔を向けたアーダッツの眼が捉えたのは、トゥ・シェイ=マーディンの『シデン・カイXS』だ。さらに四弾、五弾、六弾と飛来する銃弾を、アーダッツは紙一重で回避していく。そしてその照準の良さに、只者ではない好敵手の出現を感じ取った。
「む。手練れか!」
アーダッツは通信回線を、全周波数帯に切り替えて呼び掛ける。
「ご貴殿。何者であるか!?」
マーディンは機体の右手に超電磁ライフルを握り、左手でバックパックのハードポイントから大型ポジトロンランスを掴み取って、名乗りを上げた。
「ウォーダ家BSI中隊『トルーパーズ』筆頭、トゥ・シェイ=マーディン。ロックベルト=アーダッツ殿に推参仕る!」
「ほう、マーディン殿。ノヴァルナ殿のもとを出奔したと聞いたが、新型機を与えられておるのを見ると、やはり単なる噂であったか」
アーダッツの『レイフウAS』も、ポジトロンパイクを左手に取って身構える。
▶#14につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
母の城 ~若き日の信長とその母・土田御前をめぐる物語
くまいくまきち
歴史・時代
愛知県名古屋市千種区にある末森城跡。戦国末期、この地に築かれた城には信長の母・土田御前が弟・勘十郎とともに住まいしていた。信長にとってこの末森城は「母の城」であった。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】
野松 彦秋
歴史・時代
妻木煕子(ツマキヒロコ)は親が決めた許嫁明智十兵衛(後の光秀)と10年ぶりに会い、目を疑う。
子供の時、自分よりかなり年上であった筈の従兄(十兵衛)の容姿は、10年前と同じであった。
見た目は自分と同じぐらいの歳に見えるのである。
過去の思い出を思い出しながら会話をするが、何処か嚙み合わない。
ヒロコの中に一つの疑惑が生まれる。今自分の前にいる男は、自分が知っている十兵衛なのか?
十兵衛に知られない様に、彼の行動を監視し、調べる中で彼女は驚きの真実を知る。
真実を知った上で、彼女が取った行動、決断で二人の人生が動き出す。
若き日の明智光秀とその妻煕子との馴れ初めからはじまり、二人三脚で戦乱の世を駆け巡る。
天下の裏切り者明智光秀と徐福伝説、八百比丘尼の伝説を繋ぐ物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀
さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。
畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。
日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。
しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。
鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。
温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。
彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。
一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。
アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。
ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。
やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。
両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は?
これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。
完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる