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第1話:ミノネリラ進攻
#13
しおりを挟むアーダッツの隊に最初に接触したのは、ウォーダ軍第3航宙戦隊の空母に所属しているBSIユニット、第238中隊と第242中隊だった。『レイフウAS』の司令官マーカーに気付いた、新型の量産型『シデン・カイ』50機が立ち向かって来る。この二つの中隊も、機動兵器の数的有利が逆転した事を知り、アーダッツを討ち取って状況を打破しようと、賭けに出たのだ。
「マズいな…」
味方の238中隊と242中隊の動きを、コクピットの戦術状況ホログラムで確認したマーディンは、顔をしかめて呟いた。相手はBSHOであり、護衛に付くのは親衛隊仕様機のはずである。そこへ向かう二個中隊の動きは単調に思えるのだ。通信回線を開いて二つの中隊を下がらせようとするが、通信妨害が酷くて中隊までの距離は繋がらない。
「全機、急げ!」
端正な顔に不安の影を過らせたマーディンは、配下の『トルーパーズ』に督促の言葉を発した。
艦隊指揮では凡将のアーダッツだが、さすがに二つ名の勇名を持つだけあって、BSIパイロットとしての腕は一流だ。粗削りの面はあるが、それをむしろ自らの長所としている。
複数で群がって来る、ウォーダ軍の『シデン・カイ』。それに対するアーダッツの『レイフウAS』は、左手に構えた超電磁ライフルを乱れ撃ちし、敵の動きから統一性を奪うと急加速。自ら敵機の中に飛び込んで格闘戦を挑んだ。左手にライフルを持ったまま、Qブレードの鉤爪を指先に装備した、巨大な右手で襲い掛かる。
「うっ、うわぁあああああ!!!!」
まるで悪魔の手のような『レイフウAS』の右手に掴みかかられて、視界を覆いつくされる『シデン・カイ』のパイロットが叫び声を上げる。そのまま『シデン・カイ』の頭部を握り潰して、首を引きちぎった『レイフウAS』は、その鋭い指先を揃えて、コクピットがある相手の腹部を突き刺した。胴体を引き裂かれパイロットが絶命した『シデン・カイ』は、力無く宇宙を漂う。
しかもその一瞬後、『レイフウAS』はすでに、別の『シデン・カイ』の頭部を握り潰していた。そして救援に駆け付けようと、背後から接近していた別の『シデン・カイ』に対し、左腕の超電磁ライフルをノールックで向けて、銃弾を浴びせている。至近距離で撃ち抜かれた機体は、爆発を起こして砕け飛んだ。
「ハハハハ! 新型BSIが、どれほどのものであろうや!!」
『レイフウAS』のコクピットで、笑い声交じりに言い放つアーダッツ。
『レイフウAS』にメインのセンサーや、光学カメラ類が集中する頭部を握り潰され、コクピットを包む全周囲モニターがブラックアウトした直後に、さらにその暗闇の中でコクピットごと体を引き裂かれるのは、パイロットにとって恐怖でしかない。アーダッツはそのような殺害方法を、意識的に行っている節があった。また一機、頭部を失った『シデン・カイ』が、『レイフウAS』に腹部コクピットを串刺しにされる。
「ワハハハハ! ノヴァルナ殿が痺れを切らして出て来るまで、部下達を殺し続けてやるとしようぞ!!」
アーダッツはこの惨状が続けば、パイロットとしての技量にも自信があるノヴァルナが、自らBSHOで戦いを挑んで来るに違いないと考えていた。そしてその周囲では、やはり武将を守る親衛隊だけあって、アーダッツ直属の親衛隊仕様『ライカSS』が、数的優位なはずの『シデン・カイ』を、次々と撃破している。
すると『ライカSS』の一機を斬り伏せて、その爆炎の中を突き抜け、『レイフウAS』に仕掛ける『シデン・カイXS』がある。第242中隊の指揮官機だ。二機の量産型『シデン・カイ』が左右後方に従っている。しかしそのうちの一機は、アーダッツの親衛隊機に横合いから狙撃され爆砕した。ただ狙撃した親衛隊機も乱戦の中、別の『シデン・カイ』に背後から銃弾を浴びせられて、火球と化す。
242中隊長機と残った一機は、左右に分かれたかと思うと、再加速して一気にアーダッツの『レイフウAS』に襲い掛かった。超電磁ライフルを連射しながら間合いを詰める。だが『レイフウAS』は格闘戦に特化した機体だけあって、瞬発力には驚くべきものがあった。挟撃状態で銃弾を浴びながらもその悉くを、まるでテレポーテーションしているかのような、眼にも留まらぬ俊敏な動きで回避する。無論その動きは『レイフウAS』の機体性能だけでなく、ロックベルト=アーダッツのパイロットとしての、技量にもよるものであるのは言うまでもない。
それでも242中隊の指揮官は怯まなかった。親衛隊の『ライカSS』を瞬時に屠っただけに、技量は本物だ。銃撃は通用しないというのは織り込み済みだったらしく、ポジトロンパイクを手にして部下と共に格闘戦に持ち込む。格闘戦ならば、アーダッツの親衛隊から狙撃を受けない、という意図もある。
それに対しアーダッツは、むしろ歓迎するような表情で応じた。
「ほう、格闘戦を所望か。その意気や良し!」
言うが早いか驚異的な瞬発力を見せた『レイフウAS』は、自分から敵機へ突撃を仕掛ける。まず狙ったのが、量産型『シデン・カイ』だ。『シデン・カイ』が斬撃を浴びせようと、ポジトロンパイクを振り上げたその瞬間、コクピットのある腹部をクァンタムクロ―を装備した、右手で刺し貫いた。さすがに二機同時を相手にしているため、頭部を握り潰す事はしない。
そしてアーダッツは、パイロットが即死した『シデン・カイ』の機体を右腕に突き刺したまま、背後を振り返る。そこにいたのは242中隊指揮官機だった。味方の機体を盾にされ、一瞬たじろぐ242中隊長機。『レイフウAS』をポジトロンパイクで突き刺そうとしていた、その手が止まった刹那、『レイフウAS』は『シデン・カイ』にタックルを喰らわせ、盾にしたまま中隊長機との間合いを詰めた。咄嗟に回避運動を取る中隊長機。
すると『レイフウAS』はそれより速い動きで、中隊長機の背後に回り込んでいた。中隊長のヘルメットに近接警戒警報音が鳴り響くのとほぼ同時に、後ろから伸びて来た右手が頭部を鷲掴みにして、首の関節部からもぎ取る。
「ふん。新型の親衛隊仕様も、期待外れか!」
そう言い捨てて、242中隊長機にとどめを刺そうと、クァンタムクロ―を構えるアーダッツ。だがその時、ロックオン警報が鳴る。頭部を失った中隊長機を放り出した『レイフウAS』は、反射的に距離を取った。一弾、二弾、三弾と超電磁ライフルの銃弾が通過する。
「新手か!?」
そう言って、全周囲モニターの表示に顔を向けたアーダッツの眼が捉えたのは、トゥ・シェイ=マーディンの『シデン・カイXS』だ。さらに四弾、五弾、六弾と飛来する銃弾を、アーダッツは紙一重で回避していく。そしてその照準の良さに、只者ではない好敵手の出現を感じ取った。
「む。手練れか!」
アーダッツは通信回線を、全周波数帯に切り替えて呼び掛ける。
「ご貴殿。何者であるか!?」
マーディンは機体の右手に超電磁ライフルを握り、左手でバックパックのハードポイントから大型ポジトロンランスを掴み取って、名乗りを上げた。
「ウォーダ家BSI中隊『トルーパーズ』筆頭、トゥ・シェイ=マーディン。ロックベルト=アーダッツ殿に推参仕る!」
「ほう、マーディン殿。ノヴァルナ殿のもとを出奔したと聞いたが、新型機を与えられておるのを見ると、やはり単なる噂であったか」
アーダッツの『レイフウAS』も、ポジトロンパイクを左手に取って身構える。
▶#14につづく
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