14 / 339
第1話:ミノネリラ進攻
#12
しおりを挟む「戦艦『レドヴァン』『ガベルダ』爆発。『デフノッド』航行不能!」
「空母『ペンドック』大破。“ワレ艦載機発艦デキズ!”」
「重巡第14戦隊、被害甚大。撤退許可を求めています!」
増大する味方艦隊の損害報告に、具体的な対応策も示さず、「反撃しろ!」とばかり叫んでいたフィビオもナーガイだったが、さすがにこの状況に顔を青ざめさせる。あまりに完璧にノヴァルナの罠に嵌った彼等にとっては、まるで魔法をかけられたようですらあった。
「ば、馬鹿な。こんな事が…」
味方重巡の爆発光に照らされた唇を震わせて、うわごとのように言うフィビオ。そこにナーガイが憔悴した表情で通信を入れる。
「どうする!? このままではザイード様とハルマ様に、顔向け出来んぞ!」
この期に及んで対策を練るよりも先に、イースキー家の実験を握っているビーダとラクシャスから、不興を買うことを恐れるナーガイ。そんな猶予はあるのかと思えるが、今のイースキー家でこの二人の不興を買う事は、人生の終焉と同じ意味を持つのだから、実のところは“顔向けできない”どころの話ではない。
ここで堪らず発言したのが、キャンベルだった。いくらビーダとラクシャスから命じられ、フィビオとナーガイの下についているとはいえ、ここまで来ると我慢の限界であった。
「フィビオ殿! ナーガイ殿!―――」
強い口調で、通信に割り込んで来るキャンベル。恒星間防衛艦隊司令の出身だけあって、
「ここは反撃しつつ艦隊を後進させ、星間ガスの中へ一時退避。我等の宙雷戦隊とアーダッツ殿の艦隊との合流を、優先すべきではないだろうか!」
これを聞いたフィビオとナーガイだが、つい“退避”という単語に、過剰に反応してしまう。
「ノヴァルナごときの軍に、退避すると仰せになるのですか!?」
「言い方などどうでもいい。損害を増やしている場合ではなかろう!?」
「そのような事は、言われずとも理解しております!」
「艦の数はまだ、我等が上です。戦いはこれからではありませんか!」
…という言い合いこそが不毛である。その間にイースキー側の戦艦二隻、重巡三隻、空母二隻、軽空母二隻と、その大半の乗組員が星の海に中で鬼籍に入った。ただキャンベルの策こそ、この場合は正解なのだ。星間ガスの中に退避して艦隊を立て直されると、折角ウォーダ軍が手段を講じて来た陽動・分離作戦が最悪の場合、灰燼に帰すからである。
とその時、イースキー家のロックベルト=アーダッツの空母部隊、第8艦隊が遅れて星間ガスの中から姿を現した。しかもフィビオとナーガイが置き去りにしていた、宙雷戦隊の軽巡や駆逐艦の生き残りも引き連れている。
「無事であるか? 御三方」
アーダッツの呼びかけに、ウォーダ軍に押されていた三人の司令官は、愁眉を開いた。
「おお!」
「アーダッツ殿か!」
「艦隊を後退し、こちらに合流させられい。これより艦載機を発艦させる」
そう言うアーダッツもすでに旗艦空母の艦載機格納庫で、専用BSHO『レイフウAS』に搭乗している。“首取りアーダッツ”の二つ名の由来となった機体は、格闘戦向きとなっており、特に右手は特徴的であった。右手自体が通常のBSIユニットより倍以上の大きさがあって、しかもそれぞれの指先に、クァンタムブレードの長い鉤爪が付いているのである。これで敵BSIユニットの頭部を握り潰し、さらには刺突や斬撃で機体そのものを破壊してしまうのだ。
「宙雷戦隊を前に。各空母に艦載機発艦命令!」
アーダッツは艦橋に命じると、自らの『レイフウAS』を、発艦用の重力子カタパルトに固定する。超電磁誘導で圧縮した重力子と反転重力子の、交互パルスによる機体射出は、原理的には超電磁ライフルと同じである。
「アーダッツだ。『レイフウAS』、発艦する」
アーダッツの第8艦隊旗艦となっている宇宙空母は、八基の重力子カタパルトから同時にBSIユニットを射出する事ができる。三回の射出で、『レイフウAS』と二十機の親衛隊仕様『ライカSS』が宇宙へ飛び出した。
空母打撃艦隊のイースキー軍第8艦隊には、正規空母と軽空母が合わせて二十二隻もあり、艦載機はBSIと攻撃艇を千機以上も搭載している。この艦隊だけで、ウォーダ軍の艦載機を上回る事になる。
こうなるとまるでアーダッツは、イースキー軍にとって救世主のようだが、実はそうではない。
第九惑星ニレ・マーダン周囲の星間ガス内部で、ノヴァルナと『ホロウシュ』を迎撃するため、独断で艦載機の一部を出撃させた挙句、その収容に時間が掛かり、星間ガスを出て合流するのが遅れたのだ。これがもし独断で行動せず、フィビオらと共に星間ガスを出ていれば、ウォーダ軍の宙雷戦隊や機動兵器部隊の襲撃に対して、もっと効果的な反撃が行えたはずであった。そういった面でやはりアーダッツの艦隊指揮能力は、凡将レベルなのである。
出遅れたアーダッツのBSI部隊に対し、ウォーダ軍第1艦隊第1航宙戦隊の旗艦空母『シェルヴォイド』から、新たなBSI部隊が発艦する。各部隊から技量の高いパイロット36名を集め、親衛隊仕様『シデン・カイFC』を与えた、新設のエース部隊『トルーパーズ』だ。
これは第二の『ホロウシュ』とも言えるもので、本来の『ホロウシュ』がノヴァルナ直属の親衛隊であるのに対し、『トルーパーズ』は第1艦隊の親衛隊とも呼ぶべき位置づけとなっている。
そしてその『トルーパーズ』を指揮しているのが、前『ホロウシュ』筆頭だったトゥ・シェイ=マーディンだ。ノヴァルナの密命を受け、皇都惑星キヨウで超空間ネゲントロピーコイル関連の情報を収集していたマーディンだが、先日その任務を完了し、ウォーダ家へ復帰したのである。そしてその功への褒美としてノヴァルナが用意したのが、第1航宙戦隊司令官兼『トルーパーズ』指揮官のポストだった。
ウォーダ家復帰後は再び、『ホロウシュ』筆頭の座へ返り咲くものと思われていたマーディンだが、大抜擢となったわけである。そして現在、専用BSHOも建造中となっている。
青系カラーリングが施された、『シデン・カイXS』を操縦するマーディンは、配下の35機に命じた。『トルーパーズ』としてはこれが初陣だ。
「トルーパーゼロワンより全機。攻撃目標は新たに出現した敵空母部隊の、指揮官機だ。対消滅反応炉の出力情報から見て、BSHOと思われる。注意せよ」
「了解」
部下達の返答を聞きながら、マーディンは操縦桿を軽く握り締めた。自分達の任務は重大だと改めて思う。新手の空母部隊の指揮官は機体の識別信号からすると、どうやら“首取りアーダッツ”であるらしく、しかも搭乗機はBSHOのようだ。それをカスタマイズされた新型親衛隊仕様機とは言え、BSIユニットで討ち取るには相当な覚悟が必要となる。しかしBSI部隊の数で、一気に不利になったこの状況を打開するには、やり遂げるしかない。
「復帰早々。ノヴァルナ様も、やり甲斐のある仕事を下さる」
ともすればノヴァルナへの、皮肉にも聞こえる独り言であったが、それを口にしたマーディン自身は、己に宿る武人の心に炎が燃え上がり、血液の温度が上がり始めたように感じていた。自機のセンサーも、敵編隊を率いている指揮官機を捕捉する。
“よき敵、ござんなれ”
超電磁ライフルを構えるマーディンの口許には、まるで彼の主君が見せるような笑みが浮かんでいた。
▶#13につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる