7 / 384
第1話:ミノネリラ進攻
#05
しおりを挟むウォーダ家とタ・クェルダ家の同盟は、皇国暦1561年10月15日に、正式に締結された。これに準じトクルガル家も、タ・クェルダ家と同盟関係となる。
意外だったのはシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダが、ノヴァルナの思った以上に、この同盟を喜んだらしいという事であろう。シーゲンの名代として、同盟締結の挨拶にキオ・スー城を訪れた家老のシン・マス=コーサックは、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取ったノヴァルナの武勇への賛辞を並べ、手土産として大型コンテナ三個分ものティルサルガ星系産ウイスキーを、持ち込んで来たのである。
ノヴァルナ個人にも愛飲家垂涎の的と言われる、ティルサルガ星系第三惑星ベロノアの“シャイニングダガー1519年”が、1ダースも贈られたのであるが、酒の飲めないノヴァルナは、引き攣り気味の笑顔で礼を言うしかなかった。
そしてその一ヵ月後の11月15日。ウォーダ家の第一次ミノネリラ派遣軍が、惑星ラゴンを発進した。規模は四個艦隊。ノヴァルナが星帥皇のテルーザ・シスラウェラ=アスルーガと交わした約束通り、皇都宙域ヤヴァルトへ向かうための基盤作りを目的とする、“威力偵察”を兼ねた派遣である。
またこの“派遣軍”という呼称にも意味があった。
昨年の“フォルクェ=ザマの戦い”の前に、ミノネリラ宙域のイースキー家で起きた、当主ギルターツの不審死事件により、当主の座を継いだ嫡男オルグターツであるが、ギルターツの生前から悪評のあった放蕩三昧が、当主になった直後から一層酷くなり、統治を放棄して二人の重臣、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマに丸投げしている状況らしい。
そしてこのビーダとラクシャスが、関税及び所得税をはじめとする税率の引き上げ、開拓中の植民星系に対する財政支援の打ち切りなどの、宙域中央部にのみ経済的利益を集中させる、横暴極まりない悪政を始めたのである。
そのような中で今年の7月、ミノネリラ宙域内でオ・ワーリ宙域に近い植民惑星において、悲劇的な事件が発生した。ウモルヴェ星系にある第四惑星カーティムルで、惑星上の複数の火山が大規模噴火を起こしたのだ。
惑星カーティムルでは多数の都市が壊滅的打撃を受け、膨大な数の被災民が生み出された。ところがこのカーティムルに対しビーダとラクシャスは、その復興を現地の行政府に押しつけ、宙域を統治する星大名家として、何の救援行動も起こさなかったのである。
だが惑星規模の大災害を、現地行政府だけで対応できるはずもない。そこで被災した領民で惑星からの脱出が可能な人々は、貨物宇宙船などまで使用して、集団で惑星カーティムルを脱出した。
そしてそんな被災民達の大半が向かったのは、ミノネリラ宙域の他の植民惑星ではなく、隣国のオ・ワーリ宙域だったのである。
統治者ノヴァルナとしての評判は、昨年のイマーガラ家の侵略を打ち砕き、素早い復興策を次々と打ち出した事で、今や以前の“傍若無人な大うつけ”から一転して、“領民に対し温情をもって治政を行う善き君主”へと変化していた。カーティムルの難民は、自分達を見捨てたも同然のイースキー家に失望して、ノヴァルナを頼ったのだ。
そこでノヴァルナは惑星カーティムルの救援を、表向きの任務とする事で、“進攻部隊”ではなく、“派遣軍”としたのであった。無論イースキー家の了解など、得てはいないが………
惑星カーティムルのあるミノネリラ宙域ウモルヴェ星系を目指し、ラゴンを発進した“派遣軍”四個艦隊は、ノヴァルナの第1艦隊、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊、ウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊で編成されていた。
なお1561年になってウォーダ家は艦隊編成が一部され、第2艦隊をノヴァルナのクローン猶子三兄弟の長男、ヴァルターダが指揮を執るようになっている。
またこの派遣軍の後方には、惑星カーティムルへの救援物資と医療団を乗せた、特務輸送艦隊が続いている。そしてこの特務艦隊を指揮しているのは、戦闘輸送艦『クォルガルード』に座乗するノアであった。
「でもさすがに“悪だくみ”が得意な、ノバくんね」
「ノバくん言うな」
総旗艦『ヒテン』の私室で向かい合って座り、ティータイムを楽しむ二人。“ノバくん”呼びに対するやり取りは、六年経っても変わっていない。
「それに“悪だくみ”もだ。人聞きの悪ぃ」
「人聞きって…あなたと私しかいないのに、人聞きも無いでしょ?」
ティーカップを口許へ運びながら、そっけなく言うノアに、ノヴァルナは不敵な笑みを浮かべて「そりゃそうだ」と応じる。
ノアの言う“悪だくみ”とは、ウォーダ家が惑星カーティムルの大災害救援を、ミノネリラ宙域進出への大義名分とした事も無論だが、その特務輸送艦隊の司令官に、かつてのミノネリラ宙域の統治者、ドゥ・ザン=サイドゥの娘であるノアを任命した事も含まれていた。
▶#06につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
母の城 ~若き日の信長とその母・土田御前をめぐる物語
くまいくまきち
歴史・時代
愛知県名古屋市千種区にある末森城跡。戦国末期、この地に築かれた城には信長の母・土田御前が弟・勘十郎とともに住まいしていた。信長にとってこの末森城は「母の城」であった。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。


四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる