3 / 386
第1話:ミノネリラ進攻
#01
しおりを挟むウェルズーギ軍の“カートホイール・タクティクス”を、まずまともに受ける事になったのは、シーゲンの本隊前衛を務めていたトラミット=モルザミーと、ダルター=ヴァズカノンの艦隊である。
ウェルズーギ軍先鋒のカイエス=カークザック艦隊は、この両艦隊の前面で一斉右回頭を掛けながら全力攻撃を行う。
「弾倉とエネルギーバンクが、空になるまで撃て!!」
闘将カイエスの檄に従い、初手から猛然と砲火を加えるウェルズーギ第5艦隊。戦艦と重巡航艦が大口径の主砲を放ち、軽巡航艦が宇宙魚雷を射出すると、たちまちトラミットとダルターの艦隊に、爆発の閃光が連続する。
「戦艦『アスハード』大破。戦艦『ルヴァット』通信途絶!」
「第22宙雷戦隊、被害甚大!! 戦隊旗艦が爆発した模様!」
「第14航宙戦隊、BSI部隊の発進間に合わず! 母艦喪失率60%!」
立て続けに報告される艦隊の損害状況に、実戦経験が豊富なトラミットと、ダルターであっても焦りを隠せない。
「何をしている、回頭中の敵艦の横腹を狙え!」
それぞれのオペレーターにトラミットがそう叫べば、ダルターはこめかみに血管を浮かせて問い質す。
「発艦出来たBSI部隊はどうした!?」
しかし、二人の司令官の問いに対する各オペレーターの返答は、失望以外の何物でもない。
「敵は全てのアクティブシールドを、こちらへ向けた戦艦を外側に回頭。我が方の射撃による損害は軽微です!」
「我が方BSI部隊は敵BSI部隊の迎撃に遭い、艦隊攻撃は未だ行えず!」
“カートホイール・タクティクス”の恐ろしい点は、一つの艦隊が火力の大半を使い尽くしても、すぐに真新しい戦闘力を持った艦隊が後続して来る事である。事実、カイエスのタ・クェルダ軍第5艦隊が右回頭する向こうから、二番手でウェルズーギ家“七手組”筆頭のサネイドル=ホルゾン麾下、第3艦隊が姿を現す。
「攻撃開始」
サネイドル=ホルゾンが抑揚のない口調で命じ、ウェルズーギ第3艦隊は全艦が火箭を開いた。これに対してタ・クェルダ軍はシーゲンの指示で、全艦による半包囲陣を即座に形成。ウェルズーギ軍の輪形陣で突出して来た艦隊へ、攻撃を集中しようとする。
だが本来、この半包囲陣を形成して、ウェルズーギ軍に有効な打撃を与えるためには、タ・クェルダ軍に同等以上の戦力が必要だ。それを別動隊を分けた事で数的劣勢に陥ったまま、強引に仕掛けたのであるから、効果が薄いのは否めない。
半包囲陣からの集中攻撃にもかかわらず、ホルゾン麾下のウェルズーギ第3艦隊は、正面にのみ火力を集中。タ・クェルダ軍のトラミットとダルターの艦隊に、多大なダメージを与えて航過していく。
そしてそのウェルズーギ第3艦隊と入れ替わり、シングー・バイセット=アルマナ率いる第6艦隊が前進して来ると、トラミットとダルターの艦隊は、旗艦周辺にまで砲火が及ぶほど戦力を消耗してしまった。
原始恒星の一つを背景に眩い閃光を放ち、砕け散るタ・クェルダ軍の重巡航艦。その輝きが照らし出す艦橋の中で、艦隊参謀がトラミットへ進言する。
「閣下。この位置に留まるのは危険です。後退を!」
それに対しトラミットは、激しく頭を振って却下した。
「駄目だ!」
「ですが、我が艦隊はすでに半数以上を損失! 立て直しが必要です!」
さらに進言する参謀の背後で、オペレーターが増大する損害報告の数を増やす。艦橋の外で複数の閃光…かなり近い。宇宙魚雷の接近が告げられ、艦長が速やかに迎撃するよう命じる声がする。
「今ここで我が艦隊が後退してしまうと、勝機を逸する。踏みとどまれ!」
参謀にそう言い放ったトラミットは、自分達の左側で同じく前衛を務めている、同僚のダルターに向けて内心で呼び掛けた。
“貴殿もそう思うだろう?、ダルター殿”
しかしトラミットとダルターの鉄の意志も、冷厳たる現実の前では、そう長くは続かなかった。三番手であったウェルズーギ軍のアルマナ艦隊が回頭を終え、四番手としてバルナッガ=イジミナの第8艦隊が前進して来ると、タ・クェルダ軍の前衛は、もはや崩壊寸前となる。盾となっていた三隻の戦艦が、ほぼ同時に爆散すると、矢面に立つ形となったトラミットの旗艦に、イジミナ艦隊戦艦からの砲撃が、立て続けに命中した。被弾の過負荷に耐えられなくなった、アクティブシールドが効果を失い、艦の外殻を包むエネルギーシールドも限界に達する。そして次の瞬間には外殻の積層装甲に、幾つもの大穴が穿たれる。
「御館様…お先に、御免!」
主君シーゲンへの今生の別れを告げる言葉と共に、トラミットの旗艦は複数の火柱を噴き出し、爆発を起こす。そしてそのあとを追うように、ダルターの旗艦もまた、ウェルズーギ軍の猛攻の前に宇宙の塵となり果てた。
「タ・クェルダ軍本陣前衛部隊、壊滅!」
ウェルズーギ軍総旗艦『タイゲイ』の艦橋に、オペレーターのどこか高揚した口調の報告が響く。艦橋中央の戦術状況ホログラムには、総旗艦『リョウガイ』をはじめ、剥き出しになったシーゲン直卒の、タ・クェルダ軍第1艦隊が表示されていた………
▶#03につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる