銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第1話:ミノネリラ進攻

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“フォルクェ=ザマの戦い”から約一年後、
皇国暦1561年9月10日―――



 紫と赤紅色の濃密な星間ガスが幾本も、まるで大蛇の群れがうねっているようにも見える、シナノーラン宙域ガルガシアマ星雲。
 隣接するエティルゴア宙域との間に壁のように横たわるこの大星雲は、これまでに三度、それぞれの宙域を支配する星大名が対峙する戦場となっていた。その星大名とは、宿敵同士となっているタ・クェルダ家とウェルズーギ家である。

 この年、サガミルス宙域からスルガルム宙域の一部を支配する、ホゥ・ジェン家に対しウェルズーギ家が侵攻を開始。ホゥ・ジェン家は同盟関係にあるタ・クェルダ家に援助を求めた。

 前年の“フォルクェ=ザマの戦い”で大敗し、家勢が著しく衰えたイマーガラ家の領域浸食を密かに目論む、タ・クェルダ家の当主シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダは、このホゥ・ジェン家からの援助要請を、イマーガラ領侵攻の際に後背の敵となるウェルズーギ家に打撃を与えておく機会ととらえ、これまでで最大の戦力を投入、ガルガシアマ星雲を抜け、エティルゴア宙域へ侵入する気配を見せた。

 タ・クェルダ家の行動はあからさまな陽動であったが、ウェルズーギ家当主ケイン・ディン=ウェルズーギも、これは侵略拡張戦略を続けるタ・クェルダ家を叩いておく好機だと考え、ホゥ・ジェン領侵攻を一時中断。最大戦力で迎え撃つ事を決定した。のちに言う、“第四次ガルガシアマ星雲会戦”である。



 そして両軍主力はこの日、ハティ=マンバル原始恒星群周辺に、大部隊を展開していた。タ・クェルダ家が23個艦隊、ウェルズーギ家が18個艦隊の全力出撃。双方ともに今日が決戦という、意気込みが感じられる。

 ハティ=マンバル原始恒星群は、これを発見した皇国の天文学者の名が与えられた、八つの原始恒星系が直径およそ2光年の、球状空間の中に密集した状態になっているという、ガルガシアマ星雲の中でも特異な環境のセクターだった。

 大河のように広く、長く伸びた濃密な星間ガスが所々で球状に渦を巻き、紫の稲妻が幾つも纏わりつくその中心部が、ぼんやりと赤く光っている。恒星の卵…原始恒星だ。赤い輝きは、小規模の核融合反応が中心部で起きているからであり、これがある日、猛烈な閃光を伴って恒星と化すのである。ただその日は明日かもしれないし、千年後かもしれない。悠久の時が流れる宇宙ではどちらであっても、“瞬く間”である事に変わりはないのだ。
 
 タ・クェルダ軍総旗艦『リョウガイ』の司令官席に座る、シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダは金髪碧眼の偉丈夫。その双眸が見据える先では、戦術状況ホログラムの前面に並んだ数字が、作戦開始のカウントダウンを行っており、それを女性オペレーターが読み上げている。

「15…14…13…12―――」

 金髪の獅子を連想させる風貌のシーゲンが、副官に確認する。

「俺の『コクウン』は、いつでも出せるな?」

 BSHO『RDR‐638コクウンSAS』は、シーゲンの専用BSHOだ。若い男性副官は主君の問いに、「完了しております」と短く答える。それに被さる、女性オペレーターのカウントダウン。

「5…4…3…2…1…状況開始。『オペレーション・ウッドペッカー』、スタートです!」

 別動隊をもって、ウェルズーギ軍をハティ・マンバル原始恒星群へ誘引し、シーゲンが率いる本隊との挟撃で押し潰す。第7艦隊司令官バルバ=バルヴァと第10艦隊司令官カンサック=ヤトマーが、キツツキが木の幹を嘴で突いて、飛び出した虫を啄むさまから考案した、“啄木鳥戦法”の始まりである。

「全艦、ステルスモードで前進」

「針路008プラスマイナス0。“サイジョンの大空隙”へ向かう」

 動き出すタ・クェルダ軍別動隊十個艦隊。“サイジョンの大空隙”とはタ・クェルダ軍から見て、ほぼ前方約三億キロ先に広がる、星間ガスの無い大空間だ。ウェルズーギ軍はそこへ本陣を置き、全部隊が集結している。別動隊の役目はその本陣に攻撃を仕掛け、ハティ・マンバル原始恒星群中心部へ誘引する事である。そこをシーゲン率いる本隊が急襲、別動隊と挟撃して打ち破るのが本作戦の主旨だった。

 速度を上げて、赤紫色のガス雲の向こうへ消えていく別動隊を見送った本隊は、そのおよそ十分後に、針路を別動隊の進んだ方向から右寄りへ動き出す。待ち伏せ地点への移動であるから、こちらの速度はかなりゆっくりだ。

「今回は…決着をつけさせてもらうぞ、ケイン・ディン」

 これまで三度、このガルガシアマ星雲で砲火を交えた宿敵に、シーゲンは肉食獣を思わせる笑みを浮かべて呼びかけた。




▶#01につづく
  
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