今日から夫婦です!?

あん蜜

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第5話 今日から夫婦

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 ”僕たちはもう、夫婦なのですから”

 この男……ルイは、何を言っているのだろうか。

「わっ……私は……あなたと夫婦になった覚えはありません」

「いいえ、今日から夫婦ですよ」

「今日から……!?」

「僕たちが結婚した証を、明日お見せしますね。婚姻の書には、ばっちりと今日の日付が記されておりますので、僕たちは今日から夫婦なんですよ」

「いや……一体何を言っているのですか? プロポーズされた覚えも、した覚えもありませんが!?」

「痛いところをつきますねぇ……。そうですよね……いきなりこんなことを言われても困りますよね。驚かせてしまい、申し訳ありません」

「本当に待ってほしいのですが! 全く理解できない……」

「難しい話は明日にしましょう。今はただ、体をゆだねて、僕の手の感触を覚えてください」

「かっ……!?」

 手の感触を覚える……!?
 どうして理解しがたいことを、こうもさらりと言うのだろうか。

ぬるっ ぬるっ

「っ……!! あなた……何をっ……」

 ルイの手が、わざとらしく左右に動く。
 それにより、私の乳房が揺れ動く。

「”あなた”ではありません。ちゃんと名前で呼んでください。呼んでもらえるまで、この動きを繰り返します」

 なっ……!
 こいつ……!

「…………わかりました…………ルイと呼びますので……その動きは……っ」

「かしこまりました」

 ルイはお腹から手を離すと、あの男が触った残りの場所を丁寧に撫で洗っていった。

 浴室から出た後、ベッドに横になった私の体は、後ろからルイに抱きしめられた。

「僕のアイラさん、おやすみなさい」

 僕のアイラさん……。
 おやすみなさいと言われても、この状態でどうやって寝ることができるのだろうか。
 眠たいが、こんな状態ですやすやできるわけがない。

「……あの……ルイ…………」

すー……すー……

 寝ている!!
 うそでしょう!?
 こちらの気も知らないで……!

「はぁ…………」

 寝られるはずないと思っていたものの、体の疲れは正直だ。
 目を閉じ、次に目を開けた時には、瞼に明るい光を感じた。

 壁時計に目をやる。
 朝を通り越し、しっかり昼だ。
 ベッドにルイの姿はない。

 寝室を出て、美味しそうな香りのする方へ足を進める。

「アイラさん、おはようございます」

「……ごきげんよう……」

「”ごきげんよう”……さすがお嬢様ですね。僕にはフランクで大丈夫ですので」

 フランクとは?

「それと、アイラさんは敬語も禁止です。僕の方が年下ですし、そんなことよりも、僕はアイラさんの夫ですので!」

 濁りのない笑顔で言われると、非常に否定しにくいのだが……。
 とにもかくにも、今日はルイの口からしかと説明してもらわなければ。

「早速だけど、私たちが夫婦という理由をっ……!?」

 突然、ルイが正面から抱きしめてきた。

「えっ……!? んっ……あっ…………」

 これ以上密着できない程に、私の胸は形を変えてルイのお腹に接触している。

「あのっ……これはっ……何でしょうか!?」

「アイラさん、敬語はダメですよ。敬語をやめない限り、アイラさんを離しませんので」

 またそういうことを言う……。

「わかったわ……敬語は使わないから……」

「でも離しませんよ、まだ」

「なっ……!?」

「アイラさん……昨日あなたが感じた恐怖や嫌悪感は、少しは薄まりましたか? あの男にされたことを、思い出してしまいますか?」

「………………。今、ルイに言われて……初めて思い出したわ……」

「本当ですか!?」

「えぇ……」

「よかった……僕の手の感触に置き換わったのでしょうか……。本当によかった……」

 ルイの吐息が耳にかかる。
 手の感触に置き換わ……。

「っ…………」

 脳裏に浴室での出来事が一気によみがえった。
 驚くほど鮮明に、詳細に思い出すことができる。
 
”今はただ、体をゆだねて、僕の手の感触を覚えてください”

 言われた時はさっぱり理解できなかったのに、今は、昨夜のことを少し思い浮かべただけで、瞬く間にルイの手の感触が思い起こされる。
 まるで、ルイが触った場所に、その証が刻まれているかのよう……。
 ぞわぞわするこの感覚は、一体なんなのか……。

「あれ……アイラさん、体温が上昇していませんか? 気分はいかがです?」

 ルイの手がおでこに触れる。

「…………体調が悪いわけではなさそうですね……アイラさんから伝わってくる感情は、なんというか……」

「……?」

「間違っていたら申し訳ないのですが……もしかしてアイラさん、感じていますか?」

 …………はいぃ???
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