旦那様、仕事に集中してください!~如何なる時も表情を変えない侯爵様。独占欲が強いなんて聞いていません!~

あん蜜

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第9話 お尻

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 アーレイが総督を務める探索部隊は、明日の朝、地下迷宮「南南西」へ向けて出発することが決まった。
 そして明後日の夜、中へ入り込む予定だ。
 資料を元に計画を立てたところ、最も難関とされるのは”地下迷宮に入る時”だとわかった。

 アーレイは椅子に座り、腕を組み計画表を見つめている。
 表情はいつも通りでも、どこか緊張感が漂っている。
 私は席から立ち上がり、本棚へと足を進めた。

「どうした?」

「正体が解明されていない魔物に関する資料を、もう一度よく読んでおこうと思いまして」

「そうか」

 今回の地下迷宮には入口が一か所しかなく、侵入すると3体の魔物が一斉に襲い掛かってくると記されている。
 そのうち2体が魔物リバーグで、残りの1体は正体が謎に包まれた魔物だと推測される。
 リバーグを倒すと、中から治癒能力を持つ実を取り出すことができ、その実を食べると体内に治癒魔法が施される仕組みだ。

 2体共倒せば全隊員分の実を確保することができるため、侵入したらまずこの2体を倒し実を食べることが、安全に攻略するための鍵となる。
 リバーグは切り刻む場所、順番を守りさえすれば手こずる相手ではないけれど、正体不明の魔物がどんな性質を持つかが不明な今、前もってできることはあらゆる魔物の性質を頭に入れておくこと。

 想定できる可能性を全て想定しておかないと……。

「えっと……あの魔物が記されてあるのは……」

 私が本棚に手を伸ばし、厚めの資料を開いた直後――

さわ……

「ひゃぁ!!」

 アーレイの手が、お尻に触れる。
 いつの間にこちらへ!?
 魔物のことばかり考えていたからか、アーレイが席を立ったことに気づかなかった。

さす……さす……

「っ…………」

 布越しとはいえ、今日のドレスも生地が薄く、手の感触がしっかりと伝わってくる。

「旦那様っ……仕事に集中なさってください!」

「集中している。キミは気にせず資料を読むといい」

「さっ……」

 触られていると、集中できないのですが……!

すりすり……すりすり……

 ぞくぞくぞく……!

 アーレイの手が優しく動く。
 声は我慢できるものの、背筋が伸びてしまう。

「はっはっはっは」

「!?」

 旦那様が、笑った!?

 ばっと後ろを振り向くも、目に映ったアーレイの顔はいつものままだ。

「どうかしたのか?」

「今……お声に出して笑ってらっしゃいましたよね!?」

 それも豪快に!
 信じられない。
 旦那様の笑い声なんて……初めて……空耳ではないわよね!?

「まぁそうだな。確かに笑った」

「!!」

「何を驚いている。俺は人間だ。笑うに決まっているだろう」

「で、ですが……これまでは一度も…………」

 一体どんなお顔で笑ってらしたの!?
 まさかいつもの表情のまま!?
 そんなわけないわよね!?

「どうしてです? 何かおかしなことでもございましたでしょうか!?」

 アーレイは私のお尻を触り、私は資料を読んでいただけだ。
 何も笑うようなことは起きていないはずなのだけれど……。

「おかしなことが起きたわけではない。キミの反応が愛おしくてつい笑ってしまっただけだ」

「へっ!?」

 私の反応が愛おしい……!?

「こうして撫でると……」

「っ…………」

「キミのお尻はきゅっと力が入り硬くなるんだ。背伸びするかのように背筋が伸び、感じていない振りをするキミは、とても可愛らしく愛おしい」

「…………」

 アーレイの表情に動きはない。
 それなのに、声色はどこか優しく、甘くて……。

ぱっ

「あっ!」

 手に持っていた本が取り上げられ、正面から抱きしめられる。

「ん……」

「顔がほんのり赤くなっているが、どうかしたのか? 何か恥ずかしいことでもあったのか?」

「っ……いえっ……」

「そうか、それなら……」

 アーレイの手が下にさがり、お尻に触れる。

もみ……もみ……

「ひゃんっ……!」

 揉……揉……お尻を、揉っ……!!
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