実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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αの俺でも、逃げられない

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 まだ日も高いうちからヨルダンへと向かうことになった一行だが、流石に転移陣でヒョイと移動してしまうと警戒されて攻撃されかねないとタサファンに助言をもらい、ヨルダンの隣町で一泊しつつ情報を集めようってことになりました。

 後継者争いが一段落したとはいえ、あのヨルダンだからなぁ…と、タサファンが渋い顔で呟いているのを聞いて、そういやヨルダンについて詳しく知らないなぁと思う。

 マーニアムという友達であり神様から簡単な話しか聞いたことがない俺は、一泊するこのタイミングで情報を集めつつタサファンに話を聞こうと思ったのだった。

 小さな町の宿に泊まるので部屋割りで(保護者達が)揉めたものの、なんとか話がついて食堂に集まることになった。ぷう、と頬を膨らませてるコハクと不貞腐れてるコクヨウを無視して俺達は一つのテーブルに集まり話し合う。




 「思ったよりここの周辺は治安は良さそうだね。もっと寂れてるかと思ってた。」
 「確かに昔よかまともな気がするが…商人の出入りが激しいのが気になるな。違法取引なんてヨルダンじゃ当たり前だったし悪習慣はまだ治ってないのかもな。」
 「ヨルダンってそんな荒れてるのか…。」




 タサファンが言うに、まだ彼が暮らしていた時…それこそ後継者争いが始まる直前は大いに荒れていたそうだ。一部王家もそうだが多くの貴族すら暗黙の了解で密輸や奴隷を飼っていたらしい。

 幼かったタサファンはそれが当たり前であったが、他国に留学をしたことがきっかけで自身の国の異様さに気づいてしまったのだという。

 マーニアムが過去、俺に言ったのはヨルダンは後継者争いで国が荒れているから下手をすれば俺も奴隷になっていた可能性があるから気をつけろ、と言う意味もあったのだろうと今更ながらに思う。

 まぁね、俺って自分で言うのもあれだけど顔立ちは悪くないし。珍しくもない灰色の髪だけど、そんなの奴隷商人からしたら気になる点ではないだろうし。幼い子供の使いみちなんて……想像したくはないなぁ。




 「なんだって今更、俺を呼び出すかね国王様はよ…。」
 「……タサファンってまさかとは思うけど、王族の血筋だったり?」
 「まぁ、少しばかりは入っている。親が陛下とはとこなんだわ。国に忠誠を誓う王族派と商人の真似事をしている貴族派がすげー仲悪くてな。次第に貴族派が過激になってきて歯止めが効かなくなってきて国が荒れ始めたんだよ。」
 「それが後継者争いのはじまり?」
 「きっかけは王太子の怪死だ。」
 「かいし?」
 「王太子リアンドロの突然死だ。毒殺も疑われたが毒の検出はされず、しかし大病を患っていたわけでもないのにポックリ行くはずないと王族派が貴族派に犯人がいるんじゃないかと荒れたのが原因だ。元々過激な面があった貴族派がこれにキレて内戦まで発展したんだよ。」
 「なるほどねぇ…。」
 「しかも王太子を産んだ王妃の家系は王族派だが、第四王子を産んだ側妃は貴族派寄りの一家だ。揉めないわけがない…。」
    「あぁ~……。」




 そりゃ揉めますね…。タサファンの話を聞いて俺は唸る。小難しい話じゃなくてよかったけど、そこまで王族を巻き込んで喧嘩をしている状況を知ってなんとも言えなくなる。

 王太子であったリアンドロの存在を消してしまいたかった誰かの犯行なのか、本当にただポックリと逝ってしまっただけなのかは未だ不明らしい。残念ながら王族派と貴族派の争いを牽制できる人がいなかった為に内戦までして後継者争いをした訳だが…。




 「結果、なーんにも進展せずに国だけが痛手を負ったわけだ。」
 「そういう事だな。呆れるぜ。」
 「それじゃあ、なんでタサファンをわざわざ呼び出すの?もう絶縁してるんでしょ?」
 「少しでも味方がほしいんじゃねぇかな…昔から王家に忠誠を誓っている王族派の代表なんだわ。一応位も高いし。」
 「……一度さ、タサファンの家族の話も聞いときたいんだけど、話せる?」
 「まぁ、……ここまで来たら話したほうがいいよな?アルはともかく、エルダは俺を捨てないでくれよ?」



 
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