上 下
77 / 103
そして出会う俺とお前

9

しおりを挟む




 「では3日後にギルドで。」
 「は~い…。」
 「なに、その気の抜ける声は。」
 「だってやる気ないもん…。」
 「もん、じゃない!アル!お前もう26歳なんだぞ!?そのような返事をするんじゃない!全く、子供みたいに不貞腐れて…。」
 「あ~っ!本当に嫌なんだもん!皆一緒にいてくれるって言うけど、それでも嫌なものは嫌なんだーっ!」



 ギルドの任務を熟した後、受付にいたマルさんに声をかけられ予定が確定したと話された。確定したらお貴族様の訪問ラッシュも一時的に収まってギルドマスターは大喜びだそうだ。俺は残念だけど!

 マルさんは今日は午後はお休みらしく、少し酒場で呑んでいかないかと声をかけられ、現在、手にエールを抱えて俺は不貞腐れているのだった。

 ギルドの横にある酒場でエールを流し込みながら駄々を捏ねるように言う俺にマルさんは叱る。……そうだ、俺もう26歳だった!俺まだ自分が18歳くらいの感覚だったわ…。




 「しかし、毎日のようにアルを求めて通う公爵様方には脱帽だよ。あんなに必死な姿を見続けていると尊敬の念すら湧くよ。」
 「…………。」
 「君から聞いていた様子とは全く違う。反省しているんじゃないかな。」
 「反省?あいつらが?ないない!」
 「必死に謝りたいんだと毎日言っては悔しそうな顔をして帰っていたよ。本当に反省してないと、思う?」
 「……正直、わからない。」
 「話し合ってみることは、とても大切なことだよ?君は変なところで頑固だから、はじめは納得できないかもしれないけどね。」



 マルさんはそう言うと手元にあったエールを飲んだ。暫く無言でいればテーブルに料理が運ばれ、軽く摘みながら頭の中を整理する。

 俺以外の人間が、あいつらの味方みたいに思えて嫌な気持ちになった。いや、これはただの俺の勘違いだとわかっている。捻くれた考えになってしまうのは長くあいつらを恨んできたせいだ。

 ……ロンバウトの考えていることは理解できない。あの兄弟達が何故今更になって俺に関わろうとするのかも。思い出すだけで虫唾が走るくらいには嫌悪している対象を、今更理解できると思うか?




 「そう難しい顔をしていても理解はできないよ?本当に君は昔から変わらないね。」
 「ん?そうかな?」
 「幼い君と出会ってから、今まで見てきた君は体こそ成長したけど内面は変わらない。なにもかもに興味がないような態度はクールを気取ってるのかと思ったけどさ。ハクア様と出会ってからは少し自分以外にも目を向けるようにはなったけど。そこがまた可愛いとは思うけどね。」
 「それ、褒めてないでしょ。」
 「どう思うかはアル次第だね。」




 出会った時からずっと優しいマルさん。前世から転移した時から、俺は全然成長していなかったのかとマルさんの言葉で自覚した。

 確かに、俺はどこかこの26年暮らした世界はリアルを感じていなかったのかもしれない。痛みを感じても、怒りや悲しみを感じてもどこか現実味がないのは、生きている自覚が薄いせいだ。

 ふと、手に持っていたエールのグラスが前世のビール中ジョッキと重なる。指先に冷たい感覚が辺り、妙にそれが何よりもリアルに感じた。

 ヤバイ…こんな状態で自覚なんてしたくなかった。俺、そうかちゃんと生きてるんだ。他の人も生きてるんだから感情くらい、あるよな…。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

俺は見事に転生した。天才である俺は前世では魔法を極めた。今世では人間を極める。

朝山みどり
BL
寒さで気づいた。俺、なんでこんなところで・・・・思い出した。俺、転生するぞって張り切って・・・発動させたんだ。そして最後の瞬間に転生って一度死ぬんじゃんと気づいたんだ。 しまった、早まった。ラムに叱られる・・・・俺は未練たっぷりで死んだんだ。そりゃ転生する自信はあったけど・・・・それに転生して自覚持つのがおそかったせいで、こいつを辛い目に合わせた。いや自分でもあるし、心の平和の為にきちんと復讐もするよ。ちゃんとするよ。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

処理中です...