実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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俺は冒険者として生きている

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 あの怪我を負って1ヶ月後と少しで俺は自由に歩けるまでに回復した。保護者達が煩いのでかなり行動範囲が狭いが、それでも抱きかかえて歩かれるような生活から解放されて俺は満足している。

 家にはたまにマルさんやタサファンとエルダ夫婦が遊びに来てくれるのでそんなに暇をしていない。時間が空いたら本を読んだりしてそれなりに充実した生活を送れている。

 まだ頭の包帯は取れないのだけが気がかりではあるが、まぁそのうち治るだろうと考えている。ここが一番酷いとはいえ、1ヶ月後も包帯が取れないとは思わなかったな。




 「アルディウス、外を眺めてどうかしたのか?」
 「ん~、いや?なにも?天気が良いから散歩でもしようかと思って。」
 「では我も共に行こう。大通りまで行ってみるか?」
 「ひと目が気になるから裏から森まで行こうか。あっちに湖あるし、そこで昼飯食ってもいいんじゃない?」
 「では弁当を拵えるとしよう。」
 「そんな大層な弁当にしなくていいよ…サンドイッチとかにしよ?」



 ハクアが上機嫌でキッチンに向かうのを眺め、そういやここ最近は自分でご飯を作っていないなと気づく。元は日本人である俺は醤油が大好きだ。

 焼きおにぎり、すき焼き、肉じゃが…刺身だって食べちゃうんだから!浄化魔法かけて綺麗にしてからね。流石にワサビがないのが残念だけど。

 ハクア達が作るご飯も嫌いじゃないけど、やっぱ西洋寄り。あの香ばしい醤油の焼けた匂いを思い出すと自分のお腹が鳴った。

 俺はハクアを追いかけてキッチンに向かうと割烹着を着たハクアと出会う。お前それチョイスするの…?



 「これは便利で良いな。」
 「他にも普通なエプロンあったでしょうに…。」
 「しかし袖も腰回りも濡れることから守ってくれるのだぞ?」
 「まぁ便利ではあるけど…気に入ったならいいよ。」
 「してアルディウス、キッチンにまで来てどうしたのだ。部屋で休んで良いのだぞ?」
 「久しぶりに俺が作りたい。故郷の味を思い出したら食べたくなった。」
 「ほぉ、アルディウスの故郷とな?」
 「故郷と言っても前世のな。」



 俺がそう言うと、興味があるのかハクアの尻尾がゆらりと視界に映る。前世から独身貫き通して自炊はほぼ完璧なのだ。最近は保護者達がやってくれててサボり気味だが、嫌いじゃないんだなぁ。

 そそくさといつも俺が使っている青のエプロンを着けてハクアと一緒にキッチンに立つ。どうやらキッチンに立つことは許されたようだ。

 最近の保護者達は俺が走れば力任せに止めるし、風呂には一人で入れないし、なんならトイレまでついてこようとする輩もいる。こうやって自分で行動できるのは実に楽しいのだ。



 「弁当にするからおにぎりと唐揚げ、玉子焼きと…そうだな、チョリソーがあるからピーマンと炒めるか。ハンバーグもいいなぁ、甘いソースでひたひたにしたカツも捨てがたい…。」
 「聞き慣れぬ言葉があるな。想像も出来ぬが…。」
 「まぁ、不味くはないよ?俺しか食べたことないけど。食べさせる相手もいなかったし。」
 「ふむ、では期待して待とう。我も手伝うことはあるか?」
 「じゃあ鶏肉を一口大に切って。あと、豚肉と牛肉凄く細かくして合えてくれる?それ終わったらパン細かくして、あとは…。」



 
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