実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら

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俺は冒険者として生きている

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 「なんか疲れてんなアル。大丈夫か?」
 「あー、んー…大丈夫。気疲れだから。」
 「まぁ無理はすんな、お前今回前線だろ?無理して大怪我なんて洒落にならんだろうに。」
 「タサファンがそんなに俺のこと心配なんかするなんて……こりゃ槍が降るかもな。」
 「お前なぁ!」



 なんとか集会の時間までには間に合い、大きなため息をついていればタサファンに声をかけられた。余程疲れた顔をしていたようただ。集会が終われば午後には直ぐに戦地に向かうことになるのに、気を引き締めなければ。

 集会はそれぞれの配置について事細かく決められた。まぁイレギュラーさえなければた問題はないだろう。

 ヨルダンの国は魔境の大森林に面した小国だが大森林ギルドとある契約をしている。それは定期的な大型規模の魔獣討伐である。どうやらヨルダン付近の森の中にはダンジョンがあるようで、時たまそこで生まれた魔獣が漏れ出すそうな。

 そのダンジョンはまだ攻略されていない。かなり攻略が難しいらしくここ数年は誰も挑戦してない。俺もいつかチャレンジしたいと思っていている。

 ってな訳で、そのダンジョンは定期的にヨルダンの探索者が様子を見て警戒をしている。そして増え始めた魔獣を討伐するためにギルドに冒険者派遣の依頼をしてくるのだ。

 今回もその一環で、上位の冒険者数人と数百人の下位冒険者が集められたわけである。



 「心配いらないって。本当にただの気疲れだから。」
 「まぁ…お前がそう言うなら大丈夫なんだろうが、無理はすんなよ?」
 「はいはい、じゃあ俺は先に行くからな。またなタサファン。」
 「おう。」



 タサファンとは配置された場所が違うので俺は別れを告げてその場を離れる。早々に最前線にある簡易的な野営場へと向かう。

 俺がこんなにも疲れている原因であるコクヨウは両頬を真っ赤にしたまま不貞腐れて森に帰っている。コハクが目一杯引っぱたいたせいでかなり腫れていた気がする。

 コクヨウもそうだが面白がっていたハクアにも文句を言ってお帰り頂いた。コハクにだけはお礼を言って頭を撫でてやると嬉しそうにニマニマしていた…ちょっと気持ち悪い。




 「……さて、久しぶりの最前線。気合い入れて頑張るかなぁ。」
 「あれ?アルさんだ。お久しぶりじゃないですか!」
 「ん?……あぁ、ルチスか。」
 「全然ヨルダンの街に顔を出してくれなくて僕、寂しかったんですよー!」
 「ヨルダンに行く理由がなかったからね。ルチス、元気そうで何よりだ。」



 俺よりもだいふ小さな身長の男の子が俺に飛びついてくる。ヨルダンのギルドで働くルチスである。人懐っこい笑顔が可愛い、弟のような子である。

 オレンジのショートカットヘアに色素の薄い茶色の目は大きい。見た目に反して仕事は出来る優秀なΩである。



 「ルチスはこんなとこでなにをやってんの?」
 「僕は最前線の野営地の補佐役です。」
 「危ないのに頑張るねぇ。怪我とかしないように気をつけなよ?」
 「へへへ、何かあったらアルさんに助けてもらうんで大丈夫です!」
 「こら、出来るだけ助けるけど甘い考えで参加しないの。万が一が起こったらどうするの?」
 「討伐が始まる前には後方に下がりますよ。野営地に残るのはベテランの冒険者さん達だけです。心配いりません。」




 にっこりと笑うルチスは嬉しそうにはしゃぐ。心配してるのに全く…。俺は苦笑いするのだった。


 
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