頭のおかしい彼氏から逃げたい

るるらら

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安全とは言えないだろう

2 現実は違うと気づく

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 「……それで?お前この後どうすんの。」
 「どうって?」
 「あの女も納得してなさそうだったろ。」
 「なんとでもなるよ。ちゃんと話もするし、お世話するのは俺の役目だもん。お前は彼女に関わらなくていいからもう勝手に家に入ってこないでね。」
 「ひょんな拍子に監禁しそうでこっちは怖いんだよ…関係者として今後に何かあったとき俺にまで害がくんだよ!責任取ってくれんのか?」
 「共倒れにはならないようにはするさ。まぁ、抜かりはない…もう手は打ってあるし!」
 「……。」


 探偵と近くの喫茶店で今後について話をしているが、不満そうな顔でこっちを伺ってくる。何をそんな不安に感じてるのか知らないけど、まぁ長い付き合いだし思うところがあるんだろう。心当たりがないとも言えないし、興奮しないように気を付けないとね。歯止めが利かなくなったときは警察の知り合いの伝手を使ってうまいこと誤魔化さないと。

 頭の中でいろいろと考えているとこめかみを押さえた探偵が何か言いたげにこちらを睨んでいる。口元には煙草を咥えて納得がいってないと言わんばかりに歪ませている。職業柄か不安要素が一つでもあると、すぐにこうやって問い詰められる。面倒だが仕方がない。こいつの妙な感は当たるから邪険にはできないな。

 不貞腐れた探偵には悪いが、俺にも譲れないことがある。飛鳥ちゃんをこの手で守れないならば、俺がここまで頑張ってきた意味がない。飛鳥ちゃんに許してもらう為だけに頑張ってきたわけじゃない、守る為にも必要なことは全部してきた。

 探偵だけではない。俺が信用する人間を根こそぎ総動員して今に至るのだ。不安要素があるとするならば、飛鳥ちゃんが俺を許してくれるかどうか、それだけだ。


 「………焦りすぎじゃないのか。」
 「そう見える?」
 「焦って相手を追い詰めてるようにしか見えないんだよ。」
 「……………。」
 「自覚あるんだろ?」
 「……まぁ。」


 なんとなく自覚していたことを突っ込まれて返す言葉が見当たらない。少し冷静になって考えると、やはり常人には俺がやろうとしていることは犯罪まがいだ。

 だが、止められないのだ。また彼女が、俺以外の人間に関わることに異様なほど嫌悪してしまう。それが男ならなおさら。独占欲と言う言葉では収められない執着心を制御出来ずにいることを、この男はよく分かっていた。

 あの強姦未遂事件をキッカケに完全にガタが外れてしまった。探偵が言っているように焦っているのは、事実だ。


 「今日はもう帰る……。」
 「あまり追い詰めてやるなよ。あの女はお前や俺と違う。わかるよな?」
 「わかってるよ、それくらい…。」
 「じゃあ大人しくしてろ。」

 探偵はそれだけ言って喫茶店を出ていった。他にも仕事があるのだろう。あれは中々見た目以外は影で人気のある探偵だ。俺以外にも仕事相手がいるのは間違いない。

 ちゃっかり支払いをせずに帰っていった探偵には後で文句を言うとして、さて俺はこれからどうしようかと悩む。焦っている自覚はあるし、確かに話し合いもちゃんとしないと信用なんてしてくれない。俺の感情で飛鳥ちゃんを抑えつけてはいけない。そんなことすれば嫌われてしまうことくらい、俺でもわかる。

 さて、ではどうやってこの感情を制御するべきか……。自分の目の前にある冷めたコーヒーを眺めながら考える。一時期は病院でカウンセリングと薬を貰ったが、一時凌ぎにしかならなかったので行くのは辞めてしまったし、気を紛らわせる為にジムに通いつめたが、いらん女が関わってくるのでキレそうだったな…。こちらにはいろんな手段があるので社会的に抹殺するのは簡単だったが、面倒で仕方がなかった。

 嫌なことを思い出してしまったな…。大きなため息が出るのも仕方がない。探偵が去ってからの喫茶店は静かだが視線を集める。気分が悪くなるな…少し離れた席から女の視線が自分に向いていることに気づいて乱暴に席を立ってレジに向かった。

 俺がここまで見た目を整えたのはモテたいからじゃない。飛鳥ちゃん以外の女なんてどうでもいいんだ。


 「…飛鳥ちゃん、今やってるんだろうなぁ…。」


 会計を済ませて外に出ると、夕暮れだった。意外と長い時間を喫茶店で過ごしていたらしい。帰りにスーパーに寄って晩御飯の用意しよう。飛鳥ちゃんには美味しいものを食べて欲しいから高いお肉買っちゃおうかな。そんなことを考えながら暗くなる道のりを進んでいく。スーパーに着く頃にはもう辺りは薄暗くなっていた。

 そういえば飛鳥ちゃんはアイスが好きでよく食べてたな。シャーベットが好きで冷凍庫にストックしているのを覚えている。ついでに買って帰ろうとスーパーに入って目当てのものを買ってマンションに帰る。玄関を開けると電気がついていたので、どうやら飛鳥ちゃんは寝室ではなくリビングにいたようだ。


 「ただいま、帰ったよ飛鳥ちゃん。」
 「あ、うん……おかえり。」


 リビングに入れば飛鳥ちゃんがソファに丸まって座っていた。ぼんやりとテレビを眺めていた視線をこちらに向けた。

 おかえり、なんて声が帰ってくるなんて思わなくて思わず体が固まる。ただ、これだけでこんなにも嬉しい。……この幸せを最初に手放したのは俺だ。嬉しい反面、この時になって自分の仕出かしたことに愕然とした。

 飛鳥ちゃんの表情には笑顔なんてなくて、あの時と全く違う表情で俺を見てる。そんな現実を、俺は受け入れられそうになかった。



 
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