頭のおかしい彼氏から逃げたい

るるらら

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平等ではないだろう

2 狂いたくないのに

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 元気のなくなった飛鳥ちゃんをベッドの中に押し込んで俺は大きなため息を吐き出した。俺だって飛鳥ちゃんを自由にしてあげたいけど、どうしたって離れて行ってしまうことを想像するだけで体が勝手に彼女を拘束しようとする。

 勝手に声が彼女を引き留めて今度は恐怖で縛ろうとする。こんなの普通じゃないと今の俺は理解できているのに。リビングで飛鳥ちゃんが座っていた椅子に縋りついてなんとか平常心を取り戻そうと深く深呼吸した。

 何するかわからない。そういった言葉に嘘はない。冷静でいられなくなった俺はきっと物理的に飛鳥ちゃんを拘束してしまう。それに興奮もするし、泣いた彼女をさらに泣かすだろう。一時の感情で全てを壊しかねない恐怖は、飛鳥ちゃんに直接会ってから大きく膨らんだのが分かった。元同僚が言ったことが今になってよくわかる、俺はおかしい。

 飛鳥ちゃんと離れて寂しくなってしまって、彼女のいる部屋に飛び込みたいのを一生懸命我慢。俺は気を紛らわすために自分の仕事をすることにした。パソコンを開いて黙々と仕事をしていれば、来客を知らせるインターフォンが鳴る。確認するとそれは探偵で、こんな朝早くにくるなんて思わず渋い顔になってしまった。

 彼には情報集以外にも、俺個人の仕事を何件か頼んでいるから打ち合わせをすることも多い。遠慮のない金の亡者は俺の弱みを見つけたと言わんばかりにニタニタと笑うことが多くなって気に入らない。だが、俺も仕事をして金を手に入れなければいけない。ビジネスパートナーとしては彼は有能なのだ。部屋の中に彼を入れれば、さっそくと言わんばかりに金の話が始まる。

 暫く彼と仕事の話をしていれば、飛鳥ちゃんが寝ていた部屋から彼女が困ったように出てきた。何か困ったことでもあっただろうか?様子を伺えば、彼女は探偵を見て驚いた顔をした。そうか、来客があるなんて話してなかったもんね、驚かせてしまった。


 「ごめんね伝え忘れちゃった。彼は俺の仕事仲間だ。存在は気にしなくて大丈夫、すぐに帰るからね。」
 「おい、勝手なことをいうな。まだまだ話すことあんだよ。…女、もう暫くいるが気にしなくていいからな。」
 「飛鳥ちゃんのこと女って言わないでって言ったじゃん!ほんともうブッころ…いや、失礼だからね?女って呼ばないで…。」
 「じゃあ飛鳥な。」
 「おまっ…!!ほんと帰れ!帰れ帰れ!!」


 探偵をバンバン叩いて帰らせようとしても全く帰る素振りを見せない彼を、本当にぶっ殺してやろうかと思ったが飛鳥ちゃんにそんな物騒な姿を見られたくないので我慢するしかない。頭の血管がはち切れそうになったので一度キッチンに避難して冷静になろうと冷たい水を一気に飲みこんだ。

 キッチンから戻ると飛鳥ちゃんがソファに座って探偵と何か話していた。余計なことを言ってはいないだろうなときつく探偵を睨めば、喉の奥で笑ってこちらの様子を伺っていた。特に飛鳥ちゃんからは睨まれるようなことはなくて安心はしたが、この男と一緒にいさせるのは不安だ。早く追い出してしまおう。


 「飛鳥ちゃんと話してないでさっさと帰ってくれる?」
 「そう苛立つなよ大人気ない。まだお前との話は終わってねぇからな。昼飯食ったら続きする。」
 「ちっ……飛鳥ちゃんはどうしたの?喉でも乾いちゃった?」


 飛鳥ちゃんは何も答えないでジッとこちらを見つめた後に、視線を探偵に向けた。俺が一瞬離れた隙に変なこと吹き込まれたのだろうか?

 瞳が揺れていて、飛鳥ちゃんがかなり動揺しているのがわかる。相変わらず顔色も悪いからまだゆっくりと休んでほしいのに。


 「あの……貴方は、…、その……。」
 「まぁ後で話そうぜ?今はほんと大人しくしといたほうがいい。アンタを襲ったあの大学生…中々いい家のガキだ。ちょっと俺の仕事も長引きそうだからな。」
 「それって……どういう……。」
 「はいはい、この話はまた後でな。今は先に片付けたい仕事あっから。」


 探偵はニマニマと気色の悪い顔でそう言うと話は終わりと言わんばかりに俺と仕事の話をするべく体をこちらに向けた。飛鳥ちゃんは納得していない表情だが、引き下がったのかその場で大人しくしている。

 リビングに居続けるつもりかな?別にいいけど、探偵がいる空間にいて欲しくないんだよなぁ。この金の亡者になにを吹き込まれるかわからないし。

 とにかくこの男を早く帰らせるためには仕事の話をさっさと終わらせるしかない。渋々だが探偵に向き合って仕事の話するか。


 「あ、あの…貴方の名前を聞いてもいいですか?」
 「ん?そういやまだ名乗ってなかったか?俺はこいつの仕事仲間で、阿部 凛太郎あべ りんたろうだ。」
 「あべさん……。」


 名前聞く必要あった?こいつと絡ませるつもり全くないんだけど。飛鳥ちゃんはそれっきり何も言わずに何か考え込んでいるようだったので、オレンジジュースを用意して差し出した。

 背後から探偵が俺はコーヒーな、と言ったような気がしたが無視。俺の飛鳥ちゃんと仲良くさせるつもり全くないからね!ほんと早く帰ってよ!お願いだから!


 
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