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平等ではないだろう
1 重たい平日
しおりを挟む前の会社で働いていた時の後輩にうなされる夢を見た。見つかっちゃったなら、もう逃げられないよ?そいつはもう絶対に逃がしてはくれないよ?なんて強張った顔でずっと私の腕を握って訴えていた。なんであんたがそんな必死に私に言うのかわからなくて、私は何も言えなかった。後輩とは連絡なんて取ってないのになんでこのタイミングで彼女が私の前に現れたのかがわからない。
思い当たるとすれば、やっぱり俊樹と出会ってしまったからだろうか。もう忘れてしまいたい対象に縋られて過去を思い出してしまっただけだと思いたかった。だから、早く彼から離れてしまいたかった。俊樹が話した内容がどこまで本当なのかわからない疑心暗鬼にすっかり私の頭は混乱していた。勿論許すつもりなんてこれっぽっちもない。私は俊樹が大嫌いだ。
夢の中の後輩は強張った顔のまま固まっていたが、不意に顔を恐怖に染めたと思ったら目の前から姿を消した。なんだったんだろうと、ぼんやりしていれば一瞬のうちに私は逞しい腕に囚われていることに気づいた。懐かしい感覚だと思った。それと同時にゾッと鳥肌が立ったのが分かった。これは……、
「うわあーーーーっ!」
飛び起きた。ホラーだった。寝汗びっしょりだった。呼吸が荒くて自分が平常心ではないことに気づいて必死に呼吸を整えていると、ガンッ!ガラガラッ!なんて何かが崩れ落ちる音が響いた。それに驚いて音のなったほうを見て気が付いた。見慣れない白い壁に、スプリングの効いたベッドの上にいること。そして思い出した。昨日の出来事を。
そうだ、昨日はお花見した帰りに居酒屋さんの常連に強姦されかけたのを俊樹に助けてもらったんだ。でも、そこから何故か高級マンションに連れてこられて言い争って…気絶した。酷く自分が興奮していたことを思い出して恥ずかしくなった。怒っていたのは事実だけど、いい大人があんな子供みたいな暴れ方して…。そう後悔をしていれば部屋のドアが勢いよく開いて肩を揺らした。
「飛鳥ちゃん!?どうしたの大丈夫!?」
「あっ…だ、大丈夫…。」
「顔色が良くないね、もう少し休んでで?ご飯食べれる?無理はしないでね?」
「そんな世話になるつもりはな「ダメ!まだ横になって休んで!」
俊樹がなんか変なエプロンつけて勢いよく部屋に入ってきた。なにその深海魚の顔がついたエプロン。そんなのどこで売ってんのよ。それしか情報が頭に入ってこなかったけど、焦った顔をして入ってきた俊樹を見て夢の内容が一気に脳裏に張り付いた。最悪な夢だった…ここ最近で一番だって言えるくらいは。
まさかとは思いたくないが、正夢にはならないよね?久しぶりに嫌いな男と出会ってしまって勝手に混乱して変な夢を見てしまっただけなんだ、きっと…!こんなところにいられない、朝食なんていらないからさっさとこのマンションから出ていこうと声を出したら、それに被せるように俊樹の声で上塗りされた。
驚いて体を固くしたら、心配したように近寄ってきた俊樹に無理矢理またベッドの中に押し込まれた。有無を言わさない圧ですっかり反撃の気を無くしてしまった私は、どうすることも出来ずに悶々とするしか出来なかった。暫くすると、俊樹がまた部屋に入ってきて着替えを用意してくれて、お風呂場に案内してくれた。大きな洗面所に驚きながらも、確かに昨日はお風呂に入っていなかったなと思い、ここは有難く湯をいただくことにした。
……しかし、何故女性ものの下着があるのか。それも私の着ているサイズピッタリなのを用意できたのか恐怖である。前よりサイズダウンしたはずのブラを何故…怖いでも着るもの無いから着るしかない。自前の下着はいつの間にか洗濯機の中で救出は出来なくなっていた。やめてよ…。
私がお風呂から出るとリビングにはお粥が準備されていた。体調不良なけではないと俊樹に言っても信じてもらえなくて仕方なくそれを食べた。昨日の夜から何も食べてなかったから空腹に負けてしまった自分が恥ずかしい。早く帰りたい。
「帰らせないよ。」
「なんでよ?」
「犯人が捕まるまでは危ないから。ここはオートロックもしっかりしてるし、飛鳥ちゃんの自宅の住所を犯人が知らないとは限らないからね。」
「でも、仕事…。」
「それも暫くお休み。ダメ、危険な状況なのわかってるでしょ?昨日のうちに俺の知り合いに手配してもらってその準備はしてるから。」
「ちょっと!勝手にそんなことしないでよ!俊樹には関係ないでしょ、私の問題なんだから!」
「飛鳥ちゃんの身に危険が迫ってるなら俺は絶対に引かない。飛鳥ちゃんが嫌だと言っても絶対に帰さないから。……お店と事務所から連絡来ると思うから何日休むか相談してね。それまではここから出さないから。」
「そんなの監禁じゃん!なんで俊樹が決めるのよ!やだ、帰してよ!」
「帰さない、お願いだから俺を興奮させないで。何するかわからないから。」
真っすぐこちらを見て言う俊樹の目に光が入らない。何するかわからないってなによ…怖いから変なこと言わないでほしい。今の俊樹が普通の状態じゃないってのはなんとなくわかる。ここで煽っったら大変なことになりそうで、大人しく黙るしかなかった。元々思考回路がおかしいとは思ったけど、まさかここまで…。
すっかり食欲がなくなってしまった。お粥は俊樹が片付けて、またベッドに押し込まれた。相変わらず携帯電話は帰してくれないから仕事場と連絡の取りようがない。まさか、本当にこのまま監禁なんてされないでしょうね!自分がこれから、どうなってしまうのかわからなくて少し泣きそうになってしまった。こんなの俊樹だって犯罪者じゃん…!
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