頭のおかしい彼氏から逃げたい

るるらら

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ハッピーエンドではないだろう

2 俺は君のもの

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 飛鳥ちゃんが俺の話を聞いてくれるって。嬉しい、嬉しい!!怒りを混ぜたような困った顔、可愛い。久しぶりに生で見た飛鳥ちゃんは相変わらず舐め回したいくらいに可愛い。これは比喩ではない。俺の本心である。そんなことしたら嫌われるのわかってるから我慢するけど、本当は今すぐにでも俺の側にずっと繋げておきたい。この一つに固執した独占欲は、俺の自我が形成されるにつれてそれが歪んてしまっている自覚はあった。しかし、興奮するとせっかく自覚した歪んだ感情を振り切って暴走してしまう。飛鳥ちゃんからの愛を独占したいがための承認欲求はガタを外れて浮気という最悪な方向に走ってしまった。

 仕方ないとばかりにソファへ座った飛鳥ちゃんの足に縋ってしまうのは、ここに飛鳥ちゃんがいる実感を味わいたいのと、逃げてしまわないように繋ぎとめるためだ。もう絶対に逃がすわけにいかないと、焦る気持ちを抑えて飛鳥ちゃんの足元で正座。俺の目がまっすぐ彼女を見つめると、気まずそうに様子を伺っていた。目が会うだけで幸せ。


 「ちょっと、足から離れてくれない?」
 「嫌です。」
 「即答しないでソファに座ってよ気持ち悪い…。」


 そう言われてしまっては仕方がない。飛鳥ちゃんの座ってるソファに座る。ギョッとした顔で距離を取ろうとした飛鳥ちゃんの手を掴んで離れていかないように繋ぎとめる。やだ、俺から離れないでよ…俺のそばで話を聞いて。隙間を埋めるように詰めよれば、彼女はのけ反って俺から離れようとしてくる。…こんな反応をするのは過去の俺のせいだってわかってる。俺は抱き着きたいのをグッと堪えて、飛鳥ちゃんの目を見て話し始める。

 言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど、誤解だけは解かないと。嫌われたまま生きるのは辛すぎるんだ、俺の心が持たない。またガタが外れて無意識に暴走しないなんて言いきれない。サイコパス診断の結果で俺がちょっとおかしいのは自覚しているからこそ、今回のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。暴走しそうになる思考を頑張って落ち着かせて俺はしっかりと飛鳥ちゃんを見据える。


 「俺、ね…俺……、悪いことしてしまった自覚がなくて、飛鳥ちゃんに愛されてるって実感する方法に浮気って手段使ってた。飛鳥ちゃんがいつも許してくれてると思ってたから、どんどん調子に乗ってしまって。だから、飛鳥ちゃんがあんなに怒ってても許してくれると思ってた。でも、俺甘えてたんだ。あの会社の同僚にも説教されて、お前は同じことして許せんのか!って…。」
 「……なにその言い訳。馬鹿にしてんの?」
 「ごめんなさい…。実際見せつけたし…本当に糞みたいなことしてました、ごめんなさい…。でも、でもでも!これだけは言いたい!俺、見せつけるだけで体の関係はなかったから!本当に!」
 「いや余計にタチ悪いから!ほかの女の子にも同情するわ!!思わせぶりで引っ搔き回してたってことだよね、サイテーだ!死んでくれ!」
 「俺、最低な奴でした、認めます。だから、一生かけて償いたいんです。お願いします、俺にチャンスをくれませんか?」
 「あるわけないでしょ!あんなコケにしてきた相手を信じろってのがおかしいもん!」


 捲し立てるように飛鳥ちゃんは言うと顔を真っ赤にして立ち上がった。怒りで息が荒くなって興奮している彼女を必死に俺は引き留めた。暴れる彼女に何度も何度も謝って、落ち着くのを待った。俺と違ってか弱い飛鳥ちゃんの体力は少ないから根気よく付き合ってれば、どんどん力が無くなっていった。あんなことがあってもう体も限界だろう。そんな彼女を追い詰めたくはなかったけど、今は家に送るわけにはいかない。まだあの犯罪者が捕まっていないのだ。

 飛鳥ちゃんから微かに嗚咽が聞こえた。あぁ、俺…泣かせることしか今は出来ないんだと思った。でも、どんなに嫌われたって諦めきれない。どんなことをしたって彼女を我が手に抱え込んでいないと狂ってしまう。ずっと前から狂ってしまっている俺は飛鳥ちゃんを逃がしてあげられない。


 「お願い…君を護らせて。まだあの男捕まってないから、ここにいて。」
 「アンタに、護られたくない…!」
 「うん、そうだよね、ごめん。でもこれだけは譲れないんだ。もう休もう?部屋に案内する。」


 準備していた部屋に飛鳥ちゃんを連れて行くと、もう体力的にも精神的にも限界だったのか気を失うようにして倒れてしまった。こんなに追い込んでしまった一人として罪悪感に頭がおかしくなってしまいそうだが、俺は変わったんだ、こんなことでへこたれている場合ではない。

 俺が飛鳥ちゃんを寝かせてからリビングに戻ると、勝手に探偵がコーヒーをいれて寛いでいた。この男、オートロックのマンションにどうやって入り込んだんだ?マンション入る前に別れたはずなのに。飛鳥ちゃんを起こしたくないから大声は出さないけど、もう夜中になるこの時間に何の用だ。


 「警察に情報を提供しておいた。すぐあの男はムショに入るだろうな。依頼対象の女の仕事場にも連絡はしておいたぞ。しばらく休みをもぎ取った。」
 「はい、追加報酬。何日くらい休みくれるって?」
 「それは女と相談するらしい。明日には女に連絡来るだろう。…監禁なんてこと考えてんじゃないだろうな。俺は犯罪者になりたくねぇぞ。」
 「半分犯罪者みたいなやつに言われたくないんですけど!あと飛鳥ちゃんのこと女って呼ばないで。気に食わないから。」
 「じゃあ飛鳥って呼ぶか?」
 「お前ほんとぶっ殺すよ?」


 探偵はニマニマとするだけで言葉を返すことはなかった。くそぅ…追加報酬の件は無かったことにしてもいいかもしれない。

 
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