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危険が迫っている
2 それは俺のだぞ
しおりを挟む俺は会社を辞めた…いや、首になったが正しいか。退職金は雀の涙くらい出してくれただけ感謝して、早々に俺は飛鳥ちゃんを捜すことに専念した。会社から去るまでに沢山の女に囲われて、私じゃダメなの?あの女より可愛いでしょ?なんて近寄ってきたのは予想外。本来、こいつらは俺の欲求を満たすだけの道具のようなもので、実際は体を繋げたことはない。ホテルでは睡眠薬の入った水を飲ませていたし、行為の直前にはあたかも偶然仕事が入ったかのようにして逃げていたから。でも、成り行きでキスはしちゃったし女の家にも頻繁に出入りしたんだから浮気となんら変わらないな、と最近思った。
俺を滾々と怒った同僚に恥を忍んで自分のおかしい所を散々聞いた。確かに俺はサイコパスかもしれない。ネットの診断でも80%なんて数字出てきちゃったし…。会社を辞めてから数回会う機会を設けて、そこでいかに俺がクズなんだと説教された。
「浮気は不貞行為だ。検索して意味を調べろ。」
「普通はデートとかで愛を確かめるもんだ。変な思わせぶりは悪質だ。」
「お前に女が寄ってたかってんものお前のせい、自業自得。」
「決して許されることじゃないことを、新島さんにしたことマジで全身全霊で詫びろ。」
「お前がそんなんなら俺が新島さんと付き合ったのに…最悪だ…。」
……最後のほうはほとんど愚痴だった。飛鳥ちゃんは本当に可愛いから男性社員からの好意を向けられることが多かった。だから、俺は心配になって愛を確かめるなんて勝手に不安になってあんなことをしてしまった。許されることじゃないけど、どうしても、やっぱり飛鳥ちゃんと話がしたくって欲求不満で不眠症になった。寂しい。
仕事を辞めて暫くは株で生計を立ててとにかく資金を集めた。投資家としての才能があったのかそこまで苦労せずに俺に必要な金が入った。それでまずは馴染みの探偵を雇った。飛鳥ちゃんの実家や交友関係を知るために何度も世話になった少し陰気な男がやっている探偵事務所。金さえ払えば汚い仕事についても聞き込みをやってくれる。探偵に飛鳥ちゃんの行方を調べさせている合間に、俺はせっせとまた資金を集めてた。金はいくらあっても問題ない。彼女を迎え入れるために妥協は絶対にしない!!
探偵に調べさせて3か月で飛鳥ちゃんの居場所が分かった。遠くの居酒屋でアルバイトをして生計を立てているそうだ。写真を撮ってきてもらっていたので、恐る恐るそれを見たら、眠れていないのかクマを作った顔で笑っている彼女が写っていた。飛鳥ちゃんも不眠症?おそろいだね!
すぐに会いに行きたかったけど、俺の準備が整っていないし格好悪い姿で迎えに行くのは嫌だったからその日からせっせと筋トレとメンズエステに通って自身を徹底的に磨き上げた。あの日から1年もすれば不眠症は多少改善されて顔色が良くなってきた。定期的に送られてくる飛鳥ちゃんの写真を俺の部屋に飾って幸せを感じている。不動産経営も初めて小さな会社を作った。これで生活面は問題がなくなった。そろそろ迎えにいける!
時間に余裕が出来たから何度か飛鳥ちゃんの様子を見に行った。1年以上離れていたけど、相変わらず俺の飛鳥ちゃん可愛い!鼻血が出そうになるが我慢する。今すぐ目の前に飛び出して攫ってしまいたい衝動に駆られるが、それでは怖がらせてしまうだけだ。俺は学んだんだ、もう間違いは許されない。今はまだ時期じゃない。
それから数日して、探偵から連絡が入った。面倒そうな声で伝えられた内容に体中の血が凍ったような感覚になった。依頼対象にストーカーついたぞ、なんて。そんな簡単に言わないでくれないかな!俺の飛鳥ちゃんが危険に晒されてるなんて!助けにいかないと!俺は急いで飛鳥ちゃんが住む町に向かった。そこでマンションを借りて飛鳥ちゃんの為の避難場所を用意した。
探偵と落ち合って話を聞くと、ストーカーは居酒屋の常連だというではないか。すでに身分も住所も実家までもを把握済みだという。これは追加報酬出してやる、よくやった。俺はすぐに脅しをかけてでもストーカーを引きはがそうとしたのに、思いのほか奴の行動が早かった。
「絶対に許さん…地獄送りだ!」
その光景を見てしまってはもう限界だった。酔っぱらった飛鳥ちゃんを公園の茂みに引きずっていったのが見えた。流石にまずいと思った探偵は警察を呼んでいる。俺はそんなことよりも一刻を争う事態に体が反応して飛鳥ちゃんを押し倒す男を思い切り蹴り飛ばす。男は思ったよりも華奢な体格だったのであっさりと体は飛鳥ちゃんからは離れた。男は唸りながら立ち上がって逃げ出した。今は逃げても絶対に俺は逃がさないからな…!
憎しみを込めて男を睨んでいると、息苦しそうに飛鳥ちゃんが唸っていた。急いで口に貼られたガムテープを剥がすと、布まで詰められていて驚く。それを出して気づいた…これメンズ下着のパンツの切れ端では?……あああぁっ!絶対に許さん!怒りで頭が沸騰しそうになっていると、飛鳥ちゃんが咳き込んでいた。大丈夫だよ、背中を摩ってギュッとしたら、彼女は震えていた。
「なんで俊樹がいるの?」
「飛鳥ちゃんを助けに来たんだよ。体は痛くない?もう大丈夫だからね。」
「……。」
飛鳥ちゃんをまたギュッてしたら彼女の良い匂いがした。もう、これだけで幸せ。飛鳥ちゃんは俺のなんだから!迎えに来たよ、俺の大事なひと。
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