頭のおかしい彼氏から逃げたい

るるらら

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危険が迫っている

1 捕まってしまった

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 桜がヒラヒラと舞って辺りは綺麗な桃色の絨毯のようになっている。今日はバイト先(税理士事務所)のお花見である!あの忌まわしい出来事からもう1年半も経った。あの出来事がちょっとトラウマになって全然恋愛出来てないけど、毎日が楽しい。

 もう一つのバイト先の居酒屋に前もって注文していたお花見用のお重を持って場所を取っていてくれた由木先輩の方に向かう。バイト先の税理士事務所には現在5人所属していて、その中でも年の近い由木先輩とは仲が良い。

 由木先輩は黒髪が綺麗な美人さん(男だけど)で、いつも物腰柔らかくて優しい声で話してくれる。あっ、既婚者だから恋愛とかはないよ?奥さんも同じ税理士事務所で働いてるし。仕事仲間には、私が暫く恋愛したくない理由をそれとなく伝えてあるから問題ないはず。

 由木先輩の奥さんは私より年下だけど凄いしっかりとした利発的な子で、私と一緒に仕事をこなす事も多い。もちろん仲良しだ。



 「新島さんお疲れ様です。」
 「由木先輩達も場所取りお疲れ様でした。美和ちゃん(奥さん)も変なのに絡まれなかった?」
 「そんな心配しなくても大丈夫です!それにしても大きな重箱…すごいです。」
 「気合い入っちゃったみたい。」


 苦笑いをしながらお重を渡すと、感心したようにしげしげと眺めている。なんと可愛い反応をするのか、この子は。

 どうやら私が最後だったようで、じゃあお花見始めようかと先生が言う。それぞれが好きなアルコールを持って乾杯すると、たちまち賑やかになって場が明るくなった。

 最近は仕事も落ち着いているし、いい気分転換になって私の心は満足感でいっぱいである。気分が良くて缶チューハイの減りも早くなる。飲み過ぎないよう気をつけないと。

 お花見は平和に続いて、そろそろお開きにしようかと話をしていると、由木先輩が妙にソワソワしている。なにやら美和ちゃんと話しているが、この場に似合わないしかめっ面だ。何か問題あっただろうか?私の視線に気づいた美和ちゃんが、こっそりと耳打ちしてくる。内緒話かな?


 「なんか……新島さんずっと見られてます…。」
 「へ?なに?」
 「今はもうどっか行きましたけど、なんか黒パーカーの男…暫くこっち眺めてたみたいです。」
 「えっ、いや私とは限らないんじゃないかな?」
 「でも、旦那が新島さん移動する度に顔動いてたって…ヤバくないですか?」


 いや、それはヤバいよ。背筋がゾッとした。せっかくこんなに楽しい時間を過ごしていたのに!思い違いであればいいが、どうやらこの話はお酒の飲めない柚木先輩から聞いたようなので、ここの誰よりも信憑性が高い。まさかストーカー?お洒落なんてしてないし服なんてユ〇クロでしか買ってない貧乏女子なのに…見る目が無いなストーカーめ。まぁ、ストーカーってきまったわけでもないし、柚木先輩の勘違いかもしれない。そう心配することないんじゃないかと美和ちゃんに言えば、心配そうにこちらを窺っている。

 私と柚木夫婦は家が全然違うところにあるので、送っていこうか?と、聞かれた言葉を丁寧にお断りさせてもらった。まだ夕方になるには早い時間帯だし、明るいうちに家に帰ってしまえばそんな問題ないだろう。途中まで一緒に帰る人もいるんだしそんな心配しなくても大丈夫だよね。

 お花見を解散して、それぞれが帰宅し私も途中まで社員さんと帰っていると、唐突にアイスが食べたくなってしまった。近くのコンビニで別れて私は欲しいものを手に入れその場を後にする。まだ明るい外にホッとしながらコンビニで買った水を飲む。アルコールの入った体に染み渡る美味しさに感動しながら歩き続け、近くの公園の前を通り過ぎようとした時だった。柚木夫婦の言うことを素直に聞いておけばよかったと後悔した。


 「……はぐっ…ウッ…!」


 背後から突然襲われてしまった。口には布を突っ込まれて声が出せない。変な薬は入っていないようで体の感覚がおかしくなる様子は無かったが、私は恐怖のあまり動けなくなってしまった。引きずられるように公園の隅の茂みに引っ張られ、力任せに倒される。恐怖とアルコールの入った体は力が全然入らない。微かに視界に入ったのは黒のパーカーだった。

 はぁはぁ、荒い息が耳元で聞こえる。影になって顔は見えないが、その声はどっかで聞いた覚えのある少し高めの男の声だ。冷静に動かない脳みそにイライラ。無理矢理突っ込まれた口の中の布の上からガムテープを張られてさらに体がガチガチと震える。これ…計画的な犯行じゃない?


 「うぅーっ!!むぐぐーっ!」
 「あはは、そんな焦らなくてもいいじゃない飛鳥ちゃん。あぁ、もう限界だったんだ!君を手に入れたくてずっと我慢してたんだから!暴れないでよ、乱暴はしないからさ。」


 私に跨って両手を何かで縛られた。抵抗しても男の力にかなうわけなくあっさり身を封じられてしまった。私を見下ろしていた奴の顔が見えた。嫌でも欲情しているのがわかるだらしない顔…こいつ、居酒屋の常連じゃないか!大学生の常連なんて珍しいと思ってたから顔を覚えている。うそ、まさか年下の幼気な大学生に強姦されちゃうとか冗談キツイ!!私、もうアラサーだよ!やめてよ本当に!!

 体をいくらジタバタさせても嬉しそうに笑ってる大学生の表情は変わらない。本当にまずい!とんでもない子に捕まってしまったじゃないか!!


 
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