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逃亡している
2 追いかけなきゃ、捜さなきゃ
しおりを挟むいない、どこを探してもいない。エントランスで呆然としていたら同僚に捕まってそのまま家まで送られた。頭が真っ白で、手元にある飛鳥ちゃんの携帯電話を眺めることしか出来なくて。
そんな俺を呆れたように同僚は眺めていて、自業自得じゃないの?なんて言うもんだから頭に来てキツく睨んだ。何も知らないくせに!
同僚は部屋に俺を押し込んでから、滾々と話をしてきた。お前がやったことは間違いなく裏切りだよ。どんなに愛してるって言っても彼女を思う気持ちがないんじゃ、彼女悲しむにきまってるじゃん、なんて。
飛鳥ちゃんを思ってるからこんなに今苦しいのに、なんでそんな事を言うんだ…間違っているって?わからない、本当に大好きだったのに。
「あのな、お前がサイコパスみたいな考えじゃなければ彼女は悲しまなかったはずだぞ?」
「………俺はサイコパスじゃない。」
「サイコパスだよ。浮気でしか愛を確かめられないなんて、狂ってる。じゃあ、新島さんがお前と全く同じことしてもお前は寛大な気持ちで何度も許すんだ。」
「飛鳥ちゃんは俺のだから絶対に許さない!」
「許さないんじゃん。新島さんも許してなかったんじゃないの?独占欲強いのはいいけど頭ん中どうにかしろよ。愛想尽かされて当たり前じゃん。浮気以外に方法思いつかなかったわけ?なんでよりにもよって浮気なんだよ…。」
「…………。」
「あーあ、こんなクズみたいな彼氏で新島さん可哀想。会社でもあんなイジメられてさ。全部、お前のせいだよ。」
同僚の言葉に返す言葉もない。イジメられていても、俺に縋って助けてと言ってくれたら不安にさせないように抱いたのに。
もう、助けを求める対象でも無いくらいに俺は飛鳥ちゃんの中でダメなやつになっちゃってたのかな。俺がどんなに手を差し伸べても、もう握ってはくれないのかな。
「会社から連絡くるまで自宅待機な。なんならもう来なくていいけど。」
「俺やっぱ飛鳥ちゃんじゃないとダメだ…。」
「まだそんなこと言ってんの?ほんとクズ野郎、なんでそんな好きなのに悲しませる事しかしないわけ?矛盾してる。あー腹立ってきたから俺戻るわ。」
ガチャン!と、乱暴に玄関の扉が閉まる。同僚の言葉がいつまでも頭の中を回っていて、プツリと何かが切れた気がした。体が震えて、嗚咽が勝手に出て、視界が滲んでボタボタと涙が止まらなくなった。
俺が欲張りで、どんどん愛されてるって感じたくていけないことをしたから飛鳥ちゃんがいなくなったんだ。本当は許されていたわけじゃなくて、悲しませて愛想尽つかされちゃったんだ…。
このままじゃ飛鳥ちゃんと本当に終わっちゃう。それは絶対に嫌だ!今度は、今度は絶対に浮気もしないしずっと一緒にいるから!一生懸命償うから、もう許してなんて簡単に言わないし、悲しませることはしないから!
今すぐに謝りに行かなきゃ。うずくまってないで、ちゃんと自分で声にして伝えなきゃ、何度も何度も、信じてもらえるように。
俺は必死に体を動かして飛鳥ちゃんの家まで走る。まだ大丈夫、まだ大丈夫…必死に心の中で呪文のように唱えながらもつれそうになる足を必死に動かした。
外は日が暮れて電灯がチカチカと光っている。飛鳥ちゃんの家は俺の家からそう離れてない。家で泣いてるかな…ごめんなさい。
飛鳥ちゃんが住んでいるマンションに大きなトラックが止まっていて中に入りづらい。何かの買い取り業者なのか、大きな車体は音を立てて走り去っていく。
「まさかね…。」
いくら何でも、そんなわけないよ。嫌なことが重なってるだけだ。そう思ってマンションの中に入ると管理人の男が眉間にシワを寄せてこちらを見ていた。
いつもは無表情でロクに挨拶なんてしたことはないけど、俺が飛鳥ちゃんと出入りしているのは何度も見ているから顔だけは認識しているんだろう。そんな男の表情が険しいのは、なんで?
俺はフラフラと管理人の前まで行くと、何か言いたそうにしていた薄い唇が戸惑い気味に開く。眉間のシワは、困惑した表情だったようだ。
「……もう居ないぞ。」
「は?」
「ついさっき業者が来ただろ?だからもういねぇぞ、406号室の新島さん。」
「冗談キツイんだけど…。」
「何やらかしたか知らないが、出ていったぞ。半日で全部終わらせた。」
目の前が真っ暗になった。うまく息が吸えない…肩がガタガタと震えて、止まっていた涙がまたボタボタと俺の目玉から落ちていく。なんで?本当にもういなくなっちゃったの?
今度なんてもうない、もう大丈夫じゃなかった。手に握っていた飛鳥ちゃんの携帯電話は、いつの間にか電源が切れていて画面にはもうなにも映し出してくれない。
ダメ、ダメだよこんなの……飛鳥ちゃんを捜さなきゃ。見つけて絶対に次は幸せにしなきゃ。それは俺じゃないと絶対に嫌だから。捜さなきゃ、捜さなきゃ……。
足は勝手にフラフラとマンションなら出ていって夜の街を進んでいく。ギラギラと光るネオンと、すれ違う人混みの中を突き進んで俺は彼女を探し続ける。
「待っててね、……迎えに行くまで。」
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