【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら

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その後の一コマ

平和な日 2

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 「こらっ!走り回らない!」
 「あはは!パパこっちだよー!」
 「あぁっ!待ちなさい!転んでも知らないよ?」
 「大丈夫だよー!」


 元気な男の子の声が庭に響く。賑やかな声は屋敷の中に聞こえるほどだったが、メイドや従者達はにこやかにその光景を眺めている。父親が追いかけていると、母親が困ったように注意する。息を荒くしたまま男の子が母親に飛びついた。

 困ったように母親は男の子の頭を撫でると、父親か追いつき困った顔をして母親に謝っている。今日は大事な日なのだからと呆れたように言われると父親はさらに眉を下げて苦笑いをした。


 「トーマ、今日はおじいちゃんとおばあちゃんとのお約束の日ではなかった?」
 「じーじ!ばーば!」
 「ほら、早く着替えて来なさい?馬車に置いて行かれてしまうわよ?」
 「あー!ダメ!」


 男の子は急いで屋敷の中に入っていく。その様子を見た父親は一息つくと母親と一緒に近くのベンチに腰掛けて体を休める。体力のない父親は男の子と遊ぶといつも息切れをしている。元気なのは良いが有り余るエネルギーにいつも父親はやられっぱなしなのだった。


 「エディカ、体力なさ過ぎじゃないか?」
 「いやもう私もおじさんだからね…。」
 「おじさん、久しぶりのデートに遅刻するつもりか?」
 「そう怒らないでよアメリ。」


 エディカは大きく息を吸って背伸びをすると、すっかりお母さんになったアメリを見て嬉しそうに笑う。息子のトーマが産まれ、毎日が賑やかで楽しい。もちもん仕事も大事だが、こうやって自分の家族とのんびりと過ごせる時間があるのはとても贅沢だとエディカは思った。

 彼は前世でアパレル店員をしていた女性であった。たくさんの男女の友達を持ち、毎日を賑やかに暮らしていた。平凡なサラリーマン家庭で育ちつ女の子であったが、親にも話せない秘密を持っていた。それは今世でも同じであり、話すつもりもなかった。

 アメリと出会ってもその秘密は心の中にしまったままだが、エディカは前世の時より悩むことはなくなった。彼はとても幸せだから。


 「……なにをニヤニヤしてるのさ。」
 「いやぁ、アメリとこうして過ごせることに感謝をしているのよ。今日で結婚して7年目、仲良く過ごせて幸せだと思ってさ。トーマも産まれだし、次は女の子ほしいな~、可愛い洋服着せたいな~。」
 「まぁ、今日は時間あるからな…。」
 「トーマも明日までお泊りだし夫婦の時間はたっぷり、あるね!」
 「おじさん、ほどほどで頼むよ…。」


 夜の時間に慄くアメリにエディカは笑って彼女の腰を抱いて屋敷の中に入る。今日は屋敷の離れにある小さな別宅で過ごすことに決めていた。最近は仕事に追われることも少なくなり、家族との時間も取りやすくなった。

 エディカは前世でも今世でも仕事人間ではない。真面目に働くが、なによりも今の家族が愛しくて堪らない。アメリと出会えたことは本当に奇跡だと思っているのだ。

 前世でも叶えられなかった結婚をし、子供を授かり、家族が増え、緩やかな生活を続けていけることは、なによりも彼にとっては夢のような生活であったから。

 エディカはバイセクシャルだ。生きる上で好きになった人がタイプであり、男女共に愛せる人間だった。それに気づいたのは中学生へと進級する最中の時だった。幼馴染であった男の子を好きだと自覚し、同じくしてクラスのマドンナである大人っぽい女の子への恋愛感情が、幼馴染へ向けたものと同じだと気づいた。

 ひどく動揺したが、自覚すると引っかかっていた気持ちのモヤモヤが消えた気がした。自分の感情が一般的ではないとわかると、情報を集め自身がバイセクシャルだと知る。それからはその感情の一部を秘密にして生きた。

 前世で知られることは無かったが、やはり同じ女性を好きになってしまうことはあり、それを伝える勇気はなかった。そうしているうちに事故で世を去り、エディカとして生を受けた。

 それからはご存知の通り、アメリがヒューリックと婚約破棄をするまでは薬草の研究に没頭したフリをして気を紛らわせ生活を続けた。親友の妹を好きだと気づいた時には王命で許嫁が出来た後だったが、何故かエディカは諦めきれなかった。

 前世であまり恋愛をしてこなかった反動だろうかと悩んだこともあったが、結果オーライ、今は順風満帆である。


 「最近ますますトーマがエディカに似てきた気がする。」
 「産まれた時から私そっくりでびっくりしたもんね。特に顔が。」
 「兄も同じこと言ってた。エディカの遺伝子強すぎるって笑ってたぞ。」
 「次はアメリと似た女の子が生まれるかも知れないし、楽しみだな。」
 「気が早いんだよ。予定だからな?」


 そう言って少し困った顔はするがアメリは否定しなかった。男であった前世の思考はすっかりエディカの奥さんだ。すっかり馴染んだ今の生活にアメリも幸せを感じている。エディカに絆されたとも言えるだろう。

 お互い難儀な気持ちを持って生きていたが、苦痛はもう無かった。今後も、この幸せの為に頑張らねばと思うエディカだった。

 そうして有言実行した男は、後にアメリがまさかの双子の女の子を妊娠したと聞き嬉しさのあまりエディカが発狂するのはまた少し先の話である。

 この世に転生した2人は幸せであり続けるだろう。ご安心を、本当に問題ありません。いつの日か聞いたアメリの言葉に間違いはなかった。続いていく日常に、感謝を。




                    -終わり-



 
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