【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら

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オマケの一コマ

オマケ 3

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 「デートしません?」
 「ごふっ!…でデートぉ?」
 「せっかく天気良いんだから外出ましょうよアメリ。」


 アメリとエディカの婚約が決まり、早々に話がまとまった2人はお節介なアメリの兄と心配性の両親に半ば強引に新築の豪邸に押し込まれてしまった。いつの間にか特殊商業地区にお屋敷が立っていていたのだ。ほとんどを研究室で過ごすアメリの隙を突いて建てられた豪邸は3階建ての大きな噴水のある庭付きの立派なもので、それを見たアメリは暫く絶句をしていた。これを用意したであろう人間に、必要ないと散々文句を言ったがニコニコと笑って対応され大きなため息をついて諦めてしまった。

 荷物もいつの間にかお屋敷に運ばれ、エディカも早々に移り住み事実上の新婚生活が始まった。それでも毎日を研究に費やしていたアメリの生活自体の変化はほとんどなく、エディカもアメリに頼まれていた新たな化粧水の開発に勤しんでいた為、互いに干渉する時間は無かった。だが、互いに気を使わなくて良い存在であったので仲が抉れるようなこともなく、世間では珍しい夫婦だと噂されるようになった。

 そんな生活をしていれば、少しは研究の合間に時間が取れるようになり屋敷でゆっくりするようになったアメリは久しぶりの休日を満喫するために豪邸の庭でだらしなく寝転がっていた。太陽の日を一身に浴びるのも久しぶりで眩しい日差しを浴びてのんびりとしていれば、ニコニコしたエディカが近寄ってきてデートに行こうと誘われてしまった。アメリの前世は仕事人間だったためデートなんて経験はなく、その単語を聞いただけで噎せてしまう。そんな様子をエディカは気にした様子もなく陽気に誘った。


 「デートって…どこに行くつもりだ?」
 「街にでも行って食べ歩きしましょうよ!買い物もしたいし!」
 「まぁ、それくらいなら付き合ってやれるが…つまらなくても文句言わないでくれよ?」
 「大丈夫、大丈夫!」


 アメリはのそりと起き上がって出かける準備をしに部屋に戻ると、メイドたちに着替えを手伝ってもらって動きやすいワンピースを着せられた。女子が着る服を纏うのは不本意だがエディカからのご所望だと言われてしまえば、仕方ないとばかりにアメリは諦めた。

 エディカははじめ、猫を被っていたが今ではすっかりそれを脱いで明るく社交的な男になっていた。前世での生活を聞いた時思ったのは、こいつ“パリピ”だな…であった。多くの友人と旅行やお洒落に明け暮れた女子で、アメリの前世とは正反対の生活をしていた。そんな彼の行動力にはアメリも驚くばかりだ。王都でアメリのように研究に没頭して引きこもっている薬草オタク変態だと聞いていたが、どうやらそれも彼が作った偽のエディカなのだろう。今ではすっかり自分が楽しみたい事を満喫しているようで、アメリが着せ替え人形になるのも珍しくない。

 アメリはエディカに用意されたワンピースを着て繁華街にやってきた。エディカはアメリに可愛い服を着せることが最近のブームらしく今では多くのドレスや現世で来ていたような女性もののヒラヒラしたものをプレゼントされ困惑することが多かったが今ではすっかり慣れてしまった。自分はもう着れないんだからと言われてしまってはアメリは仕方なく、渋々、嫌々ながらエディカの我儘に付き合っている。もうお分かりだろうがアメリは自覚は無いが、かなり押しに弱いのだ。


 「……で?どこに行きたいんだ?」
 「先に食事してから街を散歩しよう。美味しいパンケーキのお店の噂聞いちゃったんだよね~。」
 「パンケーキはいいが俺は甘いもの食べないぞ?」
 「大丈夫!その店、たまごサンドも絶品らしいから!玉子、大好きでしょ?」
 「よし行こうか。」


 エディカに案内されて噂のお店に向かう。平民のような格好でデートを始めたことで周りの人間にはアメリ達の正体は気づかれていないようだった。2人きりになると猫を被ることをしなくなった為に口調が前世の時に戻り、楽な気持ちで散策出来た。アメリは久しぶりに街の様子を見て繁栄した様子に満足そうである。

 例のお店に到着するとお昼を過ぎた時間だったために込み合ってはおらず、すんなり案内された。テラスの日に当たる席に座り、お目当てのものを注文すると2人は一息ついた。エディカも美味しいパンケーキを食べれるとあってとても嬉しそうである。こうやって感情を上手に出せるエディカをアメリは羨ましいとも思っている。鉄仮面などと言われることも少なくない彼女はヒューリックにも散々そのことを罵られたことがあった。気にしないようにしていても、やはりしつこく言われ続ければ嫌でも気にしてしまう。でも、エディカにはそんなこと関係ないらしい。


 「エディカは楽しそうだな。」
 「え?アメリも楽しいでしょ?たまごサンドって聞いて顔真っ赤にしてたくせに。」
 「……そんな顔してたか?」
 「してたよ。営業成績1位のアパレル店員の人間観察力舐めないでね。アメリ、結構わかりやすくて可愛いよ?自覚ないの??」
 「可愛いってなんだよ…。」


 呆れたようにアメリは言ったが、なんだかそう言われても最近は嫌ではなかった。困ったように笑うと、エディカは嬉しそうにこちらを見ていた。


 「お前も、まぁ気の使えるいい男ではあるよ。俺を着せ替え人形にしなければな。」
 「私は可愛いもの大好きなんだから仕方ないでしょ?ねぇ、ここ食べ終わったら服買いに行こうね!」
 「もうあんなに服あるんだからいいよもう…。」
 「やだ、行き合って。デートでしょ、彼氏のお願い付き合って!さっき店頭に飾られてた淡い水色のブラウス買いたい!着せたい!!」
 「わかった、わかった!飯食ったら行こうな、わかったから落ち着け。」


 
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