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断罪の一コマ
断罪 1
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その日は、とある小国でパーティーが開かれていた。めでたく王太子の婚約者が決まりその発表と隣国との講和条約が結ばれたことを喜ぶ盛大な記念の式である。最近まで領地問題でピリピリしていた両国が、とある令嬢の活躍で問題が解決され、やっと幸せになる時が来たと互いの国の王は大層喜んだ。
和やかにパーティーは進んで、隣国から嫁いで来られた姫と小国ではあるが多くの戦士を生み出した強国の王太子の婚約発表が盛大に行われ、皆が幸せそうにその光景を眺めていた。互いの国の王も満足そうに自分たちの子の晴れ姿に心から祝いの気持ちを溢れさせていた時だった。
唐突に、小国の王太子の弟であるヒューリックが大きく手を鳴らした。自身に満ち溢れた佇まいの赤毛の王子は今年で16歳になる学生である。成績はそこそこ、剣術もそこそこ。目立っていい成績を残しているわけではないが、なぜかいつも自身満々なこの男、小国では問題児とされ腫物を扱うように育ってきた。本人はそんな自覚は全くなく、王様の子というだけでふんぞり返るのが役目と言わんばかりに同級生の平民をいびっている器の小さい男なのだが、……やらかそうとしている。
ハッとして止めに入ろうとした騎士団長だったが間に合わず、ヒューリックは大きな声で宣言をしてしまった。彼には婚約者のアメリという侯爵令嬢がいるのだが、その彼女は離れた場所でエスコートをされるわけでもなく食事を楽しんでいた。
彼女も何事かと、視線をヒューリックに向けるとニヤニヤした下衆な笑みを浮かべて彼はビシリと指をさして高らかに宣言をしてしまったのだ。それが、とんでもない結果を生んでしまうと知らずに。
「この祝いの席で、私も宣言する!ヒューリック・ベルラはアメリ・シューティン…貴様と婚約を破棄をする!!」
賑やかだったパーティーが、一気に空気が凍り付いた。自信満々な王子は全く空気が読めずに高らかに婚約破棄宣言を熱弁していた。そんな彼の側には可愛らしい桃色の髪色をした女がおり、それが小国の子爵家の娘ルルミだと皆が気づいた。小さな国にはそう多くの貴族がいるわけではない。大体が顔なじみで一度は顔を見合わせたことがあるくらいには認知はあった。
その娘が、怯えるように体をヒューリックに預けていた。その光景はまさに互いの関係を隠そうとはしていなかった。絶句をした子爵と奥方は泡を吹いて倒れてしまった。現実逃避…一瞬にして状況を理解した子爵家の方々は優秀だが、なんでこんなことになってしまったのか絶望するしかなかった。
その間にもヒューリックの演説はやまない。あまりのことに誰もが息をすることを忘れてしまった。これは、いったい何の冗談なのだろうかと。わなわなと体を震わせる面々にお構いなしのヒューリックはあることないことを語りつくし、アメリを極悪人として扱う発言をした。学園でのイジメ、ルルミへの嫉妬からの暴力、などなど…幼稚な演劇を見せられている気分になってしまった。
「あぁ……えぇ、かまいません。」
涼しげな声が場に響く。それは紛れもなくアメリの声であった。なんということもないように、平然と、冷静で落ち着いた音色だった。周りの視線は一気にアメリに注がれた。
「何も問題はありません。」
それで話は終わったかのようにアメリはまた食事を始める。嬉しそうにケーキを頬張る様子にあっけにとられてしまった。ヒューリックは肩を怒りで震えていた。違う、なんだこの反応は!!
ヒューリックは勘違いをしていた。アメリが自分のことを好いている、と。いつもお淑やかに控えているのは、自分を立ててくれているのだと。実は全くの反対であった。アメリはとある辺境の公爵令嬢、この婚約は王家より頼み込まれて行った政治的な意味を大部分に含んだもので、アメリは別にヒューリックのことが好きな訳ではない。政略的な義務で側にいただけだった。
彼女がヒューリック側にいる理由は、それだけだ。お淑やかに控えているように見えたのは、声をかける理由も無ければ頭もそこそこで威張る坊っちゃんと関わるのが面倒だったからだ。アメリはどうでもよかったのだ、このヒューリックという男がどんな阿呆でも自分の目的が果たせるならば。でも、それが叶わないとなれば、もう用無しなのである。
「もっ、問題ないだと!?俺との婚約が破棄されるんだぞ!いいのか!」
「全く問題ないと言っているでしょう。お義兄様の祝の席でなにをするかと思えばうっとおしい…。」
「なんだと?!」
「ここまで阿呆となればやはり盟約のことは忘れてしまっているのでしょう。全く…私は鶏を旦那にするつもりはありません。話はもう終わりですね?…チェハ、帰りましょう。」
げんなりとした顔で側にいたお付きのメイドと一緒に帰ろうとするアメリ。真っ赤な顔でいかり肩をわなわなと震わせるヒューリックのことなんてもう眼中になかった。
こんな盛大に婚約破棄を宣言してしまってはもう取り返しがつかない。ヒューリックともたれ掛かっていたルルミ以外はこの重大性に気づかない訳がない。
焦った小国の王様がアメリに駆け寄る。縋り、焦った声色で必死に言い訳をしている。後を追いかけるように小国の王太子も頭を垂れて愚弟の詫びをしている。その光景に、周りにいた小国の貴族もなんとかアメリを止めようと駆け寄る。勿論、ルルミの親でもある男爵もいた。
「えぇ、はい。もう話は終わりだと言ったでしょう。チェハを通じて私の両親も見ておられます。あまり、そう情けない姿を見せないでくださいませ。」
アメリはそう言って綺麗なカテーシーをすると、城を去っていった。
和やかにパーティーは進んで、隣国から嫁いで来られた姫と小国ではあるが多くの戦士を生み出した強国の王太子の婚約発表が盛大に行われ、皆が幸せそうにその光景を眺めていた。互いの国の王も満足そうに自分たちの子の晴れ姿に心から祝いの気持ちを溢れさせていた時だった。
唐突に、小国の王太子の弟であるヒューリックが大きく手を鳴らした。自身に満ち溢れた佇まいの赤毛の王子は今年で16歳になる学生である。成績はそこそこ、剣術もそこそこ。目立っていい成績を残しているわけではないが、なぜかいつも自身満々なこの男、小国では問題児とされ腫物を扱うように育ってきた。本人はそんな自覚は全くなく、王様の子というだけでふんぞり返るのが役目と言わんばかりに同級生の平民をいびっている器の小さい男なのだが、……やらかそうとしている。
ハッとして止めに入ろうとした騎士団長だったが間に合わず、ヒューリックは大きな声で宣言をしてしまった。彼には婚約者のアメリという侯爵令嬢がいるのだが、その彼女は離れた場所でエスコートをされるわけでもなく食事を楽しんでいた。
彼女も何事かと、視線をヒューリックに向けるとニヤニヤした下衆な笑みを浮かべて彼はビシリと指をさして高らかに宣言をしてしまったのだ。それが、とんでもない結果を生んでしまうと知らずに。
「この祝いの席で、私も宣言する!ヒューリック・ベルラはアメリ・シューティン…貴様と婚約を破棄をする!!」
賑やかだったパーティーが、一気に空気が凍り付いた。自信満々な王子は全く空気が読めずに高らかに婚約破棄宣言を熱弁していた。そんな彼の側には可愛らしい桃色の髪色をした女がおり、それが小国の子爵家の娘ルルミだと皆が気づいた。小さな国にはそう多くの貴族がいるわけではない。大体が顔なじみで一度は顔を見合わせたことがあるくらいには認知はあった。
その娘が、怯えるように体をヒューリックに預けていた。その光景はまさに互いの関係を隠そうとはしていなかった。絶句をした子爵と奥方は泡を吹いて倒れてしまった。現実逃避…一瞬にして状況を理解した子爵家の方々は優秀だが、なんでこんなことになってしまったのか絶望するしかなかった。
その間にもヒューリックの演説はやまない。あまりのことに誰もが息をすることを忘れてしまった。これは、いったい何の冗談なのだろうかと。わなわなと体を震わせる面々にお構いなしのヒューリックはあることないことを語りつくし、アメリを極悪人として扱う発言をした。学園でのイジメ、ルルミへの嫉妬からの暴力、などなど…幼稚な演劇を見せられている気分になってしまった。
「あぁ……えぇ、かまいません。」
涼しげな声が場に響く。それは紛れもなくアメリの声であった。なんということもないように、平然と、冷静で落ち着いた音色だった。周りの視線は一気にアメリに注がれた。
「何も問題はありません。」
それで話は終わったかのようにアメリはまた食事を始める。嬉しそうにケーキを頬張る様子にあっけにとられてしまった。ヒューリックは肩を怒りで震えていた。違う、なんだこの反応は!!
ヒューリックは勘違いをしていた。アメリが自分のことを好いている、と。いつもお淑やかに控えているのは、自分を立ててくれているのだと。実は全くの反対であった。アメリはとある辺境の公爵令嬢、この婚約は王家より頼み込まれて行った政治的な意味を大部分に含んだもので、アメリは別にヒューリックのことが好きな訳ではない。政略的な義務で側にいただけだった。
彼女がヒューリック側にいる理由は、それだけだ。お淑やかに控えているように見えたのは、声をかける理由も無ければ頭もそこそこで威張る坊っちゃんと関わるのが面倒だったからだ。アメリはどうでもよかったのだ、このヒューリックという男がどんな阿呆でも自分の目的が果たせるならば。でも、それが叶わないとなれば、もう用無しなのである。
「もっ、問題ないだと!?俺との婚約が破棄されるんだぞ!いいのか!」
「全く問題ないと言っているでしょう。お義兄様の祝の席でなにをするかと思えばうっとおしい…。」
「なんだと?!」
「ここまで阿呆となればやはり盟約のことは忘れてしまっているのでしょう。全く…私は鶏を旦那にするつもりはありません。話はもう終わりですね?…チェハ、帰りましょう。」
げんなりとした顔で側にいたお付きのメイドと一緒に帰ろうとするアメリ。真っ赤な顔でいかり肩をわなわなと震わせるヒューリックのことなんてもう眼中になかった。
こんな盛大に婚約破棄を宣言してしまってはもう取り返しがつかない。ヒューリックともたれ掛かっていたルルミ以外はこの重大性に気づかない訳がない。
焦った小国の王様がアメリに駆け寄る。縋り、焦った声色で必死に言い訳をしている。後を追いかけるように小国の王太子も頭を垂れて愚弟の詫びをしている。その光景に、周りにいた小国の貴族もなんとかアメリを止めようと駆け寄る。勿論、ルルミの親でもある男爵もいた。
「えぇ、はい。もう話は終わりだと言ったでしょう。チェハを通じて私の両親も見ておられます。あまり、そう情けない姿を見せないでくださいませ。」
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