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偶吟悠遠常世奇譚 総攬の旅苞
シーン4 能郷白山中、印の場所
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(シーン4 能郷白山中、印の場所)
SE:山の風や木々の音
間者A「拙者は、貴様を信用したわけではない。その事は忘れるな」
吉法師「承知しています。私が貴方の立場であるならば、絶対に信用しませんので」
間者A「ふん。こちらとしては、姫君のお命が守られるというのならば文句はない」
吉法師「ご協力、感謝致します」
間者A「勘違いするな。全ては姫君をお守りする任務を果たす為、引いては斎藤様の御為にすることだ」
吉法師「それで結構です。いつか、借りはお返し致します」
間者A「ご到着の様だ。気を抜くなよ」
SE:三郎、藤吉郎、お濃、帰蝶の話し声と足音(F.I)
三郎「まさか、あんな所に抜け道があるとはな」
藤吉郎「びっくりしましたね。これで随分、印の場所に近付いたんじゃないですか?」
お濃「この山は国境ですから。攻められぬよう、そして攻めやすいようにと、いくつもの隠された道が用意されているのです」
藤吉郎「あ、それでこの地図に描かれている、整備された道はこんなに回り道が多く複雑なんですね」
お濃「はい」
三郎「確かに戦には良い作りのようだが……。これじゃあ、普段通る商人達の足も重たくさせちまいそうだ。他に商人達が山越えする道があるのか?」
お濃「いいえ。そんな道は用意されていないはずです」
三郎「今後を考えると、それじゃあ不味いんだよな……」
藤吉郎「三郎さん?」
帰蝶「何だか考え込んでしまいましたね。お濃様と気が合いそうですわ……あ、あそこです! あの小さなお社がその印の……あら?」
お濃「どうしました?」
帰蝶「誰か、いらっしゃるみたい」
三郎「んだと? 誰だ、俺様のお宝を横取りしようとしてる奴は」
帰蝶「いつから、三郎様の物になったのでしょうか」
お濃「それ以前に、あの社に宝など……」
三郎「そこの奴ら、動くな!」
SE:三郎が走る音と、三人が小走りで追いかける足音
間者A「随分遅かったな、織田三郎」
三郎「お前は……」
間者A「驚いたぞ。まさか貴様が、あの尾張のうつけであったとはな」
お濃「(呟く様に)やはり、か」
三郎「お前がさっさと逃げちまったから、名乗る暇がなかっただけだ。別に隠してた訳じゃねぇ」
帰蝶「お濃様、お濃様! お聞きになられました? 三郎様って「あの」尾張のご嫡男でしたのね」
お濃「そのようですね」
帰蝶「もう! もう少し驚いて下さってもよろしいのではございません? 偶然であった殿方が、将来夫になられる方だったのですよ!」
藤吉郎「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
帰蝶「藤吉郎様に、驚いて頂いても……」
お濃「帰蝶、そうなる事はあり得ないのは、貴方が一番良く知っているでしょう」
帰蝶「えー……。でも、お似合いだと思いますわ」
お濃「帰蝶……」
藤吉郎「三郎さん! 本当なんですか?」
三郎「お濃が、斎藤利政の娘だってんなら、そうなるな。まぁ、親父が勝手に決めてきた相手だし、俺は乗り気じゃなかったんだが……ふぅん、そうか。お濃がなぁ……」
藤吉郎「三郎さん?」
三郎「ちょっともったいねぇ気もするが、俺が考えを変える事はねぇよ。お濃と夫婦になる事はない」
藤吉郎「(ほっとしたように)そうですか」
三郎「それにしても、ここまで連れて来ておいて何だが、美濃国の領主の娘が、どうして町中をうろうろしてたんだ?」
お濃「それを言うなら、織田家のご嫡男様こそ、どうしてこんな場所にいらっしゃるのかというお話になりますが?」
三郎「俺が大人しく尾張の屋敷居るようじゃ、それこそ何かあったのかと騒ぎになるぜ」
間者A「お前のその自由奔放な行動のせいで、こちらは随分面倒な事になっているのだがな」
三郎「は? どういう事だ?」
間者A「さあな。訳は後で貴様の優秀なお目付役にでも聞くんだな。もし、貴様が拙者とその優秀なお目付役の二人を相手に、勝てたら……の話だが」
SE:間者Aと吉法師が刀を抜く音
三郎「ちっ、やる気満々だな。吉、お前はそれを俺に向ける意味、わかってんだろうな」
吉法師「はい」
三郎「……そうか」
藤吉郎「三郎さん! 吉法師さん! どうして……」
三郎「藤吉郎、お前はお濃と帰蝶を守ってろ」
藤吉郎「でも!」
三郎「大丈夫だ。俺が今までに、一度でもやられた事があったか?」
藤吉郎「だってそれはいつも、吉法師さんと一緒に戦っていたから……」
三郎「いいから黙って下がってろ。でないと、怪我だけじゃすまねぇかもしれないぞ」
SE:三郎が刀を抜く音
三郎「吉、お前と真剣で戦うのは、久しぶりだな。だが今回は一対二だ、手加減は出来ねぇ」
吉法師「若君……参ります」
間者A「作戦通り、行くぞ」
吉法師「はい」
藤吉郎「吉法師さん、どうして……」
三郎「藤吉郎、しっかり守れよ」
SE:三郎が近くに居た藤吉郎を押しやる音
藤吉郎「三郎さん!」
SE:三人の激しい打ち合い音(三郎:刀、吉法師:両手くない、間者A:忍者刀のイメージ)
帰蝶「藤吉郎様、そこにいては危ないですわ。こちらへ!」
藤吉郎「でも……っ」
帰蝶「きっと三郎様にも吉法師様にも、何かお考えがおありなのですわ。さ、お早く」
藤吉郎「……はい」
SE:ゆっくりと下がる藤吉郎の足音
SE:その足音をかき消す様な、激しい打ち合いの音
間者A「流石だな、忍びの訓練を受けている我々似たりを相手に互角に戦えるとは、うつけ等という呼び名は所詮噂でしかなかったという事か」
三郎「そうでもないさ。俺様は多分うつけなんだろう。なんたって、こんな山奥でおめぇらの相手をしてやってる位だからな」
吉法師「若君」
三郎「だが俺様は、ただのうつけで終わるつもりはねぇ。いつかうつけと呼ばれた者が、天下を取る。そんな世の中も有りだろ?」
間者A「確かに貴様のその力があれば、夢ではないかもしれんが……拙者はそんな世の中には生きていたくないな。やはり、ここで息の根を止めておかねば」
三郎「残念だ。てめぇはなかなか使えそうな奴だと思ったんだが」
間者A「そういう台詞は、拙者を倒した後に言うんだな。……はぁぁぁぁぁぁ!」
SE:間者Aが気合いと共に刀を振り下ろす音と、その攻撃を三郎が止める金属音
三郎「言われなくても、そのつもりだっ!」
SE:三郎が刀を押し返して、反撃する音
SE:三郎の刀が振り下ろされる前に、飛んで来るクナイと、それを咄嗟に弾き返す音
三郎「ちっ……。吉が敵に回ると、これほど面倒になるとはな」
吉法師「お褒めの言葉、ありがとうございます」
SE:三人の戦いの音がスピードアップしていく
藤吉郎「どうしてこんな事に……」
帰蝶「本当に、吉法師様はどうしてしまわれたのかしら? あんなに三郎様と、仲がよろしかったのに」
藤吉郎「吉法師さんが、三郎さんと敵対するなんて、考えられません」
お濃「先程、山を下りて行かれた際に何かあったのでしょうね」
藤吉郎「何か?」
お濃「あの方の行動は全て、三郎様をお守りすることを目的としていました。それなのに今、その三郎様に刃を向けている……とすれば」
帰蝶「戦うことが、三郎様をお守りする事になる?」
お濃「そう考えた方が自然でしょう。まぁ、三郎様を見限った、という可能性がない訳でもないのですが」
藤吉郎「それはないです! 吉法師さんは、誰よりも三郎さんの事を考えていらっしゃいます」
帰蝶「でも、三郎様に刃を向ける事がお守りする事になるなんて、どういう事情なのでしょう?」
お濃「あの忍と手を組んでいるのも、不可解ではありますね」
藤吉郎「あ、それは……」
帰蝶「何か、お心当たりが?」
藤吉郎「さっきからずっと気になっているんですが、吉法師さんとあの忍さん、戦っているはずの三郎さんとは違う何処かを探っている気がしませんか?」
お濃「他に、三郎様を狙っている刺客がいる?」
藤吉郎「あ、でもただ視線が逸れただけなのかもしれなくて……」
帰蝶「私は全然気付きませんでしたわ」
お濃「いくら二対一とは言え、見たところ吉法師様とあの忍に、視線を逸らせる程の余裕があるとは思えません。藤吉郎様、二人が視線を逸らした先がどの辺りかわかりますか?」
藤吉郎「えっと……、確かあのお社の、斜め右……辺り? 済みません、確証はなくて……」
お濃「いえ、十分です。あの竹林の奥ですね……確かに」
帰蝶「何者か居ますか? お濃様」
お濃「その様です。二人……いえ、三人」
藤吉郎「本当ですか!?」
お濃「どうやら、先程三郎様にやられた伊賀者の様ですね。気配が読みにくい」
帰蝶「それでは今、三郎様と戦っている忍の仲間ではないですか!」
お濃「それにしては、何か様子が……」
SE:間者Bが竹林の中で火縄銃を構える音
お濃「あれはまさか、火縄……?」
藤吉郎「どうしたんですか?」
お濃「帰蝶、刀を」
帰蝶「はい」
SE:帰蝶が着物の中から仕込み刀を取り出し、お濃に渡す音
藤吉郎「ちょ、ちょっと待って下さい、お濃さん。それ、どうするつもりですか? まさか……」
お濃「今、潜んでいる者達は、戦っている三人にばかり意識が集中しています。女子供だと侮られているのでしょうから、私が行った方が確実です。大丈夫、任せて下さい」
藤吉郎「だ、大丈夫じゃないですよ!」
お濃「しっ、黙って……行きます」
藤吉郎「お濃さん!」
帰蝶「藤吉郎様、お濃様は平気ですわ。お任せ下さいませ」
藤吉郎「でも……!」
SE:三郎、吉法師、間者Aの戦闘音
間者A「流石に、もうそろそろ限界だろう? どうだ、敗北を認めれば、見逃してやっても……」
三郎「ざけんな! この俺様が、この位でどうにかなると思ってんじゃねぇよ。限界なのは、そっちだろうが」
吉法師「若君……」
三郎「それにな、俺様が女性を守るって名目がある時に負けるなんて、あるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
吉法師「……っ! 危ない!」
三郎「んなっ……!?」
SE:一発の銃声音
SE:同時に、三郎と吉法師が倒れ込む音
吉法師「若君……ご無事、ですか?」
三郎「あぁ。……って、吉お前の方こそ、肩から血が出てるじゃねぇか!」
吉法師「大丈夫、擦っただけです」
三郎「ったく、動くんじゃねぇ。じっとしてろ」
吉法師「はい」
SE:三郎が立ち上がり、刀を構える音
三郎「おめぇら、いい加減こそこそしてねぇで、出て来やが……」
お濃(男性声)「雑魚が。大人しく眠っていろ」
間者B「ぐっ……」
SE:間者B達が次々と倒れ込む音
SE:お濃が仕込み刀を収める音
三郎「……お濃?」
SE:木々が不自然に揺れる音と、遠くで何者かが草を踏みしめる音
SE:遠くから手裏剣が投げられる音
間者A「姫君っ!」
藤吉郎「お濃さんっ!」
SE:藤吉郎が飛び出してお濃を庇う音
SE:手裏剣が藤吉郎に刺さる、鈍い音
藤吉郎「はぅ……」
お濃「……藤吉郎、様?」
三郎「藤吉郎!」
間者C「……ちっ、外したか」
間者A「逃がさん!」
SE:間者Cが逃げる音
SE:すぐさま間者Aが忍者刀を投げて、それが間者Cに刺さる音
間者C「ぐぅあ……っ」
SE:間者Cが倒れる音
帰蝶「お濃様!」
三郎「藤吉郎、お濃、大丈夫か!」
SE:三郎と帰蝶が走り寄る音
SE:吉法師と間者Aも、歩いて続く音
お濃「藤吉郎様、しっかり。どうして……」
藤吉郎「お濃さん、良かった……ご無事で……」
SE:藤吉郎が崩れ落ちる所を、お濃が抱き止める音
吉法師「この手裏剣、毒が仕込まれている様です」
帰蝶「毒!?」
三郎「おい、藤吉郎! しっかりしろ!」
お濃「目を開けて下さい、藤吉郎様!」
SE:山の木々と風の音
F・O
SE:山の風や木々の音
間者A「拙者は、貴様を信用したわけではない。その事は忘れるな」
吉法師「承知しています。私が貴方の立場であるならば、絶対に信用しませんので」
間者A「ふん。こちらとしては、姫君のお命が守られるというのならば文句はない」
吉法師「ご協力、感謝致します」
間者A「勘違いするな。全ては姫君をお守りする任務を果たす為、引いては斎藤様の御為にすることだ」
吉法師「それで結構です。いつか、借りはお返し致します」
間者A「ご到着の様だ。気を抜くなよ」
SE:三郎、藤吉郎、お濃、帰蝶の話し声と足音(F.I)
三郎「まさか、あんな所に抜け道があるとはな」
藤吉郎「びっくりしましたね。これで随分、印の場所に近付いたんじゃないですか?」
お濃「この山は国境ですから。攻められぬよう、そして攻めやすいようにと、いくつもの隠された道が用意されているのです」
藤吉郎「あ、それでこの地図に描かれている、整備された道はこんなに回り道が多く複雑なんですね」
お濃「はい」
三郎「確かに戦には良い作りのようだが……。これじゃあ、普段通る商人達の足も重たくさせちまいそうだ。他に商人達が山越えする道があるのか?」
お濃「いいえ。そんな道は用意されていないはずです」
三郎「今後を考えると、それじゃあ不味いんだよな……」
藤吉郎「三郎さん?」
帰蝶「何だか考え込んでしまいましたね。お濃様と気が合いそうですわ……あ、あそこです! あの小さなお社がその印の……あら?」
お濃「どうしました?」
帰蝶「誰か、いらっしゃるみたい」
三郎「んだと? 誰だ、俺様のお宝を横取りしようとしてる奴は」
帰蝶「いつから、三郎様の物になったのでしょうか」
お濃「それ以前に、あの社に宝など……」
三郎「そこの奴ら、動くな!」
SE:三郎が走る音と、三人が小走りで追いかける足音
間者A「随分遅かったな、織田三郎」
三郎「お前は……」
間者A「驚いたぞ。まさか貴様が、あの尾張のうつけであったとはな」
お濃「(呟く様に)やはり、か」
三郎「お前がさっさと逃げちまったから、名乗る暇がなかっただけだ。別に隠してた訳じゃねぇ」
帰蝶「お濃様、お濃様! お聞きになられました? 三郎様って「あの」尾張のご嫡男でしたのね」
お濃「そのようですね」
帰蝶「もう! もう少し驚いて下さってもよろしいのではございません? 偶然であった殿方が、将来夫になられる方だったのですよ!」
藤吉郎「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」
帰蝶「藤吉郎様に、驚いて頂いても……」
お濃「帰蝶、そうなる事はあり得ないのは、貴方が一番良く知っているでしょう」
帰蝶「えー……。でも、お似合いだと思いますわ」
お濃「帰蝶……」
藤吉郎「三郎さん! 本当なんですか?」
三郎「お濃が、斎藤利政の娘だってんなら、そうなるな。まぁ、親父が勝手に決めてきた相手だし、俺は乗り気じゃなかったんだが……ふぅん、そうか。お濃がなぁ……」
藤吉郎「三郎さん?」
三郎「ちょっともったいねぇ気もするが、俺が考えを変える事はねぇよ。お濃と夫婦になる事はない」
藤吉郎「(ほっとしたように)そうですか」
三郎「それにしても、ここまで連れて来ておいて何だが、美濃国の領主の娘が、どうして町中をうろうろしてたんだ?」
お濃「それを言うなら、織田家のご嫡男様こそ、どうしてこんな場所にいらっしゃるのかというお話になりますが?」
三郎「俺が大人しく尾張の屋敷居るようじゃ、それこそ何かあったのかと騒ぎになるぜ」
間者A「お前のその自由奔放な行動のせいで、こちらは随分面倒な事になっているのだがな」
三郎「は? どういう事だ?」
間者A「さあな。訳は後で貴様の優秀なお目付役にでも聞くんだな。もし、貴様が拙者とその優秀なお目付役の二人を相手に、勝てたら……の話だが」
SE:間者Aと吉法師が刀を抜く音
三郎「ちっ、やる気満々だな。吉、お前はそれを俺に向ける意味、わかってんだろうな」
吉法師「はい」
三郎「……そうか」
藤吉郎「三郎さん! 吉法師さん! どうして……」
三郎「藤吉郎、お前はお濃と帰蝶を守ってろ」
藤吉郎「でも!」
三郎「大丈夫だ。俺が今までに、一度でもやられた事があったか?」
藤吉郎「だってそれはいつも、吉法師さんと一緒に戦っていたから……」
三郎「いいから黙って下がってろ。でないと、怪我だけじゃすまねぇかもしれないぞ」
SE:三郎が刀を抜く音
三郎「吉、お前と真剣で戦うのは、久しぶりだな。だが今回は一対二だ、手加減は出来ねぇ」
吉法師「若君……参ります」
間者A「作戦通り、行くぞ」
吉法師「はい」
藤吉郎「吉法師さん、どうして……」
三郎「藤吉郎、しっかり守れよ」
SE:三郎が近くに居た藤吉郎を押しやる音
藤吉郎「三郎さん!」
SE:三人の激しい打ち合い音(三郎:刀、吉法師:両手くない、間者A:忍者刀のイメージ)
帰蝶「藤吉郎様、そこにいては危ないですわ。こちらへ!」
藤吉郎「でも……っ」
帰蝶「きっと三郎様にも吉法師様にも、何かお考えがおありなのですわ。さ、お早く」
藤吉郎「……はい」
SE:ゆっくりと下がる藤吉郎の足音
SE:その足音をかき消す様な、激しい打ち合いの音
間者A「流石だな、忍びの訓練を受けている我々似たりを相手に互角に戦えるとは、うつけ等という呼び名は所詮噂でしかなかったという事か」
三郎「そうでもないさ。俺様は多分うつけなんだろう。なんたって、こんな山奥でおめぇらの相手をしてやってる位だからな」
吉法師「若君」
三郎「だが俺様は、ただのうつけで終わるつもりはねぇ。いつかうつけと呼ばれた者が、天下を取る。そんな世の中も有りだろ?」
間者A「確かに貴様のその力があれば、夢ではないかもしれんが……拙者はそんな世の中には生きていたくないな。やはり、ここで息の根を止めておかねば」
三郎「残念だ。てめぇはなかなか使えそうな奴だと思ったんだが」
間者A「そういう台詞は、拙者を倒した後に言うんだな。……はぁぁぁぁぁぁ!」
SE:間者Aが気合いと共に刀を振り下ろす音と、その攻撃を三郎が止める金属音
三郎「言われなくても、そのつもりだっ!」
SE:三郎が刀を押し返して、反撃する音
SE:三郎の刀が振り下ろされる前に、飛んで来るクナイと、それを咄嗟に弾き返す音
三郎「ちっ……。吉が敵に回ると、これほど面倒になるとはな」
吉法師「お褒めの言葉、ありがとうございます」
SE:三人の戦いの音がスピードアップしていく
藤吉郎「どうしてこんな事に……」
帰蝶「本当に、吉法師様はどうしてしまわれたのかしら? あんなに三郎様と、仲がよろしかったのに」
藤吉郎「吉法師さんが、三郎さんと敵対するなんて、考えられません」
お濃「先程、山を下りて行かれた際に何かあったのでしょうね」
藤吉郎「何か?」
お濃「あの方の行動は全て、三郎様をお守りすることを目的としていました。それなのに今、その三郎様に刃を向けている……とすれば」
帰蝶「戦うことが、三郎様をお守りする事になる?」
お濃「そう考えた方が自然でしょう。まぁ、三郎様を見限った、という可能性がない訳でもないのですが」
藤吉郎「それはないです! 吉法師さんは、誰よりも三郎さんの事を考えていらっしゃいます」
帰蝶「でも、三郎様に刃を向ける事がお守りする事になるなんて、どういう事情なのでしょう?」
お濃「あの忍と手を組んでいるのも、不可解ではありますね」
藤吉郎「あ、それは……」
帰蝶「何か、お心当たりが?」
藤吉郎「さっきからずっと気になっているんですが、吉法師さんとあの忍さん、戦っているはずの三郎さんとは違う何処かを探っている気がしませんか?」
お濃「他に、三郎様を狙っている刺客がいる?」
藤吉郎「あ、でもただ視線が逸れただけなのかもしれなくて……」
帰蝶「私は全然気付きませんでしたわ」
お濃「いくら二対一とは言え、見たところ吉法師様とあの忍に、視線を逸らせる程の余裕があるとは思えません。藤吉郎様、二人が視線を逸らした先がどの辺りかわかりますか?」
藤吉郎「えっと……、確かあのお社の、斜め右……辺り? 済みません、確証はなくて……」
お濃「いえ、十分です。あの竹林の奥ですね……確かに」
帰蝶「何者か居ますか? お濃様」
お濃「その様です。二人……いえ、三人」
藤吉郎「本当ですか!?」
お濃「どうやら、先程三郎様にやられた伊賀者の様ですね。気配が読みにくい」
帰蝶「それでは今、三郎様と戦っている忍の仲間ではないですか!」
お濃「それにしては、何か様子が……」
SE:間者Bが竹林の中で火縄銃を構える音
お濃「あれはまさか、火縄……?」
藤吉郎「どうしたんですか?」
お濃「帰蝶、刀を」
帰蝶「はい」
SE:帰蝶が着物の中から仕込み刀を取り出し、お濃に渡す音
藤吉郎「ちょ、ちょっと待って下さい、お濃さん。それ、どうするつもりですか? まさか……」
お濃「今、潜んでいる者達は、戦っている三人にばかり意識が集中しています。女子供だと侮られているのでしょうから、私が行った方が確実です。大丈夫、任せて下さい」
藤吉郎「だ、大丈夫じゃないですよ!」
お濃「しっ、黙って……行きます」
藤吉郎「お濃さん!」
帰蝶「藤吉郎様、お濃様は平気ですわ。お任せ下さいませ」
藤吉郎「でも……!」
SE:三郎、吉法師、間者Aの戦闘音
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吉法師「若君……」
三郎「それにな、俺様が女性を守るって名目がある時に負けるなんて、あるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
吉法師「……っ! 危ない!」
三郎「んなっ……!?」
SE:一発の銃声音
SE:同時に、三郎と吉法師が倒れ込む音
吉法師「若君……ご無事、ですか?」
三郎「あぁ。……って、吉お前の方こそ、肩から血が出てるじゃねぇか!」
吉法師「大丈夫、擦っただけです」
三郎「ったく、動くんじゃねぇ。じっとしてろ」
吉法師「はい」
SE:三郎が立ち上がり、刀を構える音
三郎「おめぇら、いい加減こそこそしてねぇで、出て来やが……」
お濃(男性声)「雑魚が。大人しく眠っていろ」
間者B「ぐっ……」
SE:間者B達が次々と倒れ込む音
SE:お濃が仕込み刀を収める音
三郎「……お濃?」
SE:木々が不自然に揺れる音と、遠くで何者かが草を踏みしめる音
SE:遠くから手裏剣が投げられる音
間者A「姫君っ!」
藤吉郎「お濃さんっ!」
SE:藤吉郎が飛び出してお濃を庇う音
SE:手裏剣が藤吉郎に刺さる、鈍い音
藤吉郎「はぅ……」
お濃「……藤吉郎、様?」
三郎「藤吉郎!」
間者C「……ちっ、外したか」
間者A「逃がさん!」
SE:間者Cが逃げる音
SE:すぐさま間者Aが忍者刀を投げて、それが間者Cに刺さる音
間者C「ぐぅあ……っ」
SE:間者Cが倒れる音
帰蝶「お濃様!」
三郎「藤吉郎、お濃、大丈夫か!」
SE:三郎と帰蝶が走り寄る音
SE:吉法師と間者Aも、歩いて続く音
お濃「藤吉郎様、しっかり。どうして……」
藤吉郎「お濃さん、良かった……ご無事で……」
SE:藤吉郎が崩れ落ちる所を、お濃が抱き止める音
吉法師「この手裏剣、毒が仕込まれている様です」
帰蝶「毒!?」
三郎「おい、藤吉郎! しっかりしろ!」
お濃「目を開けて下さい、藤吉郎様!」
SE:山の木々と風の音
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