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肉と魚と炭火と危険

あんこう鍋・兄貴のビール添え

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うーむ……揚げたフグは淡白なのにしっかりとした味があって、噛む程に旨味が溢れる。

しかも独特な噛み応えが楽しい、確かにこの味なら毒だろうと食いたくなるわ。

これを安全に食える様にした先人には感謝せねばなるまい。

から揚げでこれなら刺身はどんな味なのかは気になるが……まあ明日の楽しみに取っておこう。

それより今は……

「待たせたなぁ、これがワイの仕込んだビールや!」

「おお、遂に出来たのか兄貴!」

「まさか本当に再びビアーをやれる時が来るとは思わなかったぜ」

ビールを作った兄貴とバコアさん、俺とジョニーさんは当然として……何故かレクタさんにラビナさん、サーマに領主とアンカー、マットさんにペグさん、フィオレさんまで居やがる。

それにノースとかいうオッサンも……仕事で関わりがあるとか言ってたし多分兄貴に呼ばれたんだろうが、酒と鍋は大勢で囲んだ方が美味いから構わんか。

「って確かロ……じゃなくてインナーさんの娘のチェアだったか?来てたのか」

「ええ、義父とノース様に呼ばれまして」

何やら頬が赤くなっているがまさかこの前言ってた熱心に祈る人ってこのオッサンの事だったのか?

てっきり兄貴かと思ったんたが。

「ワイが信じる神はこの樽の中にしかおらへんからなぁ、教会で祈る暇があるなら1口でも多く飲むわ……それに、あんな美人に祈ったらカミはんが妬いてまうやろ」

「あんた、一応ウチも神職のヒーラーなんやけど?」

「これは物の例えやって、そんだけバコアが魅力的やっちゅー意味や」

「もう、人前で何いうとるんや」

この飲んだくれ夫婦め……兄貴は間違ってもトゥール様の前でそれを言うなよ?

仮にも本物の女神だから……あ、そういえばトゥール様は出来たビールを飲ませろって言ってたよな。

あんこうだけの鍋を仕込みながら大量の削り節を用意して、ゆで卵にソースを塗ったら削り節をまぶして半分にカットしたら炙ったコッペパンに挟む、と。

後は仕上げにマヨネーズを垂らしてやれば……

「兄ちゃん、呼んでくれるんはええけど流石にそれは手ぇ抜き過ぎやろ?」

「今回はあんこう鍋に力を入れる必要があったんで……反省はしてますよ」

てか呼んだ俺が言うのはアレだけど手抜きと解ってて来る方もどうかと思うぞ。

言わないけど。

って、チェアが驚愕してるんだが何かあったか?

「あの……女神様の降臨には専用の詠唱と相応の理由が必要だった筈では?」

そういや最初の頃にタープが呼んだ時もよく解らん詠唱を唱えていたっけ……

今じゃこっちが呼ばなくても来るけど。

「トゥール様に関して言えばソース味の美味い物があればすぐに来るぞ、理由もビールが飲みたいと言ってたから呼んだ訳だし」

「ウチを食い意地はった女神みたいに言わんといてや、確かに兄ちゃんの料理は美味いんやけど……てかただのゆで卵なのに、たこ焼きみたいな味付けが意外と合うとるやんか」

何だかんだ言いながらもちゃんと食う所は尊敬しますよ……

てかもう食い意地に関しては否定する気すらないですよね?



「おお……この喉ごし、キレ味、爽快な苦味、間違いなくビールだ!」

「ふぅ、炭酸の刺激も心地良い……素晴らしいビアーだぜ」

「おおきに、自信はあったんやが梅夫とジョニーはんが言うんなら問題はなさそやな」

まさか本当にビールを作ってしまうとは……あんこう鍋にもよく合う。

これで毎晩の風呂が更に楽しみになったが、もう暫くは我慢しないとなぁ。

「じゃあ約束通り、俺の店でも扱わせて貰うぜ……本当に1樽がたったの1500バランでいいのか?」

「かまへんよ、原価から計算した正当な値段や」

「なら最初は20樽も買わせて貰うぜ、半分はウチで飲む為だがな」

そういやラビナさんもドワーフらしい酒豪だったな……ならそれぐらいは必要か。

ウチは禁酒中で余程の事がなきゃ飲めんのだが物々交換に出したいからなぁ……来月あたりに2樽ぐらい頼んでおくか。

「成程、このエールにはない爽快感と冷たさ……素晴らしいですね」

「エールも悪い酒やないんやけどなぁ、冷やして焼いた肉と一緒に飲めば美味い酒や……ただどこも室温で放置してぬるくしたもんしか出さんのが問題なんや」

あの酒は冷やせば美味いのか……半信半疑だが酒にうるさい兄貴が言うなら間違いあるまい。

とはいえこの世界じゃ氷の調達が難しい上に高いからな……冷蔵庫なんてある訳がないし経費の削減をしたら真っ先に削られる部分だろう。

そう考えるとエビフライの存在は非常に大きいな。

「兄ちゃん、鍋の具を追加してぇな……それとビールおかわりや」

本当によく食うなトゥール様……食えるなら幾らでも作るけど煮えるまで待ってて下さいよ。

「ふぅ、これは本当に美味しいお酒ね……ジョニーが美味しそうに語るだけはあるわ」

「ハハハ、今更ながら語るだけで飲ませられなかったのは申し訳なかったな……本当にキョウヤには感謝しかないぜ」

「ジョニーはん、おだてたって値引きはせぇへんよ」

フィオレさんは苦味にも強いのか……何か嫌いな物とかあるのか?

っと、次はノースのオッサンが来たな。

「あの、ウメオさんに少し相談があるのですが」

「オッサンが相談とは珍しいな、まあ言ってみろ」

いつぞやのカニ以来ペスカタの酒場に寄る度にサービスしてくれるしな、それぐらいは聞いてやる。

とはいえ俺はバーベキューしか能がないピットマスターだし出来ない事なら話しか聞けんぞ。

「ウメオさんにこのビールという酒に合う料理を教えて頂きたいのですが」

「それなら幾つか知ってるが……ビールはキンキンに冷やさないと美味さが半減するぞ?」

「それについては問題ありません、明日にでも氷魔法を使える従業員を雇うと決めましたので」

成程、エビフライみたいに樽を氷らせて冷やそうって訳だな。

確かこのオッサンもフグの解体が出来た筈だから腕は問題ないだろうし、手早く作れる物を教えるか。

「サーマ、急でスマンがイワシとショウガを集めてくれないか?」

「何を作るかは知らないけど、ちゃんと食わせて貰えるんだろうね?」

「安心しろ、どうせ全員が食うと知ってるから」



まずは以前にもアメーラにおみまいしたイワシのから揚げを大量に揚げて……よし。

半分は揚げたてを食って貰いつつ残りの仕込みをしよう。

っとその前に俺も1匹、そしてビールを一杯……あぁ美味い!

やっぱイワシとビールは最高の組み合わせだな、よし続きをやろう。

小鍋に水、砂糖、酢、醤油をいい感じにブレンドして煮立てて……ショウガの薄切り、唐辛子(ハラペ)、粒コショウを沈めて香りを付けて、と。

深皿にイワシのから揚げを並べたら大量のタマネギの薄切り、ニンニクの薄切りで埋めておこう。

タレの荒熱が取れたらから揚げがひたひたになるまで入れて、本来ならこのまま一晩は冷やすんだが……

「バコアさん、ちょっと短縮を頼む……大体一晩ぐらいで」

「ほいほい」

よし、出来た……イワシの南蛮漬け。

こいつは甘ったるい酒でなければ何でも合う、旬の小魚があるなら食いたいツマミだ。

米のオカズにもなるけどやはり酒と一緒に食いたい料理の筆頭候補って奴だろう。

「確かに冷えたビールと合いますな、幾らでも食べられそうです!」

「イワシなら原価も安いし、大量に仕込めば出すのも簡単だろ……何より美味いしこれなら骨や頭も食える」

ついでだから余分に作ってマリアへの土産にするか……唐辛子を使ってるからタープは食えんだろうし可愛い妹とキャリも好まん。

タープとキャリにはその場で揚げるから揚げで何とかなるだろうし、可愛い妹には刺身を用意すれば問題ない。

「兄ちゃん、ウチにもその南蛮漬けを食わせぇや」

「坊や、私にも貰えるかしら?」

「ボーイ、俺にも寄越せ」

これはこのオッサンに頼まれて教えてる料理なんだが……まあいい。

てかあんだけあったから揚げとあんこう鍋がもう食い尽くされていやがった……

仕方ない、追加を作るか。
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