エルフの森をキャンプ地とする!

ウサクマ

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エルフで菜食主義だったら駄目なのかよ

豆乳パウンドケーキ・カルヴァドス添え

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夜になって、夕飯は可愛い妹とアメーラが調子に乗って作り過ぎた豆乳を大量に使うメニューにしつつ……

それでも余った分とオカラを可愛い妹が日持ちするパウンドケーキやクッキーにして何とか使い切った。

一部はジョニーさんとフィオレさんが土産に持って帰ったが……明日はコーヒーを用意しなくちゃならんな。

「所でアメーラ、お前は酒はイケる口か?」

「生憎だが私は下戸でな、一切飲めん」

それなら仕方ない。

肉や魚を無理矢理食わせるのはトゥール様の指示だからいいとして、酒は命に関わる場合もあるしアルハラで訴えられたら確実に俺が負ける。

「で、わざわざ酒について聞いた辺り……私に聞きたい事があるのだろう?」

「意外と鋭いな……まあ気になる事が一つあってな、過激派は幻獣も探している様だが何の為にだ?」

「意外は余計だ……幻獣の核は白か黒である、という話を聞いた事はあるか?」

「ああ、聞いた事がある」

「なら話は早い、理由は解らんが過激派の代表は大量の白を欲していてな……幻獣は見つけ次第生け捕りにしろと命令されていた」

それで生かしたまま捕まえようとしてたのか。

せめて理由ぐらい聞いておけよ、とは思ったが……フィオレさんとのやり取りを見る限り無理だろうな。

「噂では魔力を流した白を飲み込んでいる所を見た者が居るとも聞いたが……真相は不明だ」

それ、本当だとしたら絶対健康に良くないだろ。

野菜狂信が行き過ぎて無機物まで食う様に……は流石に無茶な推測だな、忘れよう。

「噂についてはフィオレ様も調べている、解り次第貴様にも報告はあるだろう」

それは有難いな、キャリの為にも頑張って貰いたい。

「しかし不思議な物だ、貴様を何度も殺してやろうと思っていた筈がこうして会話を……それが一切不快ではないとはな」

まあ、言いたい事はよく解る。

流石に俺はお前を殺すつもりなんてなかったけどな。

大量の肉や魚はおみまいしてやるが。

「……かといって仲良く出来るとは微塵も思えんのが不可解なんだが」

「奇遇だな、俺もだ」

我ながら本当によく解らんが、こいつとの距離感はこれぐらいで丁度いいって事だろう。




翌朝、再び豆乳を作ったアメーラが可愛い妹に合格を貰って……きっちりと朝飯を食いつつ土産のパウンドケーキを持って帰った。

因みに朝飯は賽の目に切ったコッペパンを揚げたクルトンを浮かべて、醤油で味付けして温めた豆乳……そしてパウンドケーキとクッキーだった。

パウンドケーキだけはまだ大量に余っているから昼飯もこれになりそうだな。

後オカラは……卯ノ花にでもするか。

「それで、次はどっちに手を付けるの?」

「物資はオヤッサンが、人手はレクタさんが集めている所だからな……となれば兄貴が来るのを待とう、早ければ今日か明日には来るだろうし」

「ならパウンドケーキの半分はお土産用にしておくね」

確か兄貴は甘い物が大の苦手だった様な気がするんだが?

……まあいいか、兄貴の奥さんが甘党である可能性もあるしケンタン産まれらしいから残したりはしないだろ。

「ウメオの兄ちゃんかぁ……酒臭いたぁ聞いたけど想像が出来へんな」

「確かに、それに奥さんも気になる」

まあ、俺と兄貴はハッキリ言って殆ど似てないからな。

だが兄貴の奥さんが気になる気持ちは解る。

いつ来てもいい様にランプ肉と専用のベーコンは用意してあるし、念の為トゥール様にお高いワインを頼んであるが……

「兄ちゃん、後一時間ぐらいで到着っぽいから今の内に下拵えしときぃや……それとこの酒を冷やしといてぇな」

「本当に唐突ですねトゥール様……時に今回も?」

「当たり前やん、ちゃんと用意しといてな」

まあいいか……トゥール様の食い気は今に始まった事でもないし。

ってかこの……モンター?って酒はやけに新しく見えるけど、本当に兄貴を唸らせられる酒なんだろうか?

酒は長く熟成させりゃ良いって物でもないけど……

ま、ここはトゥール様を信じるしかないか。



「おー梅夫、約束通りに来てやったで!」

「来たか兄貴、まあ座ってくれ……今から肉を焼くから」

さて、隣に居る女性が兄貴の奥さんなのは間違いないだろうが……

耳は普通だからエルフや獣人じゃない、肌も普通の肌色だからオークでもない、身長もそこそこあるからドワーフでもないな。

「って、そこにおるんは……バコアやんか」

「久しぶりやなぁタープはん」

兄貴の奥さんはケンタン産まれとか言ってたからな……タープの知り合いでもおかしくはないか。

「ウチはバコアっちゅーてな、両親が迷い人やっただけの普通の人間や……因みにこの名前はレクタはんが着けてくれたんやで」

成程、迷い人同士で結婚するってパターンもあるのか。

まあ料理上手が呼ばれ易いとか言ってたしな、兄妹で迷い込む事があるなら夫婦で迷い込むケースもありそうだとは思ってたけど。

「おお誰かと思えばバコアかいな、結婚したんなら知らせの一つもよこさんかい」

「いやぁ堪忍なレクタはん、旦那の仕事が軌道に乗るまではって思っとったんや」

「で、兄貴……仕事の方はどうなんだ?」

「まぁ少なくとも食うには困らんぐらいにはなったわ……ってかお前はどうなんや?」

「有難い事にベーコンがよく売れてるから心配はいらんぞ」

「因みにバコアはワイやカアチャとも張り合える酒豪でもあるんやで」

兄貴の嫁はカアチャと同じタイプだったか……納得した。



全員が集まった所で近状やら経緯やらを語ったんだが……やはり可愛い妹は兄貴に対してぎこちない所があるな。

ま、兄貴が可愛い妹を避ける理由はなくなっているから少しずつでも慣れていけばいいだろう。

時間ならあるし急ぐ必要はない。

「まさか旦那の弟はんが、あの永遠の生娘とまで呼ばれたタープはんと結婚するとはなぁ……驚いたで」

「しかもダークエルフの嫁まで貰うたぁビックリしたわ……」

兄貴に言われるのは釈然としないが俺自身もビックリしたぐらいだからな……無理もない。

ってか何だその永遠の生娘とかいう二つ名は……

「しかもこのベーコンっちゅーんか?ペグはんからお裾分けされたこの酒に合う肉を作ったんも弟はんかいな?」

「ベーコンは調味料だが、ダニエルさん……あー、ジョニーさんの親友が作り方を教えてくれたんだ」

「ベーコンが調味料たぁ初耳なんやがまあええわ、ワイ等が食ったんは鮮って文字の焼き印が押されとったんやけど……これは梅かいな?」

「鮮の字はマレス……俺の弟子が作ったベーコンだな」

「おー、ジョニーはんに誘われた時にもおったペグはんの娘さんやな……確かにこっちのが微妙に美味い気ぃするわ」

ふむ、マレスのベーコンも中々いい評価じゃないか。

やはりあんこうを食いに行った時にでも腕を振るって貰おう。



よし、人数分のトルネードステーキが焼けたな。

タープとマリアはしっかり火を通さなきゃならんのだがステーキを食いたいと言ってたからリンゴの果汁に漬けた薄切りを複数枚重ねて、合間にベーコンを挟んで柔らかくしてみたぞ。

ビーフカツで培ったやり方だが役に立って良かった。

「ほな兄ちゃん、冷やしといた酒も出してぇな」

「あ、あのモンターとかいうワインですね」

氷はエビフライに作って貰ったからな、タダなのは本当に助かる。

って兄貴の目の色が変わった?

「これは!モンラッシェの95年……やと!こないな名酒を、この世界で拝めるたぁ思わんかったで!」

このスペルはモンラッシェって読むのか……

「これってそんなに有名なのか?」

「ドアホ!モンラッシェはディケムやブリオンにも負けない世界最高峰のワインや!」

「因みにこのワインは1本11万やったで」

たっか!?

俺のお気に入りのバーボンが税込で5本も買えてしまうじゃないか!

てか本当にワインは高いよな……だからこそ避けてた部分もあるけど。

「例の分体が酒豪って話は聞いたけど、月にどんだけ使ってんですかね?」

「こないな高い酒を、好きやからって理由だけじゃ毎月なんて買えへんよ……精々年1やね」

成程、誕生日辺りにこういう酒を買う為に日々の仕事を頑張る、って所か。

「となると兄貴は何でそんなに詳しいんだ?」

「酒はワイの唯一の趣味やからな、ワインを始めとしてビール、テキーラ、バーボン、日本酒と色々調べては飲んどったわ……まあ当時は学生やったから高が知れとる安酒ばっかしやったがな」

「お兄さん、未成年飲酒してたんだね……」

まあここは日本じゃないし、時効も成立してるだろうから許してやれ……

「というか法律で未成年はお酒を買えない筈なのに、お兄さんはどうやって買ってたの?」

「そこはまぁ……ネットのお陰って奴やな」

……ああ、たまにクソオヤジ名義の荷物を兄貴が自分の部屋に持って行ってた時があったのはそれか。

仮にあの時知ってても飲もうとは思わなかったろうが勿体なかったと考えてしまう。

「ああせやった、梅夫は元の世界での買い出しが出来るんやろ?ほんならホップは頼めるか?」

ホップ……ああ、ビールを作るのに欠かせない植物だな。

確か苗ならホームセンターのハーブのコーナーにもあった筈だし、買い出しをしてくれてるトゥール様もこの場に居るけど。

「買うんは構へんけど、届くんは早くて3日後やで?」

「さよかぁ……まあでもビールがあるんとないんじゃ風呂の楽しみが違うからなぁ、頼んますわ」

「ほんなら出来たビールはウチにも飲ませぇや」

何だかんだでトゥール様も酒が好きだよなぁ。

だが風呂上がりのビールが飲めるとなれば幾らでも買うしかないだろう。

タープとマリアの出産が終わらなきゃ飲めんのは変わらんが。

「ほな前払いの手付金代わりに去年仕込んだ、カミはんが育てたリンゴから作ったカルヴァドスをやるわ」

「カルヴァドスだと!リンゴの酒について聞いてみたいと思った矢先に手に入るとは!」

「ホンマはもうちょい前から作りたかったんやがなぁ、品種のせいやろうけどカミはんのリンゴやないと美味く作れんでな……大量生産は出来へんからお得意様に配る分しかあらへんのや」

確かに、オレンジやラズベリーは酸味が強いのにやけに甘いリンゴばっかりだからなこの世界……

酒やお菓子にするなら甘酸っぱいリンゴがいいとか聞いた事があるし、きっとそういう事だろう。

だが問題は……

「お兄ちゃん、まさかこのリンゴのお酒を酢にする気じゃないよね?」

「やはり狙っていたか可愛い妹よ……だが製菓材料にするのもどうかと思うぞ?」

カルヴァドスは日本でもよく製菓材料として使われているからな……特にチョコレートなんかと相性がいいらしい。

この世界でチョコレートは見た事がないけどな。

「キャリちゃん、このリンゴのお酒があれば美味しいスイーツが作れるんだよ」

「お菓子食べたい!」

ぐっ、キャリを味方に付けるとは姑息な手段を……

だが俺に対して効果は絶大だ。

「落ち着けや、ほんならホップと引き換えでまた用意したるわ」

ならいいか……今回は可愛い妹に譲ってやろう。

逆にフィオレさんに目を付けられる前で良かったかもな……仮にこの場に居たとしたら速効で酢にされて、ハンバーガーを作らされていた可能性が高いし。
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